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ノーミュージック・ノットライブ  作者: 桜崎あかり
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第2話:ガジェット完成秘話


 午前11時、他のプレイヤーがプレイしていた動画が動画投稿サイトへとアップロードされた。これは公式が投稿した物であり、ロケテストでプレイ動画が出回る事も異例中の異例と言える。


【他の音楽ゲームと差別化出来ているかと言われると、プレイ動画だけでは見えてこない】


【この画面表示に6ノーツ方式だと、似たようなゲームが実際にある。コピペ機種とは言われないが、評価は厳しい物になるだろう】


【中心の六角形にノーツが来た所でタッチする方式は確かに存在している。こちらの場合は、内側から出てくるノーツを外周のラインにタイミングよくタッチと言った具合か?】


【それでも似た機種は存在する。しかし、ロケテストで使用されている筺体にはパネルが7つあったという話もある】


【つまり、ノーツは6つなのに使用するパネルが7つあるのはおかしいと?】


【現地によると、7つ目のボタンはアクセスボタンと言うらしい。どのようなシステムなのかは不明らしい】


 動画投稿サイトに投稿された動画を見ていたネット住民が、つぶやきサイトでゲームの感想を述べる。しかし、彼らは実際にプレイしている訳ではなく、俗に言うエアプレイ勢とも言われている。



 午前12時、お昼と言う時間帯だが、整理券をもらったプレイヤーが全て捌き切れている訳ではない。2曲設定になっているのだが、それでもゲーム説明等を含めて1人に付き10分位は時間がかかる。


「まもなく2台目の準備も完了します。12時30分からは2台体制で―」


 スタッフによると、午前10時ごろから調整していた2台目の方も12時30分辺りから稼働できるらしい。これで何とか整理券を配った100人がプレイできる環境が…とスタッフは考えているようだ。


「2台稼働しても100人を捌き切れるかどうか不安だな」


「午後6時になると未成年はゲーセンに入る事が出来ないが、この場合は問題ないだろう」


「どういう事だ?」


「この整理券は3日間の間まで有効になっている。つまり、午後6時を過ぎて入店出来なかったとしても翌日に持ち越せるようになっているようだ」


 彼らが手にしている整理券、有効期限を良く見てみると『ロケテスト開催の3日間のみ有効』と書かれている。更には説明パネルにも2日目は3台に増台予定と追記されていた。



 午後3時、既に何人かのプレイ動画が動画サイトにアップされている。これによって、ロケテストでプレイ可能な楽曲は全て出そろった事になるのだが、


【オリジナル楽曲しかないのか】


【ロケテでプレイしているプレイヤーがオリジナルだけしか選んでいないとか?】


【そうではないだろう。元々オリジナル楽曲だけらしい】


【今の時代でオリジナルだけで勝負と言うのも、かなり度胸があるな】


【有名CDチャートでランクインするような曲はいれないにしても、ネットで話題の楽曲を入れれば一定の客層は獲得出来るのに】


【炎上リスクがあってオリジナルオンリーかもしれない。それだけライセンス曲を入れるのが現状では適切ではないと判断したのだろう】


【炎上リスクは超有名アイドルの楽曲だけじゃないのか?】


【オリジナル楽曲だけでも『物足りない』と言う音ゲーマーは存在するかもしれない。それを踏まえると、オリジナルだけにした理由が分からない】


【公式ホームページには新型ガジェットが何か関係ありそうな記述もある。現状では詳細不明と言うのが正解かもしれないだろう】


 ネット上ではオリジナル楽曲だけにした理由を推測する動きもあったが、ロケテスト終了時に発表と言う可能性もある為、現時点では全てが憶測になってしまう。


 そう言った流れもあってか、途中でガジェットの話題に関しては触れなくなってしまったのである。



 午後7時、草加市内の自宅へ戻ってきた五月雨涼香はパソコンでネット検索を初め、そこから今回ロケテストが行われた音楽ゲームに関して調べている。


「ロケテスト自体は午後11時まで行われているのか……」


 整理券100枚があっという間になくなったのだが、今でも半分近くの整理券が消化されていないという状態である。


「それにしても、音楽ゲームの何処が楽しいのか」


 五月雨は音楽業界自体には特に興味がなく、友人の話題合わせにしかチェックしていないというべきか。その為、音楽ゲームにも興味は沸かなかった。


 しかし、そこに使用されていたガジェットに関しては興味を持っていた。携帯音楽プレイヤーを音楽ゲームへ接続し、プレイヤー内の楽曲でゲームをプレイする事が出来る。


 それが自分のプレイしているロボットゲームで実現すれば――。しかし、ロボットゲームや格闘ゲームの場合はバランス調整が難しい可能性もあって、こうしたガジェットを用いたシステムは歓迎されないだろう。


「そう言えば、このガジェットってどのようにできたのだろうか」


 五月雨はガジェットに関して気になり始め、次第にガジェット誕生秘話の書かれていたゲームメーカーのサイトまでたどり着いた。


 このガジェットが出来上がるまでには、ロケテストが行われる2ヶ月ほど前まで時間をさかのぼる。その当時にはガジェットと言う概念は取り入れられていなかったからだ。


 実際、本来出す予定だった仕様で完成した音楽ゲームをスタッフが試しにプレイするのだが、その顔は少し硬い表情をしている。確かに音楽ゲームとしての完成度は高い。


 しかし、他の音楽ゲームと差別化できる個所が存在するかと言われると微妙な為か、数回プレイしただけで飽きられてしまう可能性は非常に高かった。


「何か新しい要素が欲しい所だが――」


 スタッフの一人が切り出したのは、今のままでは既存の音楽ゲームと変化がない事だった。オリジナル曲を強調するにしても、システムで差別化しないとアピールどころか、数か月で撤退と言う事もあり得る。


