第29時限目 出立(しゅったつ)のお時間 その3
とりあえず、一件落着……といったところだったのだけれど。
「そういえば、晴海たちの班、あの2人はオッケー貰ったんだよね?」
晴海は私の質問に指で丸を作って、
「真理っちと華奈香っち? 貰ったよー」
と返してきたけれど、その隣で苦笑した星歌は、
「貰ったっつーか……あれは他のチームが残ってないから諦めた、みたいな感じだったな」
と語った。
……見ていなくても、何となくそのときの情景は浮かぶなあ。
「だいじょぶだいじょぶ、同じチームなんだからその内に仲良くなるってー」
「だといいが」
「あ、そういえばさー……繭っちたちはどうなん? 班、誰が居るー?」
晴海が繭ちゃんにそう振ると、
「あ、わ、私は萌ちゃんと……か、花乃亜ちゃん、と、千早ちゃん、だよ」
「仲間ー」
と繭ちゃんの回答後、隣の花乃亜ちゃんがもにゅっと繭ちゃんとほっぺたを合わせつつ、両手でピースする。
「ほほー、なるほどねー。で、いいんちょーが引率?」
「誰が引率よ。2人共しっかりしているわよ、貴女たちよりも」
「うへぇーい」
晴海が謎の返しをした横で、
「千早……って誰だ?」
と首を傾げる星歌。
そういえば、あまり関わりはないのかな、星歌と千早って。
……とか言って、私も最初は関わりのない子は名前どころか名字さえ怪しかったけれど。
「玉瀬さんじゃん?」
「ああ、玉瀬か……ってよく覚えてんな、晴海」
「まー、クラスメイトの名前、しっかり覚え直すタイミングがあったかんねー……ね、こやまん」
そう言って、晴海が私に同意を求めるのだけれど、さっぱり心当たりがない。
「……え? 何かあった?」
「いやいやー、ほら、こやまんと最初はアレがアレだったじゃん?」
アレがアレって……まあ、最初は確かに色々あったけれど。
「んでんで、こやまんのことをちゃんとチェックしたときに、他のクラスの子もちゃんと覚え直したんだー、ぶい」
そう言って、Vサインを作る晴海。
「あはは、そういうことね」
あのときがきっかけだとは知らなかった。
小悪党みたいな捨て台詞を吐いていったなあと思ったら、次回会ったときには本当にちゃんと私のこと、調べてるようだったし。
……って、それなら星歌も一緒に覚えててもおかしくない気がするけれど……まあ興味によるのかな。
さて、それはそれとして、これで繭ちゃんチームの4人が分かったから、じゃあ残りの班は――
「華夜と千華留は浅葱と風音と同じ班、ってこと?」
「……そう」
ちょっと不服そうな華夜。
「どうしたの?」
私が尋ねると、ややむすっとした表情寄りの無表情で華夜が返答した。
「あの2人、我が儘」
「あー……」
あの2人は確かに我が強いからなあ……とはいえ、華夜は華夜で我が強そうだけれど。
そのせいで、行きたい場所がこっちの2人とあっちの2人、全く違っててもおかしくはない気がする。
「現地ですぐに班が割れそうです……」
頭を抱える千華留と力強く頷く華夜。
他にチームを組んでいる子を考えると仕方がない気がするけれど、ある意味で1番危険なチームかもしれない。
「そういう準は、いつものあのメンバーってことね?」
「あ、うん。正木さん、真帆、都紀子の3人と同じ班だね」
ココアを飲んでいる手を止めた萌の質問に、私が頷いて答えると、星歌が指を折って人数をカウントして、
「……ってことはこれで、全員か。まー、何にせよ無事にチームも決まって、後は修学旅行を待つだけだな」
と満足そうに言う。
「そうだね」
「楽しみだなー」
「で、そういえば何処行くか決めたー?」
そう口々に言っていたところで。
「……るいです……」
ふと、私のすぐ近くから声がした。
「え?」
誰の声? と思って、周囲を見渡していたら、真横で立ち上がる子が1人。
「皆さんばっかりずるいです! 私だけ、寮で1人じゃないですかぁ!」
「峰さん……? あ、そっか……確かに」
寮に居るのが3年生ばかり……というか3のAばかりだから、全員修学旅行に行ってしまう。
ここでみゃーちゃんがまだ居れば……それは別の意味でまた大変だろうけれど、それでも話し相手が残る。
でも、そのみゃーちゃんまで修学旅行に行ってしまうわけだから、ここには1人しか残らない。
皆が楽しそうにしているのに、自分だけ留守番というのは……うん、確かに可哀想だ。
「そんなの知らないにゃ。『てとら』はどうせ2年後に行くんだにゃ」
「それはそうだけど、そのとき皆は居ないもん! っていうか『てとら』じゃなくて蛍だって言ってるでしょ!」
いつもの感じで、私を挟んで2人の喧嘩が始まりそうだったから、まあまあと仲裁に入り、
「そうだ、峰さん。出来るかは分からないけれど……ほら、あの2人居るでしょう? お友達の時任さんと倉岡さん。あの2人を寮に呼んでみるとか……そういうの、どうかな?」
と私は峰さんに提案してみた。




