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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第28時限目 不思議のお時間 その8

「助かりましたわぁ」


「あ、うん……」


 正門横の通用口を開いて、私は2人の訪問者を受け入れた私は、3人で校舎に向かう道すがら、奥に居る人物に目をやった。


「……」


「ほら、浅葱あさぎ。3人も居れば心配ありませんわぁ」


「いや、分かっとったんやで!?」


 なかばキレ気味ぎみ桝井ますいさんがぐわっと、すご形相ぎょうそうで言う。


「明日、進路調査の紙、出さなあかんというのは分かっとったんや。せやけどな、かばんに入れたはずなのに帰ったらないんや。おかしいやろ!?」


「うん、まあ……なるほど」


 声のボリューム調整を失敗している原因が何かは良く分かっている。


 これだけ大きな声だったら、むしろ幽霊ゆうれいも逃げていきそうだし、学校の敷地はそれなりに広いから近所迷惑きんじょめいわくになることもまずないとは思うけれど、そうは言ってももうちょっと声量せいりょうは落として欲しいかな。


「でも、進路調査の紙くらいなら、明日の朝にちょっと早めに行って書けばいいんじゃない?」


 進路自体を決めているのであれば、ただ書くだけなのだから、そんなに時間はからないはず。


「ちゃうねん」


「ん?」


 何が違うんだろう。


 進路相談の紙にびっしりと、将来に対する想いをつらつらと書きつらねる予定なのであれば、確かにすぐ終わるとは言わないけれど、紙はB5サイズくらいに3つの枠があるのみ。


 つまり、書けるスペースもさほどあるわけではないのだけれど。


 私の疑問に答えてくれたのはあきれ顔の星野さんだった。


「さっき浅葱が言ったとおりですわぁ。本人は鞄に入れて持ち帰ったはず、と考えている。なのに、帰っても見つからない。ですから、まずどこにあるかから探さなければならないのですわぁ」


「ああ、そういうこと……」


 多分、教室の机に入れっぱなしになっているはず。


 ……でもなかったら?


 何処どこかに落としてしまった?


 いや、それとも部室に置いてきた?


 そんなことを悶々(もんもん)と考えながらずっと寝られない……なんてこともありそう。


「いや、それでも……咲野さきの先生だったら、言ったら刷り直してくれると思うけれど」


「そこは彼女なりの誠実さというものですわねぇ」


「ふむ……」


 確かに「咲野先生だったら刷ってくれる」みたいな考え方は他人の好意こういに甘えているということには間違いないけれど、学校側としてはこんな夜中に学校へ来る方がよっぽど危険だから、止めて欲しいんじゃないかなと思う。


 ……後、今更ではあるのだけれど、確かみゃーちゃんが監視カメラの情報は理事長さんに渡しているという話をしていた気がするから、勝手に入ったら後で咲野先生が怒られる気もするのだけれど……あまり大っぴらに監視カメラの話を深堀りするのは止めておいた方がいいよねって前に思ったのもあるから、その辺りの事情を説明する言葉は飲み込んでおいた。


「……あの、冗談じょうだんなのですけれどぉ?」


「えっ……ええっ!?」


 別のことを考えていたせいで、星野さんの言葉に一瞬だけ反応が遅れて、言葉の意味を理解したときには大仰おおぎょうなくらいに驚いてしまった。


「浅葱、よくプリントを無くすんですわぁ。それで、良く先生に刷り直してもらっていたのですけれど、あまりに無くすので、怒られて……もう印刷し直してくれないらしいですわぁ」


「……」


 それは……うん、自業自得じごうじとくかな。


「それで、プリントを無くした心当たりの話なんだけど……最後に見た場所は?」


「それが……全く分からんねん」


 頭に手をやりつつ、足は止めない桝井さん。


「間違いなく覚えとるんは放課後、そういや進路調査は今日までやったなーと思って、プリントの日付を確認したところや」


「そこからかばんに入れた?」


 私の疑問に「うーん……」とうなる桝井さん。


「入れた……はずなんやけどなあ。ただ、そんとき確か……そうそう、さきのんに呼ばれて、席立って……そのときに無意識の内に机に入れたかもしれん」


「さきのん……え、咲野先生のこと?」


「せやで?」


 確か、羽海うみも咲野先生のことをさきのんって呼んでた気がするけれど、何かこう……もうちょっと先生に対して敬意をというか……。


 女の子たちってそういうもの?


 いや、正木まさきさんたちは普通だし、桝井さんたちの方が珍しいのだろうと思うことにする。


「え、えっとまあ、それはそれとして。それなら、鞄か机のどっちかで、鞄になければ机にある……で問題ないと思うんだけど」


「いや、それがな……その後に部室に行ってな。で、そこで1度、かばんをひっくり返してしまったんや」


「えー……」


 写真部の部室にはカメラを置くためのケースや写真の撮り方に関する本棚があったから、もしその下に入り込んでいたら気づかないかもしれない。


「全く、何故こういうときに限って、そんなやらかしをするのか分かりませんわぁ」


「なってしまったもんはしゃーないやろ!」


 全く、悪びれる様子がない……というよりも、恐怖で落ち着きがないだけかもしれない。


 しかし、そうすると教室棟きょうしつとうと部室の両方に――


「――って、ちょっと待って。部室棟?」


「どうしましたのぉ?」


「いや、部室棟……開いてるのかな、かぎ。教室棟も入口は鍵掛かってるけど、入れる場所が1箇所かしょあるのは知ってて……」


 私がそう言うと、


「1階トイレの窓ですわねぇ?」


 と星野さんがすぐさま答える。


「あ、やっぱり知ってるんだ」


 私が言うと、当然でしょうという表情を返す星野さん。


「部室棟の方も大丈夫ですわぁ。休日でも部室が使えるように、部室棟の入口の鍵と部室の鍵を部長のみ、持たされているのでぇ」


「ああ、なるほど」


 それなら安心……かな?


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