 音楽ゲームは格闘ゲームよりも1クレジット辺りのプレイ時間は長い。格闘ゲームの場合は、乱入されたら初心者の場合はすぐに終了と言う事も少なくない。


 しかし、こうした概念は音楽ゲームでは非常に少なく、プレイに不慣れな人物でない限りは1曲で終了と言う事はない。


 そう言ったシステムでは受け入れられない気配を感じたメーカー側は、2曲保証、あるいは1クレジットで3曲プレイ可能と言った仕様変更を行い、その結果として格闘ゲームよりもインカム数が低いという結果を生み出した。


「メダルゲームのようなシステムはどうでしょうか?」


 最初に別のスタッフが切り出したのは従来の音楽ゲームとは違い、メダルゲームの様な要素を取り入れる事だった。しかし、メダルゲームに関しては市場拡大も非常に厳しい為か却下された。


「キッズ系でカードの払い出しが行われて、それを使った物が現在も堅調のようです。それを取り入れては?」


 音楽ゲームでもカードの払い出しが行われる機種があったが、そこに付加価値を見いだせるようなアイディアもなく、システムが凍結された例もある。こちらも没となった。


 色々と対案を考えるが、既存の焼き増しばかりではネット上の反応は冷たい物ばかりになる……という懸念もあり、スタッフは慌てているようにも感じられた。


「このメール、差出人が不明ですが――」


 スタッフの一人が、パソコンに届いたメールの文章をタブレット端末へ移動し、それを集まったスタッフに見せる。すると、周囲からは「よくやった」と言わんばかりの雰囲気になっていく。


「この仕様ならば新たな音楽ゲームとして売り出せる。確かに録画機能と言う概念は他の作品でもあったが、この発想はなかった」


 そして、わずか数週間弱で仕様書通りの筺体を完成させ、何度かの調整を行ってロケテスト専用筺体が完成した。


「収録する楽曲は、このままでも問題はありませんね。譜面は筺体に合わせて再調整が――」


 筺体の方は形状も少しは変更になった程度だが、インターフェイス等は大幅に変えてしまった為、実際にプレイする譜面はシステム合わせで再調整を余儀なくされる。


 一方で、楽曲に関してもスタッフが何やら提案があるらしい。


「実は……楽曲の方も仕様書と一緒に添付されていたようです」


 そして、実際の曲をゲームスタッフ総出でチェックする。音楽ファイルを検索した結果、特にウイルスなどは検出されなかったので、安全なファイルと言うのは確認された。


 楽曲は全部で5曲。それぞれのジャンルも異なり、クラシック、トランス、ポップス、ハッピーハードコア、ハンズアップの5種類。音ゲーでは目撃例の多いジャンルが揃っているのも何か狙いがあってのことだろうか。


「トランス、ハンズアップは他の音ゲーでも見かけるタイプだが、クラシックは全く違うな」


「既存曲のアレンジかと思ったら、単純なアレンジとも異なる。音ゲー仕様に合わせたとも言える」


「しかし、トランスはごく普通に聞こえたな。音ゲートランスと一般的なトランスでは異なる部分もあるのかもしれないが」


 その中でもスタッフの興味を持ったのはポップスだった。超有名アイドルのリリースしているようなベタなアイドルソングとは違う曲調、テンポ、リズムなどを感じている。


「曲のサイズも音ゲー仕様に上手く落とし込んでいる」


「これならば、コンポーザーとしても迎え入れてもいいレベルだ」


 スタッフからは絶賛の声が聞かれたのだが、実際の差出人が不明の為に返事を書こうにも書けない状況である。



2014年12月某日、本格的なロケテストを前にゲリラロケテストを秋葉原のゲームセンターで行う事になった。音楽ゲームにとっては、秋葉原でのロケテストは恒例行事とも言える。


【ガジェットミュージック】


 この作品名が広まり始めたのも、このタイミングだった。しかし、この時は最初のロケテスト程の知名度は全くなく、10人位が集まる程度だったのである。


「これで大丈夫でしょうか?」


「我々は音楽ゲームのリリースでは新鋭に近い。それを踏まえれば、10人程がプレイしてくれるだけでもありがたいだろう」


「0人と言う事もあり得たと」


「そうなるだろうな」


 ロケテストの様子を見ていたお忍びのスタッフが話あっている。その中の話でもガジェットの技術を他のゲーム等に使えたのではないか、と言う話題が出ていた。


「現状では音楽ゲーム以外で行うと、ゲームバランス調整が大変な事になるだろう。だから、特に大きな調整が不要な音楽ゲームで扱う事にした」


「実際、音楽ゲームでも一般公募で楽曲を募集した例はありますが、この場合は携帯音楽プレイヤーの楽曲をそのまま流せると」


「さすがに超有名アイドルの楽曲等は使用料が高くて採算が合わない。一定の条件をクリアした楽曲限定になる可能性は高いだろう」


「その部分さえクリアできれば―」


「違法にダウンロードした楽曲もプレイからは対象外になるだろう」


「それもそうですね。こちらが違法ではないと認定した楽曲に演奏許可を出していき、それを携帯音楽プレイヤーにダウンロード、その後に音楽ゲーム筺体へ接続してプレイできるようにする」


「譜面に関しては自動生成するプログラムをあらかじめプレイヤーに入れておけば、面倒なプロセスを省いてすぐにプレイは出来るだろう」


 その後も話は続き、現在のガジェットミュージックに使用されるガジェットが完成したと言う。

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