第28時限目 不思議のお時間 その34
『ま……だからこうやって、普通の……なんてことない話ができる相手が全然居らんかったんよ』
声色の柔らかい声で桝井さんが言った。
「……私も前の学校では同じような感じだったよ。まあ、あまりいい感じの人間関係は出来なかったから」
『ほー? 転入してすぐに、あんだけクラスメイト侍らせてた小山がかー?』
「いやいや、侍らせてはないよ」
苦笑しながら発した言葉に対し、受話器の向こうから返ってくる大笑い。
その笑い声が落ち着いてきた頃に、
『……まあ、お互い色々あるもんやな。なんや恥ずかしいとこ見られてもうたが……もう、今更や。今後もよろしくな』
と桝井さんの声がした。
「うん」
『ほな、おやすみー』
「おやすみ」
電話が切れたから、私はスマホを机に置いて、ベッドに転がった。
ベッドのスプリングがギシギシと鳴って、うたたね中を邪魔されたことに少しだけ不満そうだったテオだったけれど、ようやくもふられタイムだと分かった途端に鳴きながらこちらに近づいてきた。
私はテオにもふもふを献上しつつ、電気を消さなきゃと思いつつ……いつの間にか意識は落ちていた。
翌日の昼食。
「そういえば、もうすぐ修学旅行だねー」
都紀子の言葉で、私たち3人はほぼ同時に「あー」と声を出した。
「そういや、ホームルームでそんな話してたっけ」
「あれー、真帆ちん、案外反応薄いなー。楽しみじゃないのかねー?」
目をぱちくりさせる都紀子の言葉に、じとーっとした目で答える真帆。
「嫌じゃないんだけどね? でも、行くのって年代物のお寺とか神社とか、そういうとこばっかじゃん。もっとさー……こう、都会な場所とか行きたいじゃん!」
拳を握った真帆の勢いに、気持ちは分かると思いつつも、
「それはまあ……修学旅行の意義とかそういうのがね……」
と私は一応、説明した。
「でも、小学校の頃って普通に都会だったっしょ?」
「え? うちはそうでもなかったかな……」
「マジで?」
真帆と私は顔を見合わせて、ハテナをお互いの頭に乗せた。
「準って小学校の頃は何処行ったん?」
「平河の方」
「うげー、ド田舎じゃん!」
べーっと舌を出して、真帆が嫌そうな顔をする。
「でも、それこそ修学という意味ではいいと思うよ。かなり古い寺社仏閣の数々が……」
「神社は千早んとこだけで十分だって」
あーあ、と机に突っ伏す真帆に、正木さんが苦笑しながら視線を向けた後、
「でも、何だか古い寺院っていいですよね。落ち着くと言うか……」
と私と都紀子に言った。
「あー、それはなんだか分かるかもー。大きな木とか植えてあるし……御神木的なやつ? ああいうのは……なんだっけ、パワースポット? 的なやつだよねー」
「何、都紀子そういうの信じてるの?」
突っ伏していた真帆が顔を上げて、都紀子に聞く。
「たまにはねー。ただ、最近気づいたんだけど……ぶっちゃけ、神頼みよりも準にゃん頼みの方がよっぽどご利益あるんじゃないかなってねー」
にっひっひ、と都紀子が笑う。
「いや、ご利益はないと思うけど……」
「ほら、困ったときはとりあえず準にゃんがどうにかしてくれそうだしー」
「あー……それはまあ、そうかも」
何故か真帆まで……いや、正木さんも真面目な顔で同意しないで?
「って考えたらあれだねー。修学旅行のチーム分けが大変そうだねー、準にゃん」
「確かに引く手数多だし、今のうちに確保しとかないと!」
「よーし、確保ー!」
そんなことを言いながら、3人が集まってきて、他の子たちに見られ、萌に注意されるまでが1セット。
さて、そんな感じでもうすぐ修学旅行……秋もそろそろ深まってきたなーと感慨にふける――
「準! この辺りが全然分からん!」
「助けてちょー!」
「こっちの問3はー……」
「これの作者ってー……」
「……」
――ことも出来なかった。
理由は寮の食堂が大騒ぎだったから。
修学旅行の予行演習……というわけでもなくて、修学旅行前にある各教科の小テストの結果で10点満点中7点以上が取れなかったら補習、場合によっては修学旅行にも行かせない……ということになるかも? という先生たちのお達しがあったからだった。
まあ、10点満点の小テストで、今回は平均点が2、3点くらい落ちてるとなると、先生たちとしても無視できない状況だよね……というのはよく分かるけれど、流石に修学旅行に行けなくなるというのは……。
ただ、これは実際に先生から聞いたわけではなく、又聞きだからおそらく噂に尾鰭が付いただけだと思うけれど、危機感を持つという意味では良かったんじゃないかなと。




