第28時限目 不思議のお時間 その38
私の説明に「あー、やっぱり」と真帆が言葉を漏らした。
「大隅たちが泊まりだなんだって言ってたし、準と何か話してるなーとは思ってたんだけど、寮で勉強会やってたんだ……ってあれ? もしかして、じゃああの2人って今、寮に泊まってんの?」
「うん」
本当は桜乃さんも居るし、ちょっと前から智穂も寮生になっているのだけれど、その辺りを勝手に話してしまうのはよろしくないかなと思いとどまって、聞かれたことに答えるだけにした。
ちなみに、智穂が居る理由については勉強会で来た3人、星歌と晴海、桜乃さんに説明はしていない。
本人から3人に説明しているかどうかは分からないけれど、聞かせたい話でもないだろうし、星歌たちと同じような理由で来ていると勘違いされているほうが本人にとっても都合がいいんじゃないかな。
「うん。まあ、そういうことだから……昨日は萌がずっと頭抱えてたよ」
「あー……うっさいの2人も来てたらねえ……」
私の言葉に、真帆だけではなく一緒に来ていた正木さんと都紀子も苦笑いを浮かべていた。
「うーん、じゃあ準を呼ぶのは難しいかあ」
「呼ぶ……って、もしかして勉強会?」
「そうそう」
修学旅行のグループ分けとは逆で、先にあの2人……いや3人に予約されてしまったから、確かに夕方以降の勉強会には参加できない。
……でも、一応方法はある。
「寮の勉強会は夜ご飯が終わった後だから、学校終わりすぐだったら大丈夫だよ」
「あ、そうなんだ。だったら、下校の放送流れるまでは図書室とかでやる?」
真帆の提案に、うーん……と言葉を少し考える正木さん。
「どうかしました?」
「いえ、図書室……この時期は特に混んでるんです。休憩スペースも大体、勉強している人で埋まりますし、4人分のスペースを取って勉強会というのは結構難しいかもしれないです」
「あー、確かにねー」
そういえば、花乃亜ちゃんもテスト前だと図書室は結構混むって言ってたっけ。
「だったら、寮の部屋を夕方くらいまで借りるとか? 準の部屋の向かいくらいに、めっちゃ広い部屋なかったっけ?」
「娯楽室かな。確かにあそこは結構広いけど、机とかあったかな……」
長机とか椅子なら、倉庫に行ったらありそうだけれど、運ぶのが大変かも。
「もし、部屋を借りるなら机とかがあるかも含めて、益田さんに確認しとくよ」
そう言って、スマホを取り出した私に「ちょいちょーい」と都紀子が言葉を挟んだ。
「立地的にはいいんだけど、他の寮生の子たちも居るんだよねー? となると、のんびりとほら……乱入とかありそうじゃないかなー」
「それは……そうかも」
寮に一時的に泊まっている3人の内、2人の顔が脳裏に浮かぶ。
「だったら、喫茶店とかファミレスとか?」
「勉強会のためだけに行くのも――」
……と、私はそこまでしか聞けなかった。
突然手を引かれ、ばひゅーんという音でもしそうな勢いで、教室を強制退去させられたから。
休憩スペースもカフェテリアスペースもほぼ使われているからか、私の手を引っ張るその人物はとりあえず壁の端の方に私を連れて行って、
「……小山、頼む」
と手を合わせて私にお願いのポーズをしていた。
「桝井さん……もしかして、小テストのこと?」
「それや!」
ぎゅっと私の両手を強く握る。
……うーん、まあこの展開かー……と思いつつも、話を聞く。
「特に数学がな……全く分からんねん」
「あー……えっと」
「もしかして、無理か?」
私のちょっと逡巡した表情にちょっとしょんぼりした感じの桝井さんだったのだけれど、
「今から?」
と私が尋ねると、桝井さんは首を横に振った。
「いや、今すぐじゃなくてもええねん。今日の夕方とか、明日とか……っちゅーか、小山は寮生よな? 寮の部屋とか空いてるなら借りて、夜に教えてくれるってのでもええんやけど」
「……」
昨日の、頭を抱えていた萌のことを思いつつも、嘘を言うわけにはいかないから、
「……空いてはいるよ。というか、同じ理由で寮に来てる子も居る」
と答えると指をぱちんと鳴らした桝井さん。
「それや! うっし、じゃあこれから家帰って着替え取ってこよ。ほんなら、また後でなー」
「う、うん……」
楽しそうに手を振った桝井さんが離れていくのを見て、私は昨日のせいか萌の目の下に出来ていた隈が深くなりそうだなと思いつつも、それ以上は考えないようにして教室に戻った。




