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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その21

「こやまんの持ってるブラの種類おかしかったし」


「な、何が?」


 中居さんの言葉に私は少し色めいた。


「フツーさ、同じ子がA60とC70ブラ持ってるとか無いって。A60の方はこやまんの昔使ってたのかと思ったら、かなり買いたてっぽかったし、そもそもこやまんアタシと同じでCとか無いし。見栄張ったん?」


「え、ええっと……?」


「もしA70とC60ならアンダーから寄せて……いや、流石に寄せてあげてもA70からC60も無理っぽ」


「あ、あの……」


「ていうかそもそもブラのサイズとかも全然分かってなくない?」


「うっ……」


 いや、確か転校してきたばかりのときに益田さんと理事長さんから、男だとバレないようにブラのサイズの話とか教えてくれた覚えはあるのだけど、情報を披露する場所もタイミングも無かったから、全然気づかなかった。


 それに、同じようにブラを勝手に物色していた岩崎さんが何も言っていなかったから、これが普通だと思っていたのだけれど。


「クレンジングって言ってもぽかーんとしてたし、ショーツのこと、パンツって言う派だし」


 畳み掛けるように中居さんが言葉を玉入れするみたいに投げ込んでくるのだけど、私はその玉を受け入れるほどの余裕が無くて目を白黒させるしかない。


 ……でもパンツ派は大隅さんも居るよ! と心の中で唯一反論出来た。声に出してないからしてないのと一緒だけど。


「あ、あの……えっと……」


「それと最後。女子の裸見てキョドりすぎ」


「うっ……」


 トドメとばかりに言う中居さんは振り返って、私を少し上目遣いに見る。


「もし、まだ女だって言い張るならアタシの胸、触ってみなよ」


「え?」


 中居さんの爆弾発言。というか、男だと疑っている相手に胸を触れなどと言うのはどういう意図からだろう。ただ単純にすけべ心があって、むしろ触りたいぐらいの男だったら触るだけじゃ済まないかもしれないのに。


「ほら、どうなん? あ、目は逸らすのは無しだかんね」


 ぐっと胸を私の目の前に差し出してくる中居さんの体から私がまた視線を逸らそうとしたら、中居さんが両手で私の顔を自分の裸体に向けた。


 大きいと形容するほどではないけれど、確実に女の子している体つきで、それはもう思春期の男子生徒には刺激が強いどころの騒ぎではないから、ずっと見ないように気をつけていたけれど……。


「どうする?」


「…………無理です」


 頷いて、


「素直でよろしい。ご褒美」


 と言いながら中居さんは私の腕を掴んで、自分の胸に押し当てた。


「わひゃっ!」


「何だー小山、うるさいぞ」


 むにゅっとした感覚に思わず変な声が出てしまったところでお風呂の扉がガラガラッと開き、大隅さんのジト目顔が覗く。う、大隅さんもまだそこに居たんだ。ということは……。


「星っちはどう思う?」


「ん? 何がだ?」


「さっきの話」


「今のってなんだ? 風呂ん中で話してる内容とか聞こえてねえよ。何の話してたんだ?」


 大隅さんがそのままジト目で私たちを見てくる。


「えっと、その……」


「こやまんが女の子なのに、女同士で裸見られるの恥ずかしいっていうのはどうか、って話ー」


「まあ、小山は変人だからな」


 酷い言い草だったけれど、私は直前のことがあったから何も言えずに押し黙った。


 ……というか中居さん、私のこと女って?


「とにかく、あたしは部屋に先に戻ってるからな。早く来いよ」


 大隅さんは大した話じゃないと思ったからか、それ以上追求をせずに扉を閉めた。その様子を鏡越しに確認した中居さんは、


「ほら、こやまん。手が止まってるじゃん。さっさと体洗ってちょー」


 と何事もなかったかのように言う。


「え、あ、はい……」


 僅かな逡巡の後、私は中居さんの背中をスポンジでこする。


「……それで、なんでこやまんは女子校入ったわけ? 女の子の裸見たかったからとか?」


 スポンジを上下に往復させるだけの機械になり掛けていた私に、再び声を掛けてくる中居さんの言葉。


「ち、違っ! ……違います」


 大声を出しそうになって、というか一瞬だけ出してしまって、声のトーンを再調整してから私は話を続けた。


「これは深い事情が……いえ、言うほど深くはないです。単純な手続きミスですから……。さっき話した通り、前の学校の先生がこの学校を勧めてくれたんですが、女子校だと知らずに転入試験を受けたら合格してしまって、そのまま入学許可されてしまった、という流れです」


「手続き以前に、フツー男子って女子校って入れないんじゃん?」


「……のはずなんですが、写真とか性別とか全て男でちゃんと書いていたにも関わらず、顔立ちのせいか書類ミスだと勘違いされてしまって……」


「あー、確かにさっき言ったみたいなおかしいとこなければ、アタシもこやまんは女の子だって思ってたし」


「……やっぱりそうなんですか」


 喜ぶべきか、悲しむべきかの時期は既に通り越したつもりだけれど、当たり前のように言われるとやっぱりちょっとだけ凹む。


「てか、こやまん。また言葉戻ってる」


「あ、えっと……」


 正直なところ、この状況でまだ気軽に話すほど、私は肝が据わっている訳ではなかったから、言葉を戻していたのだけれど。


「つーかアタシ、別にこやまんに学校出て行けとか言うつもりないよ? バラす気も」


「え?」


「何? こやまん、学校辞めたいの? 性転換までしたのに?」


「してませ……してな、してない、から」


 距離感を掴み損ねながら、同時に性転換なんて言葉に動揺しながら、私はぐちゃぐちゃの言葉を口から押し出す。


「だって、ついてないじゃん。切って治療したんじゃないの? それ」


 それ、と言ったタイミングで振り返って私の股間を指す。


「これはとある人から、見た目ではバレないように貰ったシリコンのパッドを使ってるだけ」


 ……そうだ。今、この女の子変身セットを付けていたのにも関わらず、男だってバレた。本当に中居さん、恐るべし。


「マジで!? そんなのあるん?」


 興味津々といった感じで作り物の股間を撫でてくるので、思わず私は飛び退った。


「ちょ、ちょっと!」


「ちょっとくらい触ったっていーじゃん。触らせてくれなかったら男だってクラスでバラしちゃおっかなー。アタシの胸触ったしー」


「……う」


 そう言われると弱いのだけど、あっはっはと笑い飛ばしながら中居さんは再度鏡の方を向く。


「まあ、ジョーダンだけどさ。で、こやまんは学校辞めたいわけ?」


 中居さんの声は責めるでもなく、怒るでもなく、雛が餌をねだるように私の答えを待っているようだった。


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