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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第28時限目 不思議のお時間 その29

 とりあえず、どうにかするという言葉を一旦信じて、素直に伊久美いくみ姉妹の様子を見守る。


 昨日の件についての説明は、正直かなり大雑把おおざっぱなものだった。


 超常的ちょうじょうてきな存在が本当に居て、それを4人でどうにかした、っていう程度のもの。


 ここで”4人”としたのは私を除外したためだとか。


『ほら、あっちの……千早ちはやだっけ? あの子は元々”そういう”つもりで来てるじゃん? でも、じゅんは無関係なのに戦闘せんとうまで巻き込んだらしい、なーんて話が中途半端に記憶に残っちゃうと後で面倒なことになるだろうから。ま、ゴメンけどここは話を合わせてちょー』


 なるほど。


 正直なところ、りょうに帰ってきたときはあの妖怪ようかいに何度も吹き飛ばされた痛みは残っていたけれど、一晩寝て起きたら痛みもなくなって、むしろ体調はいつもよりもいいくらい。


 最初は昨日のことは夢だったんじゃないかって思ったりもしたけれど、洗濯せんたくかごに入っている昨夜着ていた服の傷やほこりは昨日あったことが現実だったということを示していたから、やっぱりあれは夢じゃないんだと。


『あー、体が治ってるのはびみょーに吸血鬼化きゅうけつきかしてるからかも?』


「…………!?!?」


 言葉は我慢したけれど、多分今の私は物凄ものすご形相ぎょうそうをして、文子ふみこさんを見ているんじゃないかな。


『でも確か、一時的なモンだから気にしなくていーよ』


 ……本当に?


 猜疑心さいぎしんを乗せた視線を文子さんに向けていると、


「……という訳」


 と千代ちよさんがどうやら事情の説明を終えたようだった。


 存在していたのが幽霊ではなくうそく妖怪だったとか、そういう情報を省略していたようだったけれど、それを知ったところで……とも思う。


「……」


 説明を聞き終えた理事長さんと益田ましたさんはほぼ同時に頭を押さえた。


 まあ、脳が理解をこばむというのはとても良く分かるのだけれど……本当のことだからなあ。


 むしろ、それ以上の非常識的な存在が目の前に居るし……。


「こちらからは説明終わりだけど、何か質問ある?」


「……」


 理事長さんが最初に視線を向けた先は千代さんではなく、はるかさんだった。


 そして、その遥さんは小さくうなずいて、


「……事実です」


 とだけ返した。


 その反応を見て、特大の溜息ためいきが理事長さんと益田さんの口からまろびでた。


「……その話を事実と受け止めるには少々時間を要すると思いますが……それ以上に、何故吸血鬼の貴女方あなたがたが我々を助けるのですか?」


「……は?」


 理事長さんの言葉に、次は伊久美姉妹が目を丸くする番だった。


「何故って……当たり前じゃん?」


「だよなあ……?」


 首をかしげる伊久美姉妹に、


「吸血鬼は我々人間とは相容あいいれない存在では?」


 と言った益田さんに思わず吸血鬼姉妹が食いつく。


「いや、そんな訳無いじゃん!?」


「アタシら伊久美姉妹といえば、昔っからこの辺りのやべー存在をぶっ飛ばして、人間守ってきてるんですけどぉ!?」


 ほぼ同時に身を乗り出して詰め寄る伊久美姉妹に、理事長さんが両手のひらで2人を制しつつ、


「し、しかし、吸血鬼といえば人間の血を吸うのでは……?」


 と尋ねた。


「そりゃそうだ。ただ、逆に考えてみ? 人間が全員居なくなったら、アタシら吸血鬼はおまんまの食い上げじゃねーか」


 ……確かに、人間が居なくなったら血の供給源きょうきゅうげんがなくなるわけで、そうしたら吸血鬼も共倒れになってしまう。


「だから、血をもらう代わりに、アタシら含めて、吸血鬼はずっと人間とは共存関係を続けてんだけど……何、そういうの知らない感じなん?」


『準、こマ?』


 こマ……今の話が本当かってってことであれば、私たちの理解はそうですよ。


 よく血を吸われた子がその場に倒れていると聞いていたので、危険な存在なんだろうなと。


 私も血を吸われたとき、結構痛かったので危険だなと。


『いや、あれはゴメンて……でも、そマなら泣くわー』


 顔には出さないけれど、文子さんの声は割と本気でしょんぼりしている感じだった。


 ……しかし、千代さんの話は確かに理解できる。


 もし、ああいう危険な存在がうじゃうじゃ居て、伊久美姉妹のような吸血鬼がそれらから守ってくれていたのであれば、今までそういう存在に出くわさなかったのも理解できる。


 ………………うん、もう2人ほど吸血鬼を知っているのだけれど、その内の1人はむしろ私と同じように色々と巻き込まれてもあたふたするだけじゃないかなって思った。


『え、準。幽霊以外に吸血鬼の知り合いも居るん? また今度会わせてちょー』


 あ、まだつながってるんだった。


 構わないですよ。


 その吸血鬼、クラスメイトなので。


『おっけー』


「じゃ、今後は覚えといて。吸血鬼の伊久美姉妹はこの街の平和を守ってるって。ま、それ以外は全部、忘れちゃうと思うけど」


「え?」


 思わず、私がはっとして千代さんの方を向いた直後、一瞬何かが光って……2人はその場から消え失せていた。


「…………えっ!?」


 私が突然消えた2人を探して、食堂内のあちこちに視線を向けていると。


「……ん、私……何故、りょうに? 綾里あやり、何か用事だったかしら?」


「…………何かのために呼んだ気がするんだが、私も思い出せないな……」


 理事長さんと益田さんだけではなく、他の寮生たちも軒並のきなみ何をしていたか、覚えていない。


 まさか、あの2人っていちいち目を合わせなくても記憶が消せるの?


 というより、あの2人はどこ?


「……私たち以外の記憶をある程度消して、もう帰ったわ……2人共」

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