第5時限目 合宿のお時間 その19
「何やってんだ2人で」
「いやー、こやまんと親睦を深めようと」
「なんだそりゃ」
呆れ声の大隅さんの言葉に酷く同意。なんだそりゃ!
「ってか準って結構身長デカいよね」
「まあ、良く言われるよ」
「モテたでしょ、前の学校」
「いえ、全然」
「マジで? 何で?」
私の顔を覗き込んでくる中居さん。ちょ、ちょっと近い近い!
「な、何ででしょうね」
「いや、むしろ身長高いと男から嫌われるんじゃねーの?」
湯船の縁に頭を預けて、大隅さんが呟くように言う。
「あーね。自分よりも身長高い女は嫌だとか、確かにありそー」
「それもあるのかもしれないけど、私の場合はそれ以前の問題で……」
「どういうこと?」
私の言葉に背中を洗う手を止めずに尋ねる中居さん。聞かれたからには答えるべきだとは思うから、私は素直に喋る。
「うちの学校はとびきり勉強に力を入れていた進学校だったのもあって、特に2年生も後半くらいから部活とかも辞めて、勉強に絞る人が凄く多かったんだよ」
「2年の後半!? マジかよ、むしろそこからが部活の本番じゃねーの?」
天地がひっくり返るような声を出した大隅さん。やっぱり、そう思うんだ。
「普通はそうだと思うんだけどね。うちの学校、表面上はクラスごとに優劣を付けるのはいけない、平等なクラス分けをしている、とか言っていたけど、実際は勉強の出来る子ばかりのクラスとそうでもないクラス分けがされていて、それぞれのクラスで授業内容が顕著に違ったんだよ」
「ケンチョって何?」
「誰が見ても分かるくらいに差がある、ってこと」
「ふーん? あー、じゃあうちはダメクラスかー」
「ダメクラスとは言わないけど、変わった子は多いよね」
「おいおい、ひでー言い様だな。つか、うちのクラスっつったらお前も入るだろ」
「そうだよ。私自身も変わってると思うし」
私の言葉にうんうんと頷く中居さん。……ちょっと納得いかないけれど、話を続けることにした。
「とにかく、出来るクラス……つまり上位クラスに入ったら、大学の何処でも行けるくらい先生が授業に力を入れてくれるんだよ」
「……つまり、小山は下位クラスに飛ばされて、嫌になって転校してきたってことか」
私の隣に腰を下ろして、体を洗い始めた大隅さんの言葉に、私は「半分正解、半分間違い」と少しだけ笑みを混ぜて答えた。
「前の学校では、基本的にテストはいつも1番だったから」
「マジかよ!」
「マジヤバじゃん、こやまん!」
「へ? あわわ……」
左右からの迫るような声に思わずその2人の方を向き、当然隠すものも隠さずに上半身を乗り出して迫っていたので、たわわな方と控えめな方の両方を目の前にして、お風呂のせいではないくらいに上気してしまった。お、おおう……。
「ま、まあ、勉強が趣味みたいなところがあったからね」
「うげー」
「うへー。もうその時点で変人決定だし、こやまん」
同時に嫌そうな声を出す大隅中居コンビ。これ、岩崎さんと片淵さんのときも同じ反応だった気がする。
とりあえず、私はまたシャワーや鏡の方を向いて、背後から体を洗ってもらいながら、再度言葉を転がした。
「でも、いつも1番っていうのは色々あってね……」
「……なるほどな」
「あー、察した」
大隅さんも中居さんが心情を言葉に出す。それ以上言う必要は無かったかもしれないけれど、私自身何処かで思ったことをぶちまけたいと思っていたから、堰を切ったように言葉が出続ける。
「クラスメイトも最初は羨望の言葉だけだったのが、徐々にテストの内容を知っていたんだろうとか、カンニングしているとか、先生に媚び売ってるんだとかいう言葉になってきてね。根も葉もない噂っていうのは、最初こそ言っている側の方に非難が集中するんだけど、嘘も100回言えば真実となる、なんて言葉があるみたいに毎回私が1位を取っていたら疑う人も増えてきて。だから、答え分かっててもわざと間違えるようにしたり……」
「……」
お風呂に沈黙が流れて、私は慌てて両手を左右に振りながら弁解する。
「あ、ごめん。あまりそんな話とか聞きたくないよね」
「いや、良い。続けろ」
聞いてくれるから少し甘えすぎたかなと思ったけれど、鏡の方を向いたままの大隅さんが発した有無も言わさない口調に、私は素直に言葉を続けることにした。今なら正木さんが話しやすいから話してしまう、って言っていたのが分かる気がする。
「そんなことをすると、今度は当然手を抜いていることがバレてしまうわけ。そしたら、生徒に限らず先生までもが、あいつは俺を馬鹿にしているだとか、私の授業も真面目に受けていないだとか、そんなことを言うようになって」