第28時限目 不思議のお時間 その15
何だかラストではちゃめちゃになってしまった1日がようやく終わって、ベッドに入……ろうとして、テオにふぎゃふぎゃと不満全開の声を上げられたから、満足するまで撫で回し、ようやく気が済んだかなと今度こそベッドに入ったところで、今度は部屋の扉がノックされた。
「……? はーい」
「あー、えっと……小山、まだ起きとるか?」
声からして、ノックした人物はどうやら桝井さんのようだった。
こんな時間に、部屋に来るということは何かしら用事があるのだろうと思うけれど、結構へとへとだからなあ。
「寝てるよ」
「起きとるやないか!」
一旦ボケておいたけれど、恐らくこの時間に桝井さんが来たということはつまり……まあ今日のことで何かしらあったのだろうから、本気で追い返すことは考えていない。
……というわけで。
「鍵、開いてるよ」
「ほんじゃま、失礼しますっと」
そう言って、入ってきた桝井さんはさっき私が貸した緑と白の縞模様のパジャマ姿だった。
私は体を起こして確認する。
「もしかして、怖く――」
「怖いわけやないねんけどな!」
私の言葉に被せるように、桝井さんが言った後に、頬を掻きながら、
「……いや、今更小山に隠してもしゃーないか」
と直して、桝井さんはベッドに腰掛けた。
「なあ、さっきの”目”の話、ホンマに猫やったと思うか?」
「……それで決着したと思っているんだけど」
そう返すと、
「うん、とは言い切らんのやな」
と桝井さんが言う。
「可能性はゼロじゃないからね」
「ホンマにそれだけか?」
「……」
お互い、”そうじゃないだろうな”と思っているからこその言葉だと思う。
「風音はそもそも”目”自体、見とらんようやし、ウチと同じもんを見たんは小山だけやろうなと思っとる」
「そうっぽいね」
視力が悪いわけでもない星野さんだけ見えなかった、というのはちょっと疑問が残る。
あれだけはっきりと2つの楕円が浮かんでいて、それも最後は逃げるように動いていたから、彼女だって気づいてもいいはず。
かといって、星野さんが嘘を吐いていたというつもりはない。
後、残る可能性としては――
「これは単なる勘なんやけどな……」
天井を見上げて、桝井さんが言葉を発した。
「信じてる相手の前にしか見えない幽霊なんやないかと」
私が考えていたことと同じ答えを桝井さんが提示した。
「一応、確認やけど……小山は幽霊を信じてるか? 信じてないなら、その時点でウチの見当違いや」
あのときの実体験は説明出来ないけれど……。
「居る……かもしれない、くらいには考えているよ」
「その程度じゃ分からん。居るか居ないか、どっちか選べ言われたらどっちや?」
「……居る、の方かな」
私の言葉に複雑な表情で頷いた桝井さん。
「なら、やっぱ可能性アリ……やな」
桝井さんは足を組んでから言った。
「風音はああいうのは全く信じないタイプなんや。居るんやったら見てみたい、とは思っているらしいんやけども、居ないことを確認するような立ち位置や」
「なるほど」
トイレの花子さんを見た子ももしかすると、幽霊を信じていたからこそ見えてしまった可能性はある、と考えればかなり信憑性は増す。
そして、カメラにはそういう”意思”が反映されないから録画されない、と。
そうなると、あれが幽霊だったと仮定すれば、確かに筋は通るような気がする。
「つまり、私たちがまた行けば見てしまうかもしれないということだけど……夜中に行かなければ遭遇することは多分ないよね」
「せやな」
「じゃあ、夜中に行かなければオッケー、ということでおしまいかな」
「……せやな」
……沈黙。
話が終わってしまった。
「じゃあ、明日も学校だし、寝ようか」
「……」
私がそう言うと、ちょっと不服そうに私を見る桝井さん。
……いや、桝井さんが今欲しい言葉は多分、あれなんだと思うけれど、私の口からちょっと……ほら、一応男女だし。
「小山、分かってて言っとるやろ」
「さあ、どうだろう」
とぼけたフリをして、私は布団に入り直す。
「私には隠してもしょうがないって言ったなら、ちゃんと言うっていう選択肢もあると思うけど」
「ぐぬぬ……」
意地悪したいわけではないけれど、私の秘密を考えると本来は追い返すべきだと思うし、かと言ってじゃあ他に頼る相手となると……難しそう。
意地を張る方を諦めたらしい、桝井さんは言った。
「……一緒に、寝て欲しいんやけど……」




