第28時限目 不思議のお時間 その20
「巻き込まれ系……それはまあ、うん……あるかもしれない」
思い返してみても、転校してから半年強くらいで色々とイベントが起こり過ぎだと思う。
言うなれば、探偵モノとかで毎週のように大事件が起こってるような状態。
そりゃあ、自分から首を突っ込んでしまったものもあるけれど……いや、もう今更そんなことを思っても詮無いことかな。
「とにかくデカ……じゃなかった、えっと……小山、さん?」
「普通に準でいいよ」
「そう? じゃあ、準」
さらりといつもの調子に戻った千早さんは改まって言った。
「今回の騒動の原因が貴女でない……いや、責任の一端はあるとしても主犯ではないと分かったわ。ただし、残念ながら私たちは貴女を連れて行く必要がある」
「えっ……? それは昨日、夜に忍び込んだから、罰として?」
「違うわよ!」
私の言葉にまたぐわっと来た千早さんはまた冷静さを取り戻しつつ、全く……とまた溜息。
……あ、分かった。
いや、千早さんが何を言おうとしているかが分かったのではなくて、何かこの構図に見覚えがあるなあと感じた理由に対する自己解決の話。
あれだ……寮でよく萌に怒られてたときと同じ雰囲気なんだ。
最近はあまり怒らなくなった萌だけれど、ホント会ったばかりのときにはしょっちゅう怒られていたし、それが原因で廊下を歩くときは足音を立てないように気を付けて、まるで忍者を目指しているんじゃないかってくらいにつま先立ちで歩いていたこともあった。
そして、そんなことをしているところを見つかったら、それはそれでまた怒られるという……まあ理不尽さもあったけれど、今では良い思い出かなとかしみじみ思っていると。
「……何笑ってるのよ。またデカブツに戻すわよ」
「はーい、ごめんなさーい」
全くもって誠意のない感じの回答をした後に、私は話の軌道修正をする。
「それで、私がいかなきゃいけない理由っていうのは?」
「貴女たちが”目”を見たって言っていたからよ。何処で見たのか、そして私たちが行ったときに見つけた場合、その”目”が同じものかどうかを確認するためよ」
「平たく言うと、証言の裏付けのため……ってこと?」
私の確認に首肯する千早さん。
だったら、あの他2人も……と言いたいところだけれど、多分千早さんとは合わないタイプだろうなあ、という気もする。
今度は私が、小さいけれど溜息を吐く番。
「状況は大体飲み込めたけど、私たちが見たのはただの”目”だけ。私たちよりもはっきりと幽霊を見た……えっと、真帆の後輩の子も呼んだ方が確実じゃ――」
「それ!」
私が言葉を言い終わる前に、千早さんは私に人差し指をびっと向けて、結構な声量で言った。
「え?」
「それが最大の問題なの」
「……え?」
脳内の疑問符工場がせっせとハテナを作り続ける中で、千早さんがそのハテナを解消していく。
「その後輩って、真帆が助けたいと言っていた子のことでしょう?」
「そうそう」
真帆があれだけ気にしていたし、言えば喜んで協力してくれるんじゃないかな。
……いや、もうあんな怖いところには行きたくないとか言うかもしれないけれど、少なくとも情報提供くらいはしてくれるはず。
「名前」
「……名前?」
あまりにも短くそう言われて、私は思わず聞き返した。
「真帆が言っていた後輩の名前、貴女は知っている?」
「い、いや私は知らないかな……でも――」
「真帆が分からない、と言ったのよ」
……どういうこと?
「当然、たまたま後輩の名前を忘れることもあると思うわ。だから、名前以外の何でも良い……学年とかクラスとか、それ以外の何かでいいからと教えて欲しいと言ったのだけれど、何も分からないそうよ」
「……もしかして」
話を聞いて、1つだけ思い当たることがあった。
それはつまり――
「ええ、そう。恐らく、そもそも彼女に嘘を吹き込んだのが”幽霊”なのだろうと思うわ」
「…………あ! なるほど!」
「? 普通に考えてそうでしょう?」
あっっっっぶなかった……。
確かに、そういうパターンもあるんだった。
私が思いついたのはその話ではなくて、もしかすると千華留と同じ吸血鬼だったという場合。
同性同士であれば目を合わせて記憶を消すことが出来るらしい……と千華留たちが言っていたから、まさかと思ったのだけれど……危ない危ない。
そんな発言をしていたら、一体どこから聞いた情報なのか、なんて根掘り葉掘り聞かれるところだった。




