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ノーミュージック・ノットライブ  作者: 桜崎あかり
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最終話:もう一つの可能性と


 3月3日、2月下旬に決定したガジェットの増産がようやく軌道に乗ったという事もあり、10万台のガジェットは無事に出荷された。


【やはり、先日のつぶやきはデマだったのか?】


【入荷制限がかかった事は事実らしいが、公式サイトによると製造段階でのトラブルらしい】


【つぶやきに振り回された結果が、このような事態を生み出したという事か】


【これも夢小説勢やBL勢が自慢する為に――】


【超有名アイドル勢の金の力で全て解決するスタイルは、排除しなくてはいけないのに】


 色々な事がつぶやきサイトに載っているのだが、これらの中にBOT等を利用して拡散された偽情報も混ざっている。


 これらを見極めなければ、ネットを扱う事が出来ない。それらは既に何度か言及されて来たはずなのに……。


 その状況で、あるつぶやきが全ての状況を一変させた。それを送った人物は誰なのかは分からない。


 その理由は、このつぶやきを書いた人物が既にアカウントを消している事もあるのだが……。


【つぶやきサイトは超有名アイドルのブラックファンによって全てが捻じ曲げられ、彼らにとって都合の悪い存在を駆逐する為のブラックリストに利用されている。それらが政治に利用されれば、日本は確実に超有名アイドルコンテンツ以外の存在を許さないディストピアになるだろう】


 このつぶやきを受け、警察やアキバガーディアンが本社を調査した結果、運営会社が超有名アイドルの芸能事務所と内通している事が判明する。


 これによって超有名アイドルの芸能事務所は解体される事になった。



 それから数日後、つぶやきサイトは閉鎖された。


 しかし、ブログ等をメインにしたSNSは健在であり、まとめサイトやネット炎上勢、悪質マナーが指摘されるブラックファンは別の場所を利用して情報を配信していくだろう。


 やがて、超有名アイドルは他のコンテンツを潰す為の手段として利用され、音楽は人を絶望させる存在に変わろうとしていたのだ。


 それこそ、「ノーミュージック」がネット上で叫ばれる現状に。


「超有名アイドルが音楽業界をダメにしたのは明白だ!」


「今こそ、超有名アイドルに天罰を!」


「超有名アイドルに新罰を下せ!」


 こうしたデモ活動が超有名アイドルの劇場前で行われ、中にはモデルガンで武装するようなケース、フーリガン化するようなケースも現れ始め、遂には海外にニュースが配信されると言う異常事態になった。


『日本の一部アイドルグループファンが、まるで海外サッカーのフーリガンを思わせるような事態に――』


『このグループは海外では一部の地域のみでしか人気がなく、何故に彼らが暴動を起こすのかと疑問を持つケースが――』


 このような報道が出る度に、超有名アイドルファン以外の勢力は「彼らのせいで日本のコンテンツ価値が下がる」と風評被害を嘆く声が聞こえるようでもあった。


 こうした状況を踏まえ、ブラックファンが情報配信の場所としてテレビ局が利用されると考えた動画サイト側は、ある切り札を出してきたのである。


『音楽ゲーム実況者によるスペシャルライブ開催』


 超有名アイドルの様な拝金主義や利益至上主義を悪化させたようなコンテンツよりも、ユーザーの意見を取り入れて進化していくコンテンツ、それが動画サイト側には有益であると判断してのライブ開催となった。


