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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第30時限目 遊歩(ゆうほ)のお時間 その5

 多分、すごい表情をして、顔をそむけていたのだろう。


「……じゅん、大丈夫?」


 不安げに真帆が私にそう言ったのを聞いて、私が顔を向けると、他の2人もこちらを見ていた。


「ホント、すごい汗です……」


 正木まさきさんがハンカチで私のひたいの汗をいてくれる。


「もしかして、結構我慢してたのかねー? もうちょっとの辛抱しんぼうさねー」


 都紀子ときこからはちょっとした勘違かんちがいも受けていたけれど、むしろ今はその勘違いの方が助かるかもしれない。


「あ、ああ、えっと……うん、思っていたよりも、そう……かもしれない」


 そう言いながら、恐る恐る再度“その人”が居た場所に視線を向けると、そこにはもう居なかった。


 見間違い……だったのかもしれない。


 たまたま白い手袋をしている女の子が通り過ぎただけ、その可能性だって十分にありうる。


 なにせ修学旅行なのだから、沢山たくさんの生徒が来ているし、渋滞じゅうたいを回避するために止まっている人も多い。


 もし、本当に“彼女”だったとしても、これだけの中からそうそう私を見つけることはないはず。


 ……そう、そんなに心配する必要はない。


 見なかったことにして、勘違いだったことにして、忘れよう。


 かぶりを振る私に、


「準ー。順番来たよ」


 と真帆が私の腕に軽く触れて、私たちの番が回ってきたことにようやく気づいた。


小山こやまさん、お先にどうぞ」


「もし調子悪くなったら、スマホで連絡してねー」


「あ、ああ、うん。ありがとう」


 3人に謝辞を告げて、私は重い足取りでお手洗いに入った。


「はあ……」


 便器に座って、一呼吸。


 折角せっかくの修学旅行だというのに、1番と言っていいくらいに会いたくない人物の姿を見てしまった。


 ……ここまで私が彼女を避けるには理由がある。


 といっても簡単な話で、彼女は前の学校に居たときに私を攻撃する急先鋒きゅうせんぽうだったから。


 しゃべり方がいつでも詰問きつもんするような調子だったから、普通に話をするだけでも疲れたのだけれど、私が不正をしているといううわさが立ってからは、特に私への攻撃が強くなった。


 そんな彼女と、こんな楽しい修学旅行中に遭遇そうぐうするなんて、不運にも程がある。


 ただ、それ以上に問題なのは今のこの服装。


 女装姿を見られたら、あの学校に噂が広がって、まだ通っている綸子りんずにも被害が及ぶかもしれない。


 最悪の展開を思い浮かべて、私は身震いした。


 でも、大丈夫……あのとき、目が合ったわけでもないから、向こうは私と気づく訳が無い。


 溜息ためいきを床に転がした後、そういえばトイレの外で多くの人が行列を作っていたことを思い出し、私は可及的かきゅうてきすみやかに済ませるべきことだけ済ませて外に出た。


 流石さすがに、先に入った私よりも真帆たちが早く出てくるということは居なかったみたいで、ハンカチで手をきながら、近くのベンチで少し皆を待つ。


 ただじっと座っているとさっきの嫌な記憶きおくよみがえってしまう。


 だから、私が見てもどうしようもないのだけれど、今の渋滞はどれくらいで解消されるのかなとネットで渋滞情報を見ようとスマホに視線を落とした、そのとき。


「――あなた、もしかして――」


 私の頭に冷たい声が降ってきた。


 ……聞き覚えのある、その抑揚よくようのない声。


 座っている私の目線の先に“白い手袋”。


 顔を上げてはいけない。


 相手の顔を見てはいけない。


 そう思いながらも、声に吸い寄せられるように私が顔を上げようとしたとき。


「あ、居た居た! じゅん!」


 ともえけ寄ってくるのが見えたのと同時に、目の前の彼女は萌とは逆方向に歩き出した。


 萌が私の目の前に来て、私から離れていく女子を見て、


「……もしかして、何か話をしてた?」


 と少し済まなさそうに言ったのだけれど……とんでもない。


「ううん、大丈夫……むしろ、ありがとう」


「え、ありがとうって?」


「いや、こっちの話。それで、何かあった?」


 話を切り替えようと私が尋ねると、萌が「ああ、そうそう」と頭に付けて答えた。


「この先の渋滞、全然解消しなさそうだから、1度高速道路から下りて、一般道走ってからまた高速乗るんだって。それで、出来るだけ早く出たいから、お手洗い終わったらすぐに帰ってきてって話だったんだけど……他の3人はまだ?」


「うん、まだ。もどってきたら言っておくよ」


「ん、よろしく。私は他の子たちに話をしてくる」


 そう言って、萌はまた小走りに他のクラスメイトを探しにいった。


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