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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第6時限目 内緒のお時間 その3

手芸部に戻ると、再びしっちゃかめっちゃかされながら着替えさせられた。微妙にサイズの合わないところとかを調整されたけれど、彼女たちなりに満足のいくところまでいったみたいで、


「準お姉さま、ひとまず今日はここまでで大丈夫です。ありがとうございました」


 とお役御免の言葉が掛かったから、私はクラスメイト2人に挨拶をして手芸部を出る。


 手元のスマホ画面に視線を落とすと、思っていたほど時間が掛かっていないことに気づいて、私は寮に向かって歩きながら、正木さんか岩崎さんに連絡を取ろうかと悩む。夜には電話するって言っていたけれど、私から電話しても別に構わないような気もするし。


 あ、でもせめて電話するなら何処に行きたいかくらい決めておいた方がいいかも。学生の身であまり遠出は出来ないけれど、近場に何か良いところでもあったっけ。


「むむ……ん?」


 歩きながら小声で唸っていると、校舎の昇降口前で咲野先生と理事長が遠目に見える。何をしているのかな。


「咲野先生、太田理事長」


 少し気になったから、近づいて声を掛けると、


「……ん? ありゃ、小山さん」


「小山さん、どうしましたか」


 2人が話を止めて、ほぼ同時に私へ視線を向ける。


「いえ、お2人がこんなところでお話しされていたので、何かなと思いまして」


「あー、いや、小山さんには……あ、そっか、でも、うーん……」


 妙な自己完結と自問自答を繰り返しているように見える咲野先生に一旦視線を向けた太田理事長は、咲野先生ほどではないにしろ悩む仕草を見せた後、


「……小山さん、良いところに来てくれました。少しお願いがあります」


 と真剣な目で私を見る。


「え? まゆ……理事長、良いんですか?」


「ええ。小山さんなら大丈夫でしょう。彼女と一緒に居るところも良く見ています」


「でも、正木と岩崎は……」


「咲野先生!」


「す、すみません!」


 慌てて謝る咲野先生に、私の脳内で疑問符妖精が目を擦って起き上がり始めたけれど、こほんと理事長が咳払いをしたお陰で吹き飛ばされてしまった。


「片淵さんにこの資料を渡しに行ってもらえますか」


「え? あ、はい、構いませんが……」


 手渡されたのは少し大きめの封筒。中身は……流石に見ちゃ駄目だし、聞いちゃ駄目だと思うけれど、何やら大事の予感がするから、封筒を受け取る手も少し震える。


「……片淵さん自身から、このGWの予定は聞いていますか?」


 じっと封筒を見ていた態度で何か言いたいことがあったのか、理事長はそんなことを私に尋ねてきた。


「あ、えっと……はい。毎日家庭教師が付いて、勉強すると聞いています」


「それなら中身はお教えしても問題ないですね。その家庭教師のリストです。学校側から斡旋出来る家庭教師をピックアップしました」


 あっさりと中身を白状してしまった理事長に私は目を白黒させてから、再度封筒に視線を落とした。これが……?


「それで、それを彼女の家まで届けて欲しいのですが」


「でも、私彼女の家を知らなくて……」


「ここに彼女の家の地図があります。これを頼りに彼女の家へ向かってください。彼女の家には私から電話をしておきます」


「あ、はい」


「それではお願いします」


 頭を下げてはいるけれど、有無も言わさない太田理事長の言葉に、私はただただ頷くしかできなかった。太田理事長が校舎の方に去っていく背中を見送るようにしてから、咲野先生は私の耳元で言った。


「ホント、いつも小山さんに任せてばかりで悪いんだけど……片淵もちょっと色々あるみたいだから、相談に乗ったげてもらえると嬉しい。あ、でもあの子が相談してきたときだけでいいからね」


「分かりました」


「……うん。んじゃ、よろしく」


 いつもほどの軽さはないけれど、ひらひらと手を振りながら太田理事長の後をついていくように咲野先生も校舎に入っていった。


 さて、重要な任務を請け負ってしまった私は、再びうーんと唸りながら地図を見ながら校門に向かって歩く。


「2駅先かあ……」


 硬筆のお手本みたいな楷書で右左折時にランドマークになる建物の名称や簡単な絵が描かれていて、非常に分かりやすい地図だと思う反面、何処かでその文字というか筆跡に見覚えがあって、何処で見たか脳裏で記憶の道を辿るもすぐに断絶されてしまったから思い出すことを放棄。きっとあまり重要な話じゃないだろうから。


 それはさておき、私はてこてこと靴音を鳴らしながら学校の外に出て駅へ。本当は正木さんと岩崎さんに今から片淵さんの家に行くって電話で言いたいのだけど、理事長と咲野先生のやり取りからして、多分あの2人には隠しておきたいんじゃないかなって思うから、黙っておくことにする。きっと、いつかは本人の口から聞けるだろうと思うから。


「えっと……ここかな? え? ココ?」


 地図の指示通り2駅先で下りて、しばらく歩いた先、目の前に有ったのは広い庭と大きな駐車場がある白い大きな家。うちの実家から比べるまでもなく、豪邸と呼んでも十分だと思う装いの建物を目の前にして、私は思わず混乱ゲージがぎゅいんぎゅいんと音を立てて伸びていた。


 再度手元の地図を確認しても『大きな白い家』という記載はあるし、町名にも間違いはない。


 もしかすると、片淵さんが自分のことをあまり語らないのは、お金持ちだってことがバレたくなかったからなのかな? 知ったからって、正木さんも岩崎さんも付き合い方を変えないと思うけれど……。


「鳴らして大丈夫かな……?」


 確か、片淵さんは今日は何か用事があるからと早く帰っていたし、もしかすると取り込み中かもしれない。


 ……でも、中身からするとこれは片淵さん本人ではなく、片淵さんのお父さんとかお母さんに渡す必要がある紙だから、別に片淵さんが居なくても構わないのかな。


「……よしっ」


 しばらく躊躇したけれど、意を決してチャイムを鳴らしてみると、しばらくの無音の後に、インターホンから落ち着いた感じの女の子の声で「はい」と聞こえる。


「あ、あの、私小山準と言います。西条学園の太田理事長から、書類を受け取ってきたのですが……」


 私がはっきりと聞こえるよう、徐ろにそう言うと、インターホンからもしばらく躊躇う吐息が聞こえてから、


「少々お待ちください」


 と淑やかな声がして、インターホンが切れた。今のインターホン、誰だろう。凄くお嬢様みたいな上品な感じだったけれど、お姉さんとか居るとか言っていたかな?


 ガチャリ、と家の扉が開いて、現れたのは綺麗な白いフリルの服を着て、たおやかな動きで歩いてくるポニーテールの小さな少女だった。


「あ、あの……」


「良くいらっしゃいました、小山様」


「え、あ、はい」


 顔は私の知っている片淵さんそっくりなのだけど、その他――髪型、服装、仕草に至るまで、申し訳ないけれど全て片淵さんとはかけ離れている。い、妹さん……とか……?


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