「アーティストによるライブではなく、実況者によるライブ? これは、何かあるようにも思えるような―」


 公式サイトでの発表をみた天津風は何か裏がある可能性が否定できないと考える。


 しかし、つぶやきサイトは閉鎖されている為に一連のまとめを確認する事は出来ない。


 しかし、それでもこの世界にはアカシックレコードという物がある。そう考えた天津風はアカシックレコードのサイトへとアクセスを試みるのだが――。


「誰もが考える事は同じと言う事か」


 結局、午前11時の段階ではサーバーが混雑しているという事でサイトは表示できず。


 仕方がないので、しばらくは草加市内のアミューズメント施設で時間を潰す事にした。



 3月10日、一連の事件に関する影響は未だに引きずっているのだが、全く影響していないジャンルが存在した。


 それは音楽ゲームだった。ここからが、全ての出発点。


「実況者のスペシャルライブ、どのような形になるのか―」


 草加のアミューズメント施設にいたのは、私服姿の天津風である。


 しかし、天津風の知名度は高いはずなのに、人が集まってくるような気配はない。


「どちらにしても、ネット上ではノーミュージックを掲げる勢力が出ている以上、簡単には実現しないのかも」


 帽子を深く被って素顔を隠しているのは、こちらも私服姿の島風彩音である。


「ノーミュージックの勢力は、噂によれば夢小説の勢力が暴走しているという噂もある。まとめサイトに書かれているが、今となってはサイトもあてにはならない」


「現状で音楽ゲーム勢を叩こうと言う動きにはならないだろう。海外の状況をみると、超有名アイドルに正義はないという流れになっているようだ」


「しかし、海外アーティストがこちらの音楽事情を理解して対応してくれるかは不明だ。ミュージックカードの件もあるし、それ以外にも色々な部分で海外は誤解している個所もある」


「誤解? CDチャートの件とは違うのか?」


 天津風は島風の言う誤解に関して思い浮かぶ要素がなかった。


 CDチャートにミュージックカードも含めた結果、ミュージックカードの大人買いでCDチャートを水増ししている現実が明らかになり、結局はCDチャートからは除外される結果となった。


 島風の言う誤解とはCDチャートとは根本的に違う要素らしい。


 そして、島風が自分のタブレット端末で表示させたサイトは、何とアカシックレコードだった。


「日本の音楽事情は日本でしか解決できない。そうアカシックレコードで断言されている。下手に海外勢が介入して、日本独特の文化を崩される事が懸念材料らしいが」


 島風の言っている事に対し、天津風は微妙な表情をする。一体、これがどういう事なのか?


「超有名アイドル勢の出現も、元々は音楽業界にビジネスチャンスを発見した事による物らしい。ここでいうビジネスとは、定着させる方ではなく消耗品としての方だ」


「消耗品? ひどい例えをするのね」


「他の有名アイドルグループも似たような展開にはなっていると思うが――フジョシを自在に操り、ネット炎上勢にしようと仕掛けている芸能事務所もあった位だ」


「ライバルを潰すのに、そこまでする必要性はないと思うけど」


「一般人の視点では、そうなるな。しかし、これがアカシックレコードに触れた者だと事情が違ってくる」


「どういう風に事情が変わるの?」


 天津風が島風にどのように変わるのか尋ねた所で、ミュージックガジェットの順番が空く。


 そして、島風は天津風にタブレットを渡す。


「どう変わるかどうかは、ユーザーに託すしかない。アカシックレコードに触れてどのような考え方をするのか、どのような結論を出すのかはこちらが干渉できるような物じゃない」


 島風の言葉の意味は理解できなかったが、超有名アイドルが自分達の都合だけを押しつけて莫大な利益を生み出そうと考えた結果、今回の破滅に向かった事だけは理解できた。



 同日午前11時35分、島風は巧みなプレイで2曲目もクリアし、次は3曲目をプレイしようと考えていた。


【エクストラ楽曲が解放されました】


 3曲目の選曲をしようとしていた中、インフォメーションが表示され、解放された楽曲にカーソルが固定された。ただし、このカーソルは位置が固定されているだけで、他の曲を選曲出来ない訳ではない。


