第28時限目 不思議のお時間 その17
ということで、何事もなく朝。
……うん、”私たち”は何もなかった。
ただし、問題は起床後にあった。
目覚めたばかりの私が大きな伸び、そしてまだ寝ている桝井さんが隣に居ることを確認して。
「準、桝井さんを見なか――」
扉のノックもそこそこに、萌が私の部屋の扉をオープン。
萌がちらりと向けた視線の先……私のベッドには桝井さんが眠りこけている。
……となったら、完全に沈黙した萌が何を考えたのかは容易に予想ができる。
いや、一瞬だけ”男女の関係”の方を疑われたのかと思ったけれど、萌は私の秘密の方を知らないから、そっちではないとはすぐに気づいたけれど……勘違いされる方面がどっちの方がマシだったのかは疑問が残るかなあ。
「貴女たち……」
一瞬だけ、妄想の世界に逃げ込んでいた私は萌の言葉で現実に引き戻された。
そうだ、現実逃避しても、何も解決しないんだった。
「いや、萌ちょっと待って話を聞いて違うから」
「いえ、そういうのは自由だから……」
頬を赤らめつつ、視線を合わせない萌。
あっ、はい。
やっぱりそういう勘違いをされますよね。
萌の赤面なんて珍しいだろうと思うのに、ゆっくり観察している暇はない。
「だから、そういう関係ではなく!」
「ただし、学生という立場を考えるとほどほどにしておいてね。後、私はそっち側ではないから……」
「違うから!」
おそらくなのだけれど、特に萌が間違った方向に理解を進めてしまったのは、密着しすぎて暑かったのか、桝井さんが胸元のボタンを2つほど外して、谷間が強調されていたからだろうと思う。
そそくさと部屋を出ていった萌を追いかけようかとしたけれど、隣で桝井さんがまだ寝ているし……ということで、申し訳ないけれど揺らして起こして、事情を先に説明した。
桝井さんは大笑いしていたけれど、今後のことを考えたら変な勘違いを続けられるのは非常に困るし「桝井さんが起きた後、部屋を間違えて私の部屋に入り込んでしまった」ということにして、朝食の時間に萌を捕まえて、説明した。
ひとまずの納得をしてもらった……はずなのだけれど、若干疑いの眼差しが残っていたような……いや本当の本当に何もなかったから!
「いやあ、すまんなー」
「誤解は解けたみたいだから、いいよ」
「全く、人騒がせですわねえ」
桝井さんの制服と鞄を持ってきてくれた星野さんに事情を話すと案の定、呆れられたけれど、まああれは色々と仕方がないところもある。
桝井さんが制服に着替えて部屋から出てきたのを確認して、私たちは3人並んで校舎へ向かう。
ちなみに、星野さんには本当の話……桝井さんが怖がって、一緒の布団に入ったということは説明した。
というか。
「またでしたのぉ? 私の部屋で怖い映画を見た後も、同じようなことはありましたわぁ」
溜息混じりに言う星野さん。
「同じ……って高校になってからも?」
「ええ」
一般的な女子高生というものを良く知らないのだけれど、案外珍しいことではないのかな。
「ま、ええやないか」
諸々の張本人である桝井さんは大笑いしながら先行する。
何だかんだ1番ぐっすり寝ていたのは彼女だと思うから、寒さを我慢して一緒に布団に入ったことは意味があったのだろうと思うけれど、仕方がないことも重なったとはいえ、ちょっとくらいは反省してくれてもいい気がする。
そんな桝井さんの背中を見つつ、私にこそっと近づいた星野さんは、
「……で、本当に何もしなかったんですのぉ?」
と背伸びしながら、耳打ちする。
「え? うん、何も」
「本当に?」
「うん」
訝しむ星野さんだったけれど、
「……まあ、良く考えれば寮生があれだけ居る中で何も起こっていないようなのですから、言葉通りで何もないのでしょう」
と勝手に自己解決をして、それ以上突っ込んでこなかった。
さて、私たちは教室に着くなり、待ち構えていた咲野先生にまず指導を受けた。
星野さんが先に聞いていたように、今後は勝手なことをしないように、ちょっとだけ怒気を含む声で言われたけれど、やっぱり大半は私たちを心配した言葉だったということは記しておく。
で、放課後は正木さんたちに声を掛けられたのを謝罪して断りつつ、共犯者3人で理事長室へ。
内容はまあ咲野先生に言われたこととさほど変わりなく、勝手なことはしないように釘を刺されただけ。
「次やったら……分かっていますね?」
そう言った理事長さんの顔は……うん、結構怖かった。
さて、色々あったけれど。
……私は再び、夜中の学校に居ます。




