第28時限目 不思議のお時間 その26
新しい話題……と言っても、話題は当たり障りのない話ではなく、私が今やらなきゃいけない事情説明くらいだから、それを頭の中で必死に整理しつつ喋る。
幽霊が目撃されたらしいということで調査に来たこととか、危険かもしれないと不安だったから攻撃しようとしたけれど、今後何もしないのであれば今すぐ私たちはこのまま帰るということとか。
……かなりこちらに都合の良いことばかり言ったとは思うけれど、回答は、
「…………わかった。今すぐ帰るなら、いい」
という見た目通り少し舌足らずな声でのOKを意味する言葉だった。
……あ、あれ?
拍子抜けというか、あまりにもあっさりすぎて、NGが出たら他に何を言おうかと脳をフル回転させる準備をしていたら、脳内の私が勢い余ってずっこけてしまった。
「え、ほ、本当に大丈夫……なの?」
自分から言い出しておいて、大丈夫と聞くのも妙な話ではあるのだけれど、私は念押しのために聞く。
「うん」
おかっぱ髪を縦に揺らして、少女が答えた。
……良かった。
思っていたよりもずっと理性的というか、優しい子だった。
ほっとした私は彼女に背中を向けて、
「……じゃあ、帰りましょう」
と2人……遥さんと千早に向かって笑顔を見せた。
2人は何か言いたげだったけれど、これ以上戦うのは無理だと判断したのか、私がもう1度促すと素直に歩き出した。
途中で1度、私は振り返って彼女がその場にそのまま立っているのを確認し、左右をぴったりと吸血鬼姉妹も無言でついてきていることまで確認。
うん、大丈夫。
私たちが下の階に向かうスロープに差し掛かるまで後数歩。
ここまで来れば、もう大丈夫だろうと安堵の息を吐こうとした私は、直後にぞぞっと怖気が走って、足を止めた。
「準!」
私が振り向く前に反応した遥さんと千早が私と少女妖怪の間に立ち塞が……る、その前に。
「それはさぁー」
「愚策なんだよなあ」
吸血鬼の姉妹が少女を蹴り飛ばして……その少女は闇に溶けて、消えた。
……そう、消えた。
もしかすると、蛍光灯も点けず、月明かり以外の光がないから暗がりに隠れたとか、それこそこの2人が私の中に隠れていたみたいな可能性もゼロではないけれど――
「アタシら舐めんなっての。……とはいえ、アイツもちょっと可哀想だったけど」
「まー、いんじゃない? どっちにしても、悪さ続けるんだったらその内にママが来て消しちゃうだろうしー。今消しても変わんないって」
「それもそうか」
――という会話の内容からして、本当に消してしまったらしい。
「……いいか、準」
姉妹の会話を終えたらしい吸血鬼姉の方が、振り返って私に言った。
……相変わらず、裸のままだったのだけれど。
「あいつは人を騙すことを生業として、人間が混乱したときとか恐怖みたいな……簡単に言えば”負の感情”で生き永らえるヤツだ。お前の友人も騙されただろ?」
「え? ……あ、はい」
確かに、真帆に限らず、桝井さん……疑いながらもある程度は信じていた人間を含めれば相当数居たはず。
「だから、基本的には本気でこっちの命を取る気はない。もし、相手の生命を取ってしまったらもうその負の感情を食えなくなるからな」
遥さんたちも私も、擦り傷はあれども本気で命に関わりそうな反撃がない理由はそういう意味だったんだ。
「とはいえ、今回は大人数で来て……その上、自分たちの状況が悪くなったから交渉だろ?」
「だから、さっきの交渉もさー……分かるっしょ?」
吸血鬼妹の方がそう、私に尋ねた。
あの少女は人を騙さないと生きていけない。
つまり――
「最初から全部嘘、許すつもりはなかった……ってことですか?」
「そ」
私の言葉に対して、短くそう答えが返ってきた。
私が膝から崩折れたのは自分がやったことが無駄どころか悪化させていたことによるものなのか、それとも体の奥底から上がってきた恐怖のためか。
そんな絶望の私の肩を、きゃっはっはと笑いながら叩く妹の方。
「だから言っただろ? 相手が聞く気があるのが大前提だって。最初から約束を反故にする気マンマンのやつに何を言ったって仕方がないってこと」
「そーそー」
「それは……分かってますけど……」
だったら……最初から分かっていたのなら言ってほしかった。
完全な無駄だったわけだから。
そう思ったのが彼女たちにもバレていたのだろうか。
「もし、無駄だって言われててもさー」
「準ならやるんじゃん? あの状況、どうにかしなきゃってさ」
「…………」
確かに、あの短時間で思いついたことは交渉くらいしかなかった。
なら、ただ見守っているだけよりは……無駄を承知でやっていたかもしれない。
でも、それが最悪な展開を生んでいたと言われたら、正直凹む。




