第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その10
「何そのちょっとカッコイイやつ! アタシもやりたかったんだけど!」
夕方、羽海が帰ってきてから、食堂で関係者全員揃って顔合わせでの事情説明をしていると、羽海が呑気にそんなことを言うから、私は呆れて、
「カッコイイって……あれは正直、やった私自身、あまり良い手ではなかったと思うんだけど」
と返した。
……智穂のときでもそうだったけれど、正直自分自身がズルい手を結構使っているという認識はある。
状況を解決するためには手段を選んでいられないという状況であることも多いのだけれど、自分自身が教科書的な……あまり融通が利かないタイプだから、正攻法でいけなくなったら後は”ゴリ押し”戦法になってしまうからかもしれない。
「何で?」
「だって、先生たちの考えも分かるし、それこそ羽海たちに負担してもらうことになっちゃうから……」
私がそういうと、けろっとした表情で、
「まー、確かにそういうときに残ってて押し付けられるのって、大体はヤなヤツだったりすること多いか。でも、こんなちっこい子だし――」
「ちっこくない!」
「……まー、とりあえず相談くらいはよくない?」
とスルーした羽海が言う。
「先生が相談してきてる時点でほぼ決定って空気になるし……断りづらいでしょう?」
「え、全然。嫌だったら普通に嫌って言うし」
さらりと言った羽海に、私含めて周囲の子たちは苦笑いした。
胆力……!
まあ、これくらい肝が据わってないと芸能界はやっていけないのかもしれない。
「むーん……アタシもサボってそっち行けば良かったなー」
「いや、サボっちゃ駄目でしょ。あの後、色々大変だったし……居なくて良かったと思うよ」
智穂が来るということになってから、珍しく益田さんにも坂本先生にも怒られたし、咲野先生も緊急集合が掛かった。
咲野先生は事情を聞くと、じっとり湿度高めアイで私を見てから、とりあえず他の子たちも良ければ承諾、というのがあの後の顛末。
コミューで私が羽海と、智穂がほのかと連絡を取って、共にオッケーとなったので、みゃーちゃんは無事に智穂、羽海、ほのか、渡部さんチームに入ることが確定した。
ただ、スマホで許可の連絡は貰ったけれど念の為、集まって顔合わせて話をしよう、ということになったからここに居る、と。
「で、アタシは面白そうだし別にいいけど、ほのかはホントに良いの?」
『ええ、私も構いませんよ。そういえば、寮に泊まったときはあまり話も出来ませんでしたから』
テーブルの上に置いてあるスマホ画面の向こうから、ほのかがそう言った。
「ホントに大丈夫? みゃーちゃん、結構我が儘とか言゛っ……!」
ソファに座っている私は、話している途中に不意の鳩尾パンチを受けて、うぐぐ……とそれ以上言葉を発せなくなった。
「みゃー……美夜子だって、ちゃんと弁えるところは弁えるにゃ……です」
ふんす、と鼻息を荒くしているみゃーちゃんとまだ言葉を発せない私たちの様子を見て、羽海たちが笑う。
「なるほどねえ……」
「準相手なら甘えられる、と」
『え、今何かあったんですか? 準、蹲ってます?』
スマホの向こうからだと状況が分からなかったらしいほのか以外の2人はほほえまーな表情で、みゃーちゃんを見るから、
「べ、別にそういうのじゃなくて……!」
と火消しに走るみゃーちゃん。
思わず、いつもの語尾を忘れるくらい慌てている様子が視線の端に映る。
……私は未だ残っている痛みに悶えつつ、鳩尾を擦っているのだけれど、まあ皆が楽しそうだからいいか……。
「でも、そうですね……。折角、同じ班になるので、美夜子ちゃんの行きたいところも含めて、改めて行き先を決めましょうか」
「……いい、んですか?」
しおらしくみゃーちゃんが言うと、
「いいよ。てか、喋り方も普段通りでいいよ。喋りづらいでしょ、それ。ただし、アタシたちは準ほど甘くないけど。駄目なら駄目って言うし」
と羽海が答えた。
「分かりま……分かったにゃ」
少し表情を柔らかくして、完全ではないけれどいつも通りに近い、ちょっと勝ち気な表情になってから、みゃーちゃんは3人の会話の中に入っていった。
……正直なところ、自分の班以外に任せるというのは少しだけ心配なところがあった。
まあ、ほら……少し偏屈というか、癖が強めなキャラをしているから、溶け込むのには時間が掛かるかなと勝手に思っていたけれど、案外すんなりと受け入れられて安堵している私が居る。
とりあえず、彼女たちに任せれば大丈夫――
「嫌にゃ! そんなに歩きたくないにゃ!」
「引きこもってばっかだったんでしょ? もうちょっと筋力つけるためにも、それくらいは歩く!」
「準! やっぱこの班、嫌だにゃ!」
――大丈夫かなあ……?
色々と問題を抱えたままになっているような気もしつつ、とうとう修学旅行前夜を迎えた。




