第28時限目 不思議のお時間 その11
一瞬、何の音!? とパニックになりつつ、少し遅れてガタガタドカン! と何かが転がったような音もして、更に不安を煽ったけれど、落ち着いて電子音に耳を澄ますと自分のスマホの着信音だったことに気づく。
スマホの画面を見ると『みゃーちゃん』からだった。
「はい」
通話に出ると、聞き覚えのある癖のある語尾。
『準は今、部室棟に居るにゃ?』
「え? あ、ううん。さっきまでは居たけど……何故?」
『さっさと寮に戻ってくるにゃ。今なら先生たちにちょっと怒られるだけで済むにゃ』
「先生たちに……ってどういうこと?」
みゃーちゃん曰く、さっき星野さんが言っていた『電源が入ると自動的に通報される装置』が部室棟にもあるらしく、さっき私たちが部室棟に入った際、みゃーちゃんと理事長さんに通報が行ったらしい。
で、昨日みたいにみゃーちゃんたち……つまり、寮生の皆で監視カメラを確認したら、夜中の部室棟に入っていく3人……つまり私たちの姿が。
最初暗くて誰かは分からなかったらしいけれど、さっき出ていくときに鉢合わせた華夜がバラしたらしく、すぐに私たちと分かったみたい。
で、そこに益田さんが明日の朝食の仕込みで入ってきてしまったからさあ大変。
……となりそうだったのだけれど、入ってきたのが泥棒とかではなく生徒たちということで、事情を説明すればお咎めなしとは言わないけれど、お小言くらいで許してもらえるから、早く帰ってこいとのことだった。
もちろん、明日理事長さんにもその辺の話はされているらしいので、別途怒られると思うけれど。
『……ということにゃ』
「……分かった。連絡してくれてありがとう」
通話を終えた私が、星野さんたちに話を伝えようとすると、さっきまで居たはずの2人がその場に居ない。
え、あれ? と思った私が周囲にスマホのライトと視線を巡らせると、
「こっちですわぁ」
と声がした。
声の方に近づくと、足元に星野さんと桝井さんが蹲っているようだった。
「だ、大丈夫? というかどうしたの?」
駆け寄って私が尋ねた。
「こ……」
「こ?」
顔を上げた桝井さんが弱々しく答えた。
「腰抜けた……」
「え……あ! もしかして、今の着信音で?」
私の疑問に、力なく頷く桝井さん。
「流石にあの大きな音は私も驚きましたわぁ」
「ご、ごめんなさい。マナーモードにし忘れてて……」
確かに、幽霊にびくびくしていた桝井さんが突然あんな大きな音を聞いたら、立ち上がれなくなってしまってもおかしくないかな……。
「私では浅葱を抱えて行くことが出来ませんから、代わりにお願いしますわぁ」
「え? あ、うん。それはいいんだけど……」
「何かあるんですの?」
私はさっきみゃーちゃんが言っていたことを説明すると、星野さんは深い溜息を吐いた。
「やられましたわぁ……。部室棟は別の建物だから大丈夫だろうと聞いていましたのに……」
「まあ、仕方がないよ。お小言だけで許してもらえるらしいから」
苦笑しながら私は桝井さんを背負って立ち上がった。
背負った背中から体のあちこちにボリュームがあることが分かって、全体的に凄さが凄い! みたいなことを考えるよりも先に彼女の状態が気になったことに一安心した。
……いや、そもそもそんなこと、カンガエテナイデスヨ?
「それにしても、桝井さんってどうしてそんなに幽霊とか苦手なの? 実際に幽霊、見たことあるとか?」
冗談めかした私の声に少しだけ考えた後、桝井さんが徐ろに口を開いた。
「ある」
「……え、本当に?」
本気だとは思わなかったから、私は目を瞬かせてから、背中に疑問符を投げた。
「見たのは子供の頃や。小さい頃から結構、悪戯っ子でな。で、悪戯するとオカンが狭い押し入れにウチを押し込めよんねん。昔は暗いところは別に怖なかったから、どうせ反省したフリしとけば、その内に出されるやろと思っててん。実際、ほとんどがそうやったんやけども……」
深呼吸を挟んでから、桝井さん続けた。
「1度だけな……その押し入れの中の暗闇で、何かと目が合ってん」
「目が合った?」
私たちが教室を出て、スロープに向かっている途中で、
「せや。あー、丁度あんな風に……」
と桝井さんがこの階の中央にあるカフェテリアの方を指を差す。
その先には……確かにギョロっとした丸い2つの円……目のようなものが浮かび上がっていた。
「……あ、ああ……あれや、あれや!!」
バンバンと私の背中を叩き、耳元で叫ぶ桝井さん。
「え? なんですの? 目ってどれですの!?」
理解できていない星野さん。
まさか、本当にトイレの花子さん?
それとも、私たちみたいに忘れ物を取りに来た生徒?
ただ、その目は私たちの声に反応して、私たちから離れる方向に動いたのが見えた。




