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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その14

 騒然そうぜんとする私たちをよそに、赤いスポーツカーは私たちの目の前まで走ってきて急停止した。


 ドアを開いて降りてきたのはスポーツカーと同じくらい真っ赤なスーツ姿、胸元が大きく開き、すらっとした足を出した、ウェーブがかった茶髪ちゃぱつの女性。


 サングラスを外しながら近づいてきた女性に、私は少し身構えたのだけれど、私たちをかばうようにさっと前に出た咲野さきの先生は、


「あの、一体どなた――えっ!?」


 と固まってしまった。


 もしかして、先生の知り合い……?


「おまたせしてすみませんでした」


「いや、あの……」


 見た目に反して……というのも何だけど、ちょっとキツい感じの雰囲気ふんいきとは裏腹に、折り目正しく腰を折った女性に、咲野先生が更に狼狽うろたえる。


 ……あ! この人が学校長とか?


 いや、逆にそれだったら驚くというよりも理事長さん相手みたいに身構えるような……と思っていたら、少し大きめのダッフルバッグを持って、車から降りてきた人物の方には見覚えがあった。


「お、遅れてすみません」


「え、智穂ちほ!? ……ってことは……」


 咲野先生が固まっている相手……このちょっと結構攻めた服装の女性……って。


「あの人が、智穂のお母さん……?」


「ええ、間違いないです。ただ……」


 確認を取ったほのかでさえ、動揺どうようの色を隠せていない。


 前に聞いていた話からすると、ちょっと……いや、かなり要注意が必要な人物だったはず。


 服装の露出感とかはさておき、話している様子はそんなにおかしい人には見えないけれど。


 ……あ、そうか。


 むしろ、咲野先生が静止している原因も私と同じなのかもしれない。


 あの智穂のお母さんが何でこんなに礼儀れいぎ正しいの!? みたいな話。


 ただ、そうだとしてもそもそも智穂はお母さんが居ない時間をねらって帰っていたはずだけれど……たまたま遭遇そうぐうしてしまった、とか?


「お母さん、もう大丈夫だから」


「本当に?」


「うん……あ、ちょっと……」


 智穂がお母さんをちょいちょいと呼び、耳打ちする。


 身長は並んだ智穂よりもこぶし1つ分くらい大きい程度みたいで、少しだけかがんだ女性は智穂の言葉に耳を傾けつつ、こちらを見ているようだった。


 そして、智穂のお母さんの口をついて出た言葉。


「……ああ、あの背が1番大きな子?」


「お母さんっ」


「って、ごめんごめん。なるほどね……」


 何やらふふっと笑い出すお母さんとちょっとねたような表情の智穂。


 ……あれ?


 先生だけでなく、本人から聞いていた話ともかなり違う関係性に見える。


 状況が理解できない私たちがぽかーんとしていたのだけれど、


「ってほら、早く行きなさい。また、帰ってきたらゆっくり話しましょ」


 と改めてお母さんらしき人が智穂の背中を押す。


「うん。行ってきます」


「行ってらっしゃい、気を付けて」


 そんなやり取りを終えて、智穂は咲野先生に向き直る。


「先生、遅くなりました。荷物は全て持っていますので、すぐに出発で大丈夫です。それと、事情についてはバスの中でお話します」


「え? あー……分かった。んじゃ、皆、乗った乗った! 出発するよー!」


 咲野先生が他の生徒たちをバスに誘導している間に、智穂は私たちに近づいてきて、


「……2人には後で“本当の”事情を話しますから、今はまだ少しだけ……待っててください」


 とひそやかに言葉を残してから、荷物を持ってバスに向かった。


「……何があったんだろう」


 私が首をかしげると、


「いいじゃないですか。何にせよ……智穂さんがあれだけうれしそうな表情をしていたのですから、悪いことではないのでしょう。それに……」


 とほのかがそう言ってから、私の方を向いて、


「私たちにだけああ言ったということは、おそらくですがじゅんが関わっているのかもしれませんね」


 と笑った。


「え、私が? ……いやいや、そんなことは……単純に、仲の良い相手には細かく説明するとか、そういう話なだけでは……」


「さて、どうでしょう。さっき、智穂さんが準のことを説明している様子でしたから」


「あー……」


 1番背の高い子、と言っていたのは確かにそれっぽい気もするけれど……と思いつつほのかと密談をしていると。


「おーい、小山こやまさんたちー。早く来てくれないと置いてくぞー」


 バスの方から咲野先生が急かす。


「あ、はい! ……とりあえず、後で話を聞きましょうか」


「ええ、そうですね。また、コミューで連絡します」


「お願いします」


 私はちらりと、まだ残っていた智穂のお母さんに小さく会釈えしゃくして、ほのかの車椅子くるまいすを押してバスに向かった。


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