第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その16
「色んな機械があるんだねー」
「この頃は全部手作業だから大変そう……」
紡織に使用する木製の機械を見ながら話をしている私たちのグループの少し前を、星歌たちのグループが進んでいるのが見えた。
「結構、もふもふしてて可愛くない?」
蚕蛾を指差す晴海。
「確かに、結構可愛い顔してんな」
「虫ってあまり得意じゃないんですが、よく見ると可愛いですね」
「えー、ボクはちょっと……」
本当にあの4人で大丈夫かな……と若干の不安感を抱いていたけれど、思っていたよりも仲良く話をしているのを見て、ちょっと安心。
まあ、正直なところ私が心配する話ではないのだけれど、それでもやっぱり気にはなってしまうよね。
一回りして、少しの自由時間を挟み、また電車移動。
ちなみに、自由時間は庭園の中央にある池に鯉が居て、鯉の餌やり体験が出来るってことで、私たちは全ての時間を使い果たしてしまった。
「次は水族館かー」
電車の吊り革に掴まって、逆の手でしおりを開いた真帆がそう言った。
「……でも、何で水族館? 嫌じゃないけどさー」
ちょっと不思議そう真帆に、
「もー、真帆ちゃんと修学旅行のしおり、読んだ?」
と正木さんがちょっと湿度がある視線を向ける。
「え、タイムスケジュールと行き先は見たけど」
「もっと後ろに書いてあるよ。ほら」
自分のしおりを開いて、真帆に向ける正木さん。
……え、何か書いてあったかな……?
実は私も、修学旅行のしおりはちゃんとは読んでいなかったから知らず、正木さんが言ったページを開いてみる。
「えーっと……『元は本学の位置にあった水生生物の研究所ですが、勤務していた研究員の方が水族館の館長となった際、本学にある池で再度調査を依頼されたことがありました。本校の校長・理事長は快諾しましたが、その返報として修学旅行の際に水族館の案内などを実施して頂いています』……ホントだ、書いてある」
真帆がそう読み上げ、私も自分で読みながら「なるほど……」と思わず呟いてしまったのだけれど、耳聡く私の言葉を拾ったらしい真帆はニヤリとした。
「もしかして、準も知らなかった?」
「あー……あはは、うん。実は私も行き先とスケジュール、持ち物辺りしかしっかり読んでなくて……」
「仲間じゃん!」
真帆の言葉に、正木さんと都紀子も苦笑する。
でも、確かに折角修学旅行のしおりがあるのだから、ちゃんとすみずみまで読んだ方がいいなって。
昔はこういう移動中に話をする相手があまり居なかったから、暇に飽かせて、旅行のしおりはよく読んでいたりしたのだけれど、今はそういう時間があまりないから……もちろん、いい意味で。
ということで、少ししおりを読み進めると、
「……あ、明日行く神社って学問の神様なんだね」
と私はまた読みながら、思わず言葉を漏らした。
「あー、そういや書いてあったねー」
「え、マジで? じゃあ、受験上手くいくようにちゃんとお祈りしとかないと。ってか、修学旅行……割と勉強に振りすぎじゃない? さっきの工場も勉強だし、水族館でも勉強、神社でも勉強関連だし……」
「確かに。まあ、だからこそ自由時間は好きにしようよ」
私の言葉に同意してくれる3人。
次の目的地の水族館では、入口に全クラス集まった後、チケットを配られて入館。
入って早々、私たちを迎え入れたのは私がもう2人……いや、3人くらい肩車しても天井に届くかどうかってくらいの大きな水槽だった。
「おー、でっかーい」
「あれ何? マンタ?」
即座に駆け寄る真帆と都紀子なのだけれど、
「うちのクラスは先にお話だから集まらないと」
という正木さんの言葉で、ちょっと名残惜しそうな2人がついてきた。
ちなみに、他の班……星歌たちの班と華夜たちの班も似たような状況だったみたい。
誰が水槽に向かったかは……まあ、言わなくても何となく分かるよね。
さて、それはそれとして、大きなシアタールーム……というか講堂みたいな場所に集まった私たちはこの水族館でどんな魚の調査をしているかとか、前に建っていた水生生物の研究所の写真などが投影された。
「あー、あの寮って研究所の人たちが住んでたんだ、知らなかった」
「今の職員室辺りに何か凄く大きい水槽あるね。あれ、何だろ」
そんな話が周囲からもひそひそと聞こえていたけれど、その説明が終わったら質問タイムで、後は水族館の裏側を案内してもらうことに。




