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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その9

「そ、それっ、ひどくないですかっ!?」


 ぱたん、とボールペンを机に落として、真理まりが坂本先生に言う。


「……って、ごめんなさい。その、みゃーちゃん? って子がどの子かは知らないですが……」


「あ、えっと、それはこの子」


 私が隣で仏頂面ぶっちょうづらをしている少女、みゃーちゃんを紹介すると、


「えっ!? あ、なるほど……あれ? もしかして、前にじゅんを頼って、泣きながらうちのクラスに――」


「泣いてないにゃ!」


「あっ、あっ、ご、ごめんなさい! えっと、前にうちのクラスに来たことがある子、ですよね? でも……修学旅行に来る? んですよね? なのに、修学旅行なのに見て回れず、ずっと待機というのは……」


 真理が改めて、ちょっと困った表情の坂本先生と足を組んでじっと黙っている益田ましたさんにそう言うと、


「本来であれば彼女……美夜子みやこちゃんは留守番なんです。ただ、今回は渡部わたべさんの管理をしてもらうために必要なのでやむを得ず……。それに、夜は同じ宿に泊まりますし……」


 と眉尻まゆじりを下げながら坂本先生が答えた。


「でも、別にずっと監視している必要はないですよね? 先生たちの手が空かないのであれば私たちが一緒いっしょに回れば、彼女を見てあげられます!」


「そういう問題ではない」


「じゃあ、どういう問題ですか!」


 真理に益田さんが冷静な言葉を投げると、真理が食ってかったから、


「真理」


 と私は優しく声をかける。


じゅん、でも!」


「……あの、坂本先生。あくまで今回のみゃーちゃんの立場は渡部わたべさんの管理者で、いつ渡部さんに問題があるか分からないから、トラックを離れるべきではない、ということですよね?」


「……はい。真雪……太田理事長はそう言っていました」


 私の言葉に、小さくうなずく坂本先生。


 確かに、本来は管理者として行っているはずなのに、肝心かんじんなときにみゃーちゃんが居なければ本末転倒、場合によっては何で連れて行ったのかという話……いわば責任問題にもなってしまう。


「であれば、彼女たち……渡部さんと同じグループなら大丈夫ではないですか?」


美夜子みやこを連れて行くためだけに、彼女たちのグループに無理をいるわけにもいかないだろう。既に、彼女たちには色々と無理を言って、調整してもらっている」


 益田さんが坂本先生のそうフォローをした。


 ……あれ?


「あの、すみません。本人たちには確認していない、ということですか?」


「ああ。真弓まゆみが言ったら、強制になってしまうだろうから、言っていないと聞いている」


「トラックに居ないと詳細しょうさいな状態を確認できない、みたいな意味だと思ってましたが……」


 私の言葉に、益田さんが頭をきながら答えた。


「それもないわけではないが……異常があれば、美夜子のスマホに異常を伝える信号が届くようになっているそうだ。それに、渡部本人のそばにいれば、問題があってもすぐに気づくだろう。つまり、彼女の近くに居ること自体に問題はない。ただ、美夜子のためだけに彼女たちの手をわずらわせるのは良くないだろう……と真弓からは聞いている」


 ……なるほど。


 先生たちの言うことも良く分かるし、先生たちが気を遣ってくれていることも良く分かる。


 とはいえ、先生たちの立場でそういうことを聞くのははばかられる。


 先生が注意する人を減らせるような組み合わせにしてしまった手前、更に強制するようなことは避けたいという気持ちがあるのも良く分かる。


 私はポケットに入れていたスマホを目の前のテーブルに置いて、みゃーちゃんに尋ねた。


「ねえ、みゃーちゃん。みゃーちゃんは羽海うみ……雨海あまがいさんとか椎田しいださんとは話をしたことある?」


「雨海さんとかいう方は見たことあるけど、話したことないにゃ。椎田さんってあの眼鏡めがねの人にゃ?」


「そうそう」


 私が首肯しゅこうすると、


「あの人は優しいにゃ。ノワールや……おまめとも一緒に遊んでくれるし」


 とみゃーちゃんはにっこりと笑った。


 実際、私もみゃーちゃん、みねさんが智穂と居る姿をよく見る。


 何と言うか、雰囲気ふんいきは坂本先生に近いというか……まあ、眼鏡掛けててスタイル的にも近いかもしれない。


「ちなみに、渡部さんと同じグループなんだけど、もし本人が良いと言ったら、一緒に行く?」


「行――」


 勢いで口を開いたみゃーちゃんは、


「――かないにゃ」


 と答えて首を横に振った。


「何故?」


「みゃーのお仕事は月之つきのを確認することにゃ。だから、仕方がないにゃ」


 そう言って、ひょいとソファから降りた。


「ちょっと準に意地悪いじわる言いたかっただけにゃ」


「それはいいけど……渡部さんのそばに居た方が、状況は良く分かるんじゃない?」


「トラックには機材がそろってるから、別にそんなに変わんないにゃ」


「どっちでも出来る、ということだよね」


 私が食い下がると、みゃーちゃんが苛立いらだち始めた。


「だから! みゃーはお仕事なんだにゃ!」


「うん。でも、お仕事しながら、色々見て回れる方がいいんじゃない? まあ、自分の好きなところを回れるかは分からないけど」


「……でも」


 みゃーちゃんはまだ躊躇って、うつむいている。


「本当は、行きたいんだよね?」


 私の質問に、みゃーちゃんは自分の思いを吐露とろした。


「一緒に行きたいけど、迷惑めいわく掛けちゃ駄目だめなんだにゃ」


「ふむ……」


 私はみゃーちゃんの言葉をちゃんと確認してから、


「……だそうだけど、どう? 智穂。みゃー……美夜子ちゃんが渡部さんの状態を近くで確認しながら、旅行にも参加出来る良い方法だと思うんだけど」


 とスマホの画面をタップして、スピーカーに切りえ、電話の向こうに問いかけた。


『ええ、私は構わないですし、お2人も駄目とは言わないと思います。今どちらにいらっしゃいますか? お話をうかがいながら、どういう形がいいか決めましょう』


 いつもの落ち着いた智穂の声がスマホから返ってきた。


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