第28時限目 不思議のお時間 その9
とにかく、侵入方法は問題ない、と。
いや、侵入自体が問題ではあるけれど、それは一旦置いといて、私たち3人はまず部室棟から確認することにした。
その理由だけれど。
「簡単ですわぁ。トイレの花子さんの目撃情報は教室棟のみだから、ですわぁ」
「そうなんだ」
それなら確かに、先に部室棟で件の紙が見つかれば教室棟まで探さなくてもいい、つまり花子さんとの遭遇はなし、ということになるのだけれど、よくそんな情報を持ってたなあ。
「じゃあ、とりあえず部室に行こうか」
「ええ」
「……」
通学時には生徒で賑わう道も、この時間になると誰も居ないから物寂しい。
そんなことを思いながら、教室棟を越えて部室棟の入口へ。
私がスマホで星野さんの手元を照らすと、星野さんはキーケースから鍵を選んで、部室棟の扉を開けた。
あ……別に疑っていたわけではないけれど、本当に開いた。
というか、部長って何となく桝井さんだと思っていたのだけれど、星野さんが鍵を持っているということは部長は星野さんだったんだ。
星野さんは自分のスマホのライトを点けて入り、続いて私、そして最後に桝井さんが……来ない。
「……浅葱」
「い、いや、こっちには出ないとは分かってんねんけどな!? 怖いもんは怖いんやって!」
半ギレの桝井さんに溜息を吐いてから、
「別にここに残って、私と小山さんで探してきてもいいですけれど、むしろそんなところに独りで突っ立っている方が危ないですわよぉ? 幽霊はトイレの花子さんに限らないわけですしぃ」
「……!」
弾かれたように桝井さんが駆け出して、星野さんの隣に並んだ。
「全く……」
呆れ顔の星野さんが桝井さんを連れて行くから、私は扉を閉めてから2人に追いつく。
部室に入ると、部屋の電気を点けた星野さん。
「え、大丈夫なの?」
「学校の敷地の外に漏れることはないでしょうから、大丈夫ですわぁ。それに、ほら」
そう言って、星野さんが、電気を点けた途端に安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした桝井さんを指す。
「あのままだったら、浅葱がもちませんわぁ」
「……確かに」
「いや、別に平気やねんけどな!」
明るくなって急に気が大きくなったのか、はっはっはと笑う桝井さんをじーっと見た星野さんは再び電気をオフにした。
「ちょっ! 何しとんねん!」
「暗くても大丈夫なのでしょう?」
「や、やめーや! 分かった、ウチが悪かったから明かり点けてくれ!」
桝井さんの素直な言葉を引き出した星野さんは改めて部屋の電気を点けた。
「最初から素直にそう言えば良いのですわぁ」
「ホンマにへそ曲がりやなあ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますわぁ」
とりあえず、写真部2人の漫才? が終わったようだから、目的のブツの捜索を開始。
短時間で終わらせようということで、私たちは手分けしてプリントを探した。
カメラが飾ってある場所とか、そういうもし触れて壊したら危ないところは写真部2人に任せ、私はしゃがみ込んで、特に机の下を重点的に探す。
「見つかりませんわねえ……」
「せやなぁ……」
星野さんの言葉に同意しながら、桝井さんが突然私の目の前でしゃがみ込んだ。
桝井さんが履いてきたのは膝丈くらいのスカートなのだけれど、彼女は全くスカートの状態も考えずにしゃがみ込んだから、ほぼ四つん這いになっていた私は、桝井さんのスカートの中に頭を突っ込んだ。
……後から気づいたけれど、もうちょっと顔が下だったら、色んな意味で危なかった……うん、色んな意味で。
「もががっ!」
「んあ? って小山、何しとんねん」
呼吸しようとしたらスカートの裏地を吸い込み、変な声を上げた私に苦笑する桝井さん。
いや、貴女が突然、私の目の前にしゃがみ込んだからなんですが!?
あ、それと……み、ミテマセンヨー。
白イ三角形ナンテ、ゼンゼン、ミテマセンヨー……とか思ったのだけれど。
この状況、ドキッとしてしまうよりも初めて2人と会話したあのとき……後頭部を打たれて、縛られてこの部室に連れてこられたときを思い出してしまって、すんっ……と素に戻る気持ちの方が強いかも。
「うーん、駄目だね……全然見つからない。こうなったら、やっぱり教室棟に行くしか――」
「嫌や!」
私の言葉に対し、駄々っ子のようにぶんぶんと首を横に振る桝井さん。
「浅葱、そう言ったって見つからないのでしょう?」
「多分、まだ探し足りないだけで――」
「でも、教室を探した方が見つかる可能性が高いのでしょう? であれば、早く教室をちゃっちゃと探して、プリントを見つければ花子さんに怯える必要もなくなりますわぁ」
「怯えてへん!!!」
……答える桝井さんの声量が相変わらず本人の恐怖度を表しているなあ。




