第30時限目 遊歩(ゆうほ)のお時間 その11
どうやら『紅葉ロード』と名前が付いていたらしい、私たちの寄り道ルートは最初、そんなに人も多くなかったのだけれど、お昼ご飯の後の腹ごなしに散歩をする人が多くなってきたのか、それともこれくらいの時間から滝へ向かう人が増えたからなのか、何にせよ徐々に混雑してきた。
そうすると、比較的小柄なメンバーが多いこの班は人波に埋もれてしまう……のだけれど、その中で1人だけ突出して背が高い人間が1人。
「いやー、準にゃんが背高くて助かったー」
「うんうん。準を探せばはぐれないしね」
真帆と都紀子が両脇を固めつつ、満足そうに頷き合う。
……なるほど、そういう意味でも私がリーダーだったのは正解だったのかな。
私を目印にすれば……というか密着しておけばはぐれないで済む! と分かってから、3人が私に密着して行動していたのだけれど、寄り道ルートの間は人が多く、滝への本筋ルートに合流してから少しだけ人が減り、また滝近くで人が増える、という感じだったから回り道以降の私たちはほぼ団子になって歩いていた。
観光地とはいえ、本当に人が多いなあ……と若干辟易しているところはあったけれど、ここはまあ仕方がない。
「……」
私の身長について、真帆と都紀子が助かった談義に花を咲かせていると、何故か正木さんだけは話に入ってこないようだった。
躊躇っているというか……ちょっとおろおろしている感じ?
……あ、もしかして、身長が高いことを、私が気にしていると思っているのかも?
確かに、人によっては身長が高いことを殊更強調されたら、あまり喜ばないかもしれない。
私の場合は……というと。
「この身長が皆の役に立ったなら何より」
身長のことについては気にしていないよ、ということを念の為アピールしたら、正木さんの表情が綻んだから、どうやら私の見立ては正解だった様子。
さて、それはそれとして、滝の手前まで来た私たちの前に、長蛇の列が出来ていた。
列の最後尾には『滝までのエレベーター15分待ち』とのプラカードを持ったスタッフらしき人が。
「えー、これ何? まさか、これ並ぶの!?」
真帆が目を丸くして、目の前の行列とプラカードを見る。
「一応、上から覗き込むだけっていうのも出来るみたいだけどねー。下から滝を見たければ、エレベーターを使って下りないといけないっぽいなー……あ、でも階段もあるっぽい?」
「階段?」
真帆と正木さんが都紀子のスマホを覗き込んでいる間に、私は周囲に視線を巡らせると、案内用の看板を見つけた。
それを読むと、この列の先には展望台があり、その展望台の屋上は滝と最高点と同じくらいの位置にあるみたいだから、滝を上から見て楽しむ分にはこの展望台の屋上に行けばいいみたい。
一方で、滝を下から楽しもうとすると、展望台の1階から専用のエレベーターで下りる以外にも、階段で下りるという手もあるらしい。
ただ、落差が国内最大級の滝の下まで下りるとはどういうことか。
「……階段の段数、約1700段。うん、流石に無理じゃないかな……」
私が看板を見て、苦笑しながら呟いた。
千早の家の神社までの石段ですら、結構長くて大変だったと思うけれど、その数倍はあると考えると、これはちょっと厳しい。
「いくらあたしが運動好きでも、お蕎麦食べた直後にそんだけ階段下りるのは無理!」
「真帆で無理なら私はもっと無理だよ……」
「というか、他も回ること考えたら、体力も時間使いすぎちゃうのは勿体ないねー」
都紀子の言葉が決め手となって、私たちはエレベーターに乗ることで一致した。
ちなみに、エレベーターの利用料というか入場料は有料で300円だったけれど、かなりの高低差を移動するエレベーターだから、有料にしないと管理は出来ないのかも。
専用のエレベーターは4台あって、1つに30人くらい乗れるサイズだけれど、上りと下りで2つずつにしているみたい。
この各2台をフルに使って、とにかくお客さんを詰めて送る、詰めて送る、を繰り返していたから、かなり長い列だったのに私たちの順番は10分後くらいには来た。
寿司詰めになりながらエレベーターを下りると、
「うわー、でっか!」
と真帆が思わず声を出してしまうくらいの迫力ある光景が広がっていた。
国内最大級という謳い文句の通り、今まで見た滝というものがちっぽけに見えるほどの高低差と水量。
全員がちゃんと見えるようにするためか、トラロープで順路が引いてあって、少し蛇行しながら滝の前をゆっくりと歩く通路が出来ていた。
……ああ、なるほど。
何で4台あるのに2台ずつしか使っていないのだろうと思ったら、下りのエレベーターから上りのエレベーターまでの道に順路が続いていて、下りてくる人が邪魔で帰れなくなったりしないようになっていたみたい。
良く出来ているなあ、なんて思ったら。
「……な、なんか寒くないですか?」
正木さんが身震いしながら言う。