「もしかして、一般公募曲が追加され―」


 島風はホームページで告知のあった一般公募曲が追加された物とばかり思ったのだが、カーソルの先にあったのは違う楽曲だった。


 曲のジャケットには2人のアイドルが今にも歌い出しそうなコスチュームを身にまとい、マイクを手にして何かを訴えているようにも見える。


 そして、改めて曲名を見ると、そこに書かれていたのは予想外の曲名だった。


【並行世界線のアイドル達へ】


 楽曲名を見た直後、島風はふと泣き出しそうな顔になっていた。しかし、涙を見せる訳にはいかない。


 そして、島風はイージー、ノーマル難易度の中からノーマルを選択する。


 ハード難易度は曲を一度クリアしないと解禁できないようだ。


【ライブモードをオンにすると、連動した動画サイトでライブ放送がスタートします―】


 他にも色々な注意事項が記載されている。2曲ではライブモードをオフにしてプレイしていた島風だが、今回はプレイモードをオンへ設定。


【ライブモードがオンになりました。待機時間が0になり次第、ライブがスタートします。ライブモードは録画されますので、プレイマナー等にご注意ください】


 待機モード中、プレイマナーに関する注意や動画の利用範囲等に関しての注意事項が表示されている。


 これらの注意事項は2回目のライブモードを指定する際は省略可能だ。


 ただし、1回目はマナーに関しての注意に同意をする事がライブモードの使用条件となる。


 そして、島風のライブが遂に始まった。


 マイクなどは持参していない為に実況モードは使用できないが、彼女のプレイは動画サイトで見る事が出来る。


 曲のイントロが流れた辺りで、単押しノーツが中央から周囲へと流れていく。


 どうやら、ノーツの流れ等も曲によって変動させる事が可能らしい。


「この曲は、もしかして―」


 家で動画サイトのライブ映像を観戦し、そこで島風を確認したのは五月雨涼香だった。島風がプレイしている曲には聞き覚えがあったからだ。


「これが彼女の出した答えか」


 都内にある動画サイトのビルでは、一連のライブ映像が流れているのだが、その中でも島風のプレイ映像にギャラリーが集中している。


 そして、その光景を見てつぶやいたのは動画サイトの男性スタッフである。


 Aメロでは曲に忠実な単押し、長押しのロングが出てくる。特に譜面詐称等の様な声はない。


 それを上手く捌く島風、実際にプレイを動画で見ている視聴者からは「頑張れ」や「負けるな」、「諦めるな」等のコメントも飛び交う。


「その声には、行動で答える」


 島風には別モニターから生放送サイトのコメントが確認出来るようになっているが、それらをチラ見するような余裕はない。


 本来ならば、この辺りはゆっくり等の様な音声案内を使うべきだが、ゲーセン内での騒音問題もあって実装は見送られた。


 Bメロも譜面は単押しが続くのだが、連打と言うような配置は特にない一方で、曲のBPMによって若干の押しにくい箇所も一部で見受けられる。


 島風の捌き方にも若干だが何時ものキレがない。


 集中力は持続している一方で、何時もの島風ではないと他の音ゲーでのプレイ光景を見た事のある視聴者が指摘をしている光景も見受けられた。


 メインサビは今までが序の口と言わんばかりの滝とも例えられるロングノートが連発する。


 これにはさすがの島風も1個、2個と取りこぼしてしまう。


 このままでは――と島風は考えていたが、自分は一人でプレイしているのではないと自覚し始めると、再び息を吹き返したかのようにロングノートを拾っていく。


 ラストではフィナーレと言う事もあってか、ノート数は少なめ。この辺りでゲージが減っていたら回復するのは絶望的だろう。


「何とかクリアできたみたいだけど――」


 プレイを終えた島風には達成感があった。今までの音楽ゲームでも何度か経験した事がある。


 しかし、今回の達成感は今までを越えた物であるのは間違いない。


「これが、ライブ音楽ゲーム――」


 マッチングプレイと言う概念で複数人プレイと言う音楽ゲームは過去にもあったが、今回は音楽ゲームをプレイしていないユーザーでも動画サイトのライブ中継で見る事が出来る。


「動画サイト側の考えている実況者ライブの真相、分かったような気がする」


 島風は今回のプレイで、実況者アイドル化計画を思わせる一連の動きに対して疑問を抱くようになった。


 結局は、これも超有名アイドルとやっている事が同じなのでは――と。


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