第28時限目 不思議のお時間 その39
教室に戻ると、勉強会の方針は決まっていた。
結論としてはやっぱり寮を使うのはやめようということになったみたいで、代わりに正木さんの部屋に集まるということになっていた。
確かに、寮ほどではないけれど、ここからだとかなり近いし。
で、夕食前くらいまでゆるゆると、4人で勉強したり、お喋りしたり。
正直な話、このメンバーでは成績がものすごく悪いとか、苦手な教科が偏っているとか、そういう子が居ないから、寮に来ているメンバーみたいに慌てて勉強モードにならないといけないというのもなく、言うなれば女子会の延長線みたいな感じだった。
まったりな勉強会が終わって、さて寮に戻ろうとしたら校門の前で桝井さんが待っていた。
正門にあるインターホンが寮長室まで繋がっているし、事前に益田さんにも連絡もしているから、呼んだら正門を開けてくれるらしいのだけれど、スマホで桝井さんにそろそろこっちの勉強会も終わって帰るよとコミューのチャット機能で連絡したら、私が来るまで待っていたらしい。
で、私が桝井さんを連れて寮に帰ってきたら、まあ予想通りというかなんというか……萌は頭痛の種が増えたとばかりに頭を押さえていたけれど、他の3人がオッケーで、彼女だけが駄目という理由も見当たらなかったし、騒がしくしないという約束をして、渋々ながらも首を縦に振った。
で、そうすると星野さんも来たい! という展開になるのだけれど、残念ながら親が許してくれなかったらしく。
「むぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
ほのかと同じ、スマホの向こうからの参加ということになったのだけれど、星野さんは非常に不満げ。
「まーまー、勉強自体は一緒にやっとるんやからええやんか」
「そういう問題じゃないのですわぁ!!」
星野さんの気持ちも分からなくもないけれど、これはもう仕方がないとしか。
むしろ、桝井さんの親がよく簡単にオッケーを出してくれているなと思ったけれど、そういえば桝井家の事情を少し知っている現状、もしかすると……という思いもある。
簡単に言えば、お兄さんばかりに気を向けていて……っていうこと。
当の本人は楽しそうだからいいのだけれど。
で、そんな感じで更に参加者が増えたのを、星歌や晴海たち、最初の参加メンバーや寮生の子たちも驚いていたのだけれど、多分1番驚いていたのは――
「……え、何? 今日って何かイベントとかあった?」
――と思わず萌に確認していた羽海だったんじゃないかなと思う。
一応、小テストの件については羽海にも連絡しておいたし、その件で勉強会するために泊まりに来ている子が居るとも伝えておいたけれど、来ている子が想像以上に多かったみたい。
こんな状況で唯一、マイペースで勉強をしていて、萌とか私に質問をしているのは花乃亜ちゃんくらいかな。
繭ちゃんと智穂は最初の3人相手でも、桝井さん相手でもおっかなびっくりだったけれど、動画を休憩のときに流したりしていたら、いつの間にか仲良く……とまではいかずとも、普通に話すことが出来る程度の関係にはなっていたみたい。
ちなみに今日も今日とてスタピの曲を流していたのだけれど、桝井さんも興味が出てきたらしく、早速ネット通販で音楽を買ったらしい。
スタピ仲間が広がっていくなあ、なんてことを思いながら、本日の勉強会もそれなりに大人しく進んだ。
勉強会が終わって、お風呂も済ませた後に、自室に戻った私はテオのご機嫌取りをしていると、今日もノックの音がした。
昨日に引き続きかなと思いながら、流石に今日は昨日ほど遅くならないようにと気を引き締めてから、
「どうぞ、開いてるよ」
と言ったのだけれど。
「小山の部屋、何やモノが全然ないやん。本当にここに住んどるんか?」
昨日も聞いたような言葉を発しながら入ってきたのは、星歌でも晴海でもなく、少し窮屈そうな胸元を緩めた水色のパジャマ姿の桝井さんだった。
「あれ、桝井さん?」
「ん、どしたん? あれ、誰か別の人間待っとったとか?」
「待ってたというか、昨日もこれくらいの時間に来た子が居たから」
私の言葉に「ほーん?」とちょっと楽しそうな表情になる桝井さん。
「……ってことはあの2人……大隅と中居か?」
「ん、まあそんな感じ」
私が答えると、ローテーブルの横に敷いてた座布団を見て、
「なるほどなあ。ほんなら、出直すかー」
と部屋を出ようとする。
「別に大丈夫。約束してたわけじゃないし、何か用事があったんでしょ?」
「用事……と言うほど大げさなもんでもないんやけどな。ちょい話をしにきただけや」
両手の指を突き合わせて、桝井さんがそう言ったから、私はローテーブル横の座布団に座って、
「昨日の2人も同じような感じだったから、別に大丈夫。空きもあるしね」
と言うと「ならええか」と表情を崩して、桝井さんが座った。




