第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その13
バスの中には既にクラスメイトの半分くらいが座っていた。
外に居た星歌たちと一緒に来た寮生も含めると、多分3分の2近くはもう集まっていることになるかな。
他の子たちに挨拶をしながら、後ろの方にある2人席に正木さんと真帆、都紀子で座っていたから、空いている都紀子の隣に座る私。
「寮の子たちはもう皆集まったんかねー?」
「うん」
智穂がまだ来ていないのだけれど、話題に出すとまた誤魔化したりする必要があるから、まあ申し訳ないけれどそれで済まさせてもらう。
「そういえば、今日は移動だけで結構あるよねー。バスで移動した後、新幹線で移動して、そこから電車だし」
都紀子が修学旅行のしおりを開いて言う。
「そうだね、結構距離あるよね」
「新幹線、初めて乗るなー」
「そうなんだ」
到着までは結構時間があるけれど、多分楽しい時間の内に着いてしまうだろうな、なんて思いながらも、私はちらちらとスマホを確認してしまう。
まだ、連絡は来ていない。
……ちゃんと来る、よね?
「何か気になっちゃってる感じかねー?」
私がスマホを繰り返しちらちら見ていたからか、正木さんと真帆が話し込んでいるところで、都紀子がこそっと聞く。
「あー……ちょっと、うん。私に連絡が来るかどうかは分からないんだけど」
「何のことかは聞かないけど、知らせがないのは良い知らせ、って思ってみるのもアリじゃないかなー」
「……いいね、そう思うことにしようか」
私がそう笑って、スマホをポケットにしまったところで、
「あの……準、もう乗ってますか?」
とバスの前方入口辺りから声がした。
「え? あ、はい! 何でしょうか!」
一瞬、先生か誰かかも、と思わず丁寧語で返したけれど、よくよく声の主を思い出してみるとほのかだった。
「……どうしたの?」
バスを降りると、車椅子に乗ったほのかが居たのだけれど、
「ちょっと……」
と手招きする。
もしかすると、智穂から連絡があったのかも、と思って私はほのかの車椅子を押して、人が少ない場所に移動した。
「智穂さん、今日って家に帰ってますよね……まだ見てないですか? 寮を出たところで連絡は来たんですけど……」
そう言ったほのかは朝の萌みたいにおろおろしている。
「うん、まだ見てない。ほのかにも連絡は来てないんだ」
「ええ……。家まで帰って、荷物を取って帰って来るだけなら、少なくとも連絡くらいは来てもおかしくないはず……」
智穂の家がどこか知らないけれど、ほのかが言うのであれば多分そうなのだろう。
私たちは互いに沈黙。
「ま、まあ、まだ時間はある……から」
「そ、そう……ですよね」
自分たちを言い聞かせるように、濃度薄めの笑いをお互いに向けていると。
「あ、いたいた。小山さん、元橋ちゃん」
突然、声を掛けられた。
「咲野先生?」
「あー、やっぱりまだ椎田ちゃんは来てない?」
「……はい」
ほのかが先に頷いた。
「そっかぁ……。いや、別に時間的にはまだだからいいんだけど、連絡くらいは来たかなーって思って。それならいいや、また連絡あったら教えてー」
そう言って、先生はバスの方に戻らず、他の先生たちの方に向かって、何やら説明している。
……もしかすると、もう他のクラスは集まってて、早く出ようみたいな話になっているのかな。
でも、まだ智穂が来ていないし、時間もまだ出発前。
だから、待ってていい、はず。
なのだけれど――
「後、5分……」
ほのかが膝の上に置いたスマホを見ながら、ぽつりと漏らす。
私のスマホもまだ鳴らない。
「どう、まだ連絡ない?」
改めて近づいてきた咲野先生が表情を曇らせながら聞いた。
「はい……」
気落ちしているほのかに代わって、今度は私が答える。
「そっか……。彼女の家の電話に掛けても誰も出ないし……事故とかだったら――」
「いえ、彼女は必ず来ます!」
キッとほのかが咲野先生を見て、それから、
「……す、すみません。先生が悪いわけでは……」
と謝罪した。
「あはは、まー……後3分は大丈夫。最悪、うちのクラスのバスだけ少し遅らせてもらえないか相談してるし。バス停で同時に皆降りられたとしても、新幹線に乗るまでは少し時間があるから、どうにかなるよ、うんうん」
努めて明るい声で咲野先生が言ったところで、車のタイヤが滑るような……スキール音というんだっけ、そんな音が近づいてきた。
「んー、なんだろ?」
私たちも、周囲の生徒も音がする方を向くと、近づいてくるのは赤いスポーツカー。
スピードをどんどん上げて、こっちに近づいてくる。
「え、ちょっ……こっちに突っ込んでくる!?」




