第30時限目 遊歩(ゆうほ)のお時間 その1
修学旅行2日目は爆音のアラームから始まった。
飛び起きた私たち……そして、起きない約1名。
「…………」
私以外に正木さん、都紀子がほぼ同時に起き上がっていて、顔を見合わせ……そして、私たちの視線は音の発生源に向く。
……そう、真帆のスマホに。
改めて私が2人の方を向くと、静かに頷いてきたから、私が代表でスマホをタップし、アラームを止めた。
ようやく、部屋に静寂が戻った。
そして、ほぼ同時に私たちは溜息。
スマホの表示時刻は午前6:00。
食事まではまだ1時間ある。
「こんな大音量、初めて聞いたねー」
「でも本人はこんな状態でも寝てるんだね……」
そう、当の本人はまだすやすや寝息を立てているわけで。
呆気にとられている私と都紀子だったのだけれど、眉尻を下げた正木さんがこの状況を説明してくれた。
「真帆、総一くんとか光一くんが友達を呼んで来ると、特にお泊りなんかしたときには夜もうるさくて眠れないことが結構あったみたいで……。そんな状態でも眠れるようになったら、今度はアラームが鳴ってもちょっとやそっとじゃ起きられなくなって……」
「……なるほど」
光一くんは比較的物静かだったけれど、総一くんは結構騒がしい感じだったなあ。
とにかく、彼らの友達含めて騒いでいる中でも寝られるようになった真帆は、ある意味では凄いと思う……けれど。
「でも、お泊りとかしたときにはこんなアラーム鳴らしてなかったよねー?」
都紀子の疑問に、再び正木さんが答える。
「普段、お泊りするときは土日なのでアラームが鳴らないんだと思います。今日は平日なので……」
「あー……」
つまり、普段の平日はこんなとんでもないアラームが鳴ってるってこと……?
「ちょっと、今の何ぃー!?」
あまりに大きかったアラームのせいで、咲野先生も部屋の扉を叩く。
先生の声だけではなく、何やら扉の外が賑やかになってきた様子だったから、多分先生だけではなくて、音に驚いた他の子たちも来たのかもしれない。
「あ、あはは……」
私たちはこれから起こるであろう追及に頭を悩ませながらも、私は部屋の前まで来ている先生含めて他の子たちに説明する担当、正木さんと都紀子は真帆を起こす担当、と役割分担して、朝を乗り切った。
で、朝食の時間。
「……ただいまー」
「おかえり」
咲野先生には私の方から予め事情は説明しておいたけれども、本人からも事情を聞いておくべきということで、朝食の時間が始まる直前まで掛かったらしい説明を終えた真帆が帰ってきた。
「とりあえず、ただのアラームだけだったからってことで、旅館の人にも謝ってきたから、それ以上はお咎めなしだって」
「そっか。お疲れ様」
旅館の人にまでちゃんと説明してきたから時間が掛かってた、ってことかな。
何にせよ、とりあえずこれでこの件は終わり……といきたいところだったのだけれど。
「なになに、準のとこで爆音鳴ってたって聞いたけど、何したん?」
羽海とか。
「何かあったみたいだが……アラーム音ってあんなに大きくなるのかい?」
桜乃さんとか。
「まだ寝たかったのにうるさくて起きたにゃ……何だにゃ、あれ……」
みゃーちゃんとか。
まあ、とにかく色んな子に声を掛けられた。
朝一で部屋の前まで来た星歌とか、各部屋につき1人ずつくらいは先に話していたというのに、その後にも他の子が聞きに来るから、毎回私は同じ説明を繰り返して、バスに乗った頃には私はぐったりしていた。
「あー……ホント失敗した。準、マジでごめん」
「あはは……まあ、仕方がないよ」
本人ではなく、何故か私へ質問ラッシュが来るから、真帆が本気で申し訳なさそうに言う。
もちろんというか、本人にも何人か声を掛けられていたけれど、何故私……いや、確かに班長ではあるのだけれど!
「とりあえず、もうアラーム切っといたから!」
「うん、そうしておいてもらえると助かる」
あ、これは後日談なのだけれど。
このときアラームを消したせいで、翌週の月曜日に朝のアラームが鳴らなくて、遅刻スレスレで教室に走り込んできた。
「マジでアラームないと起きれないんだって!」
更に付け加えると、ご両親も総一くん、光一くんも、普段なら真帆のアラームが鳴らなかったことで遅刻しそうになったとか。
……まあ、あれだけ大きければ家族全員起きるよね……。
「まーまー、切り替えてこー。今日は自由時間が長いから、色々回れるねー」
バスの椅子でしおりを広げる都紀子が話題を変えた。




