第30時限目 遊歩(ゆうほ)のお時間 その8
「で、えーっと……全員、揃ったと思うのでー……え? C組で1班足りない? D組も? ちょっ、アタシ参拝終わった後にちゃんと集まるように言ったよね!?」
何だか大変そうだけれど、すぐに各クラスの先生たちが勝手に自由時間を進めてしまった班を回収して、咲野先生が説明を再開する。
「えー、皆さんが静かになるまでに……って、そんなボケしてる時間ないんだった! 全クラス集まったようなので、今後の日程を連絡します。しおりは15時にさっきの駐車場に集合となっていましたが、渋滞とかもあったので、旅館の方とも話をして30分だけ自由時間を伸ばしました」
直後、わぁっと歓声が上がる。
「えー、静かに! なので、旅館に到着以降が全部30分遅れます。夕食は18時半、お風呂終了も21時半まで待ってもらえます。ただし! 就寝だけは22時です! 間違えないように! いい? アタシ言ったからね! 寝るのは22時だから!」
生徒たちはざわざわし始めているから、咲野先生の話をどれだけ聞いているかかなり怪しい気がするけれど、とりあえず全体的に後ろに30分ずれるみたい。
つまり――
「じゃあ、普通に行きたいところ全部ちゃんと回れそうじゃん」
私が言いたかったことを、代わりにこそっと言ってくれた真帆に小さく頷く私だったのだけれど。
「でも、お蕎麦屋さんは変更した後のお店にした方が良さそうだねー。今、コミューのマップ見たら、既に凄い列になってるっぽいよー」
都紀子がこっそりスマホの画面を見せてくると、そこにはコミューの画面内に何やら棒グラフが表示されていた。
それは元々行く予定だったお蕎麦屋さんの来店者数のグラフらしく、今の時間から数時間が完全に真っ赤で、表示が上限値に達していた。
「ホントだ。これは駄目だね……」
「うわ、すっご……。これは確かに待ってるだけで終わるかも。でも、雨降んなくて良かった。もし雨降ってたら、外テーブルのとこも大混雑になって、お昼ご飯はコンビニとかになってたかもじゃん?」
「それは確かに……って、あれ? 先生の話終わっちゃった?」
2人と話をしつつ、私が再び咲野先生の話に耳を傾けようと思ったら、質問がないかの確認と、何度目か分からない念押し中だった。
もしかして、重要な何かを聞き逃してたり……?
「大丈夫です。帰りは特に全員が揃わないと出発出来ないので、ちゃんと遅れずに集まるように、という話くらいです」
私がどうしようときょろきょろしていたら、正木さんがぽしょりと小声で耳打ちしてくれた。
「ありがとうございます、正木さん。助かりました」
「いえいえ」
「じゃあ、解散! いい? 延長は30分だけだからね! 15時半集合だから!」
念押しミルフィーユな咲野先生に背を向けて、生徒たちがばらばらと離れていく。
……まあ、ちゃんと集まるように話したのに、早速2班くらい勝手に自由行動を始めていたら、あれだけ念押ししたくなるのもよく分かる。
「よっし! じゃあ、まず腹ごしらえから行くぞー!」
「おー!」
真帆の合図を皮切りに、私たちはまず件のお店に来てみたのだけれど、既に満席。
そして、お店の周囲には待機している様子の人たち。
「うわー……これ、ホントに大丈夫?」
「あー、もしかすると名前を書いて待っとくタイプかもねー。ちょっち見てくるねー」
そう言ってから、ささっと予約表のあるところまで都紀子が小走りに向かって、しばらくしたら帰ってきた。
「うーん、待ってるのは12組だったよー」
「12組!?」
都紀子の報告に真帆が思わず声を上げると、周囲の視線がこちらに向いたから、当の本人はそっと口を手で塞いでから、
「……これ、他のお店探した方がいいんじゃない?」
と私たちに意見を求めた。
まだちょっとお昼には早いし、脇目もふらずにここに来たから、並んでても5、6組くらいかなと思っていたのだけれど、これだけ多いとなると――
「確かに、他のお店も探した方がいいかな……」
ただ、この状態じゃ他のお店もいっぱいかも、そうするとホントにコンビニという手も……?
そんな悪い予感が脳裏を過ったけれど、そんな私たちを見て「んふふー」と都紀子が腰に手を当てて笑った。
「ちゃーんと、そこんとこもちゃんとお店の人に聞いてるよー。大体コレくらい待ってるときは大体30分くらいだってさー」
「え、こんなに並んでるのに?」
目を丸くした真帆の言葉に頷く都紀子。
「ここ、メニューがお蕎麦と川魚だって書いてあったよねー? 実はここ、それ以外のメニューが全然ないらしくてねー。デザートとかも季節のアイスのみらしいから、他の喫茶店とかお茶屋とかに行っちゃうみたいさねー」
「はー……なるほど。だから、これだけ席が埋まってても早いんだ」
都紀子の言葉を支持するかのように、既に2組くらいは食事を終えて出てきた。
「まー、4人だからすぐに入れるかは分かんないけどねー」
「それはまあ、そうだけど、下手に他のお店回るよりはマシかな。んじゃ、ちょっと待っとく?」
「そうだね」
真帆の言葉に頷く私たち。
……これ、普通に真帆がリーダーやった方が良かったんじゃないかな、なんて思ったり。




