第28時限目 不思議のお時間 その22
昨日の夜ももちろん”怖かった”のだけれど、正直今日の”怖い”はちょっと意味が違うというか。
正直、幽霊とか妖怪よりも一緒に居る人の方が……ね。
「ねえ、デカブツ。言ってたのはこの辺よね? 何も見えない?」
はてさて、長い回想を経て、千早さんがこんな確認を取ったところまでようやく戻ってきた。
ちなみに、言い慣れているせいなのか、まだたまに千早さんは”デカブツ”呼びするけれど、多分無意識的なものだと思うから仕方がない。
「それらしい気配はないわね。単なる見間違いで騒いでいただけじゃないかしら」
探し始めてまだ10分くらいしかならないと思うのに、やる気がなさそうなことを言う遥さん。
……正直、私だって今回の調査がただの徒労に終わってくれる方が良いとは思っている。
疑心暗鬼を生ず。
つまり、あれは本当に猫が勝手に校舎に入っていただけで、私たちの勘違いでしたと。
そう終わってくれるのが1番良いと思っている。
でも、桝井さんが言っていたように猫のような丸い目ではなかったと思うし、幽霊が世の中に存在していることも知っている。
だから、私としては居ないとも居るとも言い難いし、むしろ白黒はっきりさせてくれた方が助かるけれど……難しい気がするなあ。
「……千早さん」
「千早でいいわよ」
私がこそっと耳打ちすると、千早さんはこちらを向かずにそう返した。
「えっと、じゃあ……千早。今日はいつまで幽霊? 妖怪? 探しをするの?」
所謂、悪魔の証明という話で存在しないものを存在しないと証明するのは難しいということ。
遭遇すれば存在すると証明は出来るけれど、今日遭遇しなかった場合、たまたま今日は出てこなかったのか、それとも本当に存在しないのかは分からない。
ただ、こういう超常現象的な存在専門の人たちなら何かしら考えがあって来たのだろう。
だから、私は尋ねたのだけれど。
「……さあ」
「え?」
「私も知らないわ。お母さんが満足するまで探して、終わりじゃない?」
……何も考えなしだった。
理事長さん側も本当かどうか分からない状態で依頼したのだろうけれど、当の本人がそんな適当でいいの……?
ただ、全くの考えなしというわけではないようだった。
「正直、ここでは何も感じないのよね。だから、多分……お母さんも早めに切り上げると思う」
周囲に視線を巡らせる千早さんがそう言った。
「ここでは……ってことは、感じる時はあるってこと?」
「ええ。前に温泉旅館で準と会ったでしょう? あのときに居た2人の吸血鬼、覚えてる?」
言われて「あー……」と言いながら、記憶の断片を掻き集めてきたけれど。
「……なんかどっちもギャルっぽい感じの……」
「どういう覚え方よ、それ」
懐中電灯で照らされた千早さん……千早の呆れ顔が見えたけれど、私は素直に答えた。
「いやほら、なんというか見た目の特徴よりも、吸血下手だったなとか、人を騙そうとしてたなとか、でも妹の方は色々と自分からバラしちゃうタイプだったなとか、そういうのばっかり思い出されちゃうから……」
「まあ、つまり……全く興味がなかったのね」
「えっと、うん。『酷い話だよね』」
私は言って……首を傾げた。
いや、酷い話かどうかといえば確かに酷いのだけれど、いちいちフォローする必要もなかった気がするし、それに今一瞬自分じゃない感覚があったというか……前にも何か似たようなことはあった気がするんだけど、なんのときだっけ?
「酷い話だって分かっているなら、もうちょっと他人に今日も持ちなさいよ。で、その姉妹だけど、妹の方は茶髪でツインテール、何ていうか相手を小馬鹿にしたような表情ばっかりしていて、八重歯が特徴ね」
「あー、そう言われてみればそうだったような気も……?」
……しなくもないような気が?
「本気で興味なかったのね」
溜息を吐いた千早は続けた。
「姉の方は黒髪だけれど、目はかなり吊り上がっていて、何と言うか性格の威圧的な感じが顔にも出ているって感じだったわ。濃い色の口紅を付けていることが多かったはずよ」
「良くそんなことまで覚えてるね」
「まあ、探していた吸血鬼だったから当然よ」
「探していた?」
そういえば、前に誰かから依頼されたのかとか尋ねたけれど、教えてくれなかった。
でも、少なくとも探していた存在ではあったみたい。
「……そこは内緒……っ!?」
はっとした千早が視線を一点に向けた。
遥さんも臨戦態勢で、あの木の棒に白い紙でわさわさしたものを付けた……あ、そうそう大麻と御札を構えていた。




