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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第6時限目 内緒のお時間 その6

「マジで? 家出?」


「にゃはー、まあそこまで酷いものじゃないけどねー」


「いえ、むしろどちらかというと勘当に近いので、もっと酷い状況だと思いますよ」


「ってか、小山さん冷静に言ってるけど、1番ヤバイのは小山さんだよね!?」


 岩崎さんが私の方をがっちり掴んでツッコミ役に回っているなんて珍しいなあ、なんてことを思いながらあははと笑顔を取り繕う。


 片淵さんが正木さん、岩崎さんに電話を掛けて事情を話したら、予想通り2人はすぐに飛んできた。片淵さんはもちろんのこと、2人も今日は寮に泊まることにしたようで、食事もそこそこに寮の私の部屋に全員集合していた。既に日は傾き、ほんのりと朱が残る暗がりが窓の外に広がっている。


「ホントにねー。小山さんが突然うちのお母さんに喧嘩売り始めたのにはちょっとびっくりしたけど」


「すみません」


「んにゃー、良いよ良いよ。むしろ、こっちがごめんねだし」


「でも、小山さんの気持ちもちょっと分かります。いくらお母さんでも言い過ぎだと思いますし」


 私に同調してくれる正木さんの言葉に、


「いや、分かると言っても流石にちょっとヤバくない? 学校辞めさせるとか」


 と眉をハの字にして岩崎さんがぼやく。


「大丈夫だよ、きっと。だって、辞めさせるっていっても強制力は無いし……」


 やや楽観した正木さんの言葉に対して、困ったときに片淵さんが決まって言う「あー……」が入ってから言葉が続いた。


「うちのお母さん、結構顔が利くから他の生徒のお母さんたちも巻き込んでの話になっちゃって、引くに引けなくなるかもしんないねー……」


「そんなに友好関係広いんですか」


「うちのお母さん、一時期PTA会長とかもやってた時期あったし、交友関係は広いからねー」


 友達のお母さんに対してこう言っては何だけれど、中々に厄介な人みたいだなあ。


 それにしても、この話の流れで「片淵さんなら勉強頑張れば大丈夫だよ!」っていう話に流れず、ずっと「私が辞めるかもしれない、どうしよう」という前提で話が展開されているのはちょっとどうかと思う。本人含めて。


「でもまあ、こうなっちゃったものは仕方がないし、頑張ろー」


 1番の当事者がそんなことをにへらっ、と笑いながら言うから、私たちは毒気を抜かれ、つられて笑う。


「……って都紀子がそんなんじゃ駄目なんだって!」


 笑った後にノリツッコミならぬ笑いツッコミした岩崎さん。


「いやあ、そうは言ってもねえ……まだテストまで結構時間あるし、今から慌ててると息切れするだろうから、まだ肩の力抜いとく時間かなーって」


「そうですね」


 GW含めて後2週間くらいはある。その間にどうにかすればいい。まあ、その2週間はちゃんと遊びも含めての時間だけれど。


「じゃあ、そろそろ勉強を――」


 言い掛けたところで、私の電話が鳴る。スマホの表示には『益田寮長』の文字。


「電話? 誰から?」


 岩崎さんの言葉に、私は短く「寮長さん」とだけ答えてから小走りに部屋を出る。


「はい、小山です」


『ああ、小山さん。夜分遅くにすまないが、ちょっと寮長室に来てもらえるかな?』


「えっと、はい。構わないですが……もしかして、片淵さんの件ですか?」


 私が恐る恐る尋ねると、


『ああ、そうだ。理事長から話があるそうだ』


 との答えが返ってくる。やっぱりそうですよね……って理事長さん!?


「え、り、理事長さんからですか?」


 そこまで話が行っているとは思わなかった。


 益田さんには突然押し掛けたというのもあるからか、片淵さん自身が大まかに事情を話したから、その内に……GW明けには話が通るかと思ったけれど、まさかGW初日の夜の間に理事長さんまで話が通じているとは思わなかった。今までも益田さんはかなり行動が早い人だとは知っていたけれど……。


 ちなみに、片淵さんは私を気遣ってか、私と片淵母とのやり取りについては益田さんに話をしていなかったから、そちらの方は大丈夫だと思うけれど。


「えっと……片淵さんは……」


『彼女は呼ばなくて良い。いや、というより1人で来て欲しい。彼女の目の前では話しにくい内容もあるからな』


「……なるほど。分かりました。すぐに行きます」


 電話を切って、心を落ち着かせるために一呼吸置いてから部屋に戻ると、


「もしかして今日の話?」


 直ぐに片淵さんが不安そうな表情で尋ねてくる。片淵さんのこんな表情も珍しいかな。


「みたいですが、大丈夫です。ここに泊まる際、片淵さんが寮長さんにした内容が理事長まで通ってしまったみたいなので、その確認だけだと思います」


「理事長が? じゃあ、アタシも――」


 言い掛けた片淵さんの言葉に私は首を振って押さえ込める。


「いえ。私1人で来て欲しいと。多分、本人からよりも、事情を知っている他人からの方が客観的な意見を聞いた方が良いからだと思いますが」


 それっぽいことを言ってみたけれど、実情は他人どころかむしろこの騒動に関しては張本人みたいなものなのだから、他人が云々って話はおかしいのだけど。


「とりあえず、ちょっと行ってきます」


「ごめん……小山さん。よろしくね」


「小山さん、何かあれば言ってくださいね」


「理事長に何か言われたって、あたしたちがついてるからね!」


 3人からの激励とかその他諸々の言葉に「ありがとう」と応えてから、私は上着だけ羽織って寮を出て、一路寮長室へ。


 寮長室のチャイムを鳴らすと、


「ああ、いらっしゃい。待っていたよ」


 益田さんがフード付きパーカーとレギンス姿という少しラフな格好で出迎えてくれた。


「失礼します……あれ」


 導かれるまま部屋に入った先に、スーツ姿の理事長さんと咲野先生、そしてルームウェアと思われるくつろぎ姿の坂本先生までが集まっていた。先生大集合!?


「小山さんはそこに座ってくれ」


 益田さんに指差されたソファの端に座ると、早速太田理事長が、


「小山さん。単刀直入に聞きますが、」


 と急くような様子で話を始めたけれど、その様子を見た益田さんが即座に、


「真雪、飲み物を出すくらいまでは待てないのか? こんなに教師が集まった中に生徒1人だ、少しくらいは話を聞く準備をさせてあげても良いだろう」


 と窘めるような言葉を投げ掛ける。


「……確かに、そうですね」


 言ってから、理事長さんは大きく息を吐いて、ソファに深く腰掛けた。


 ……まな板の上の鯉とでもいうべき状況だからかもしれないけれど、益田さんが出してくれるリンゴジュースを受け取るまでの無言タイムの間は、実は時間が止まっていたんじゃないかって錯覚するくらいに長く感じた。


「……はい、大丈夫です」


 私がストローで益田さんに出されたジュースを4分の1くらいまでを一気に飲んでからそう言うと、背筋を伸ばして上半身を少し乗り出すようにしながら私の方を向いた理事長さんが口を開いた。


「小山さん、単刀直入に聞きますが」


 さっきの焼き直しをしながら、今度はその先の言葉も続ける。


「片淵さんのお母様と何か賭け事をしましたね?」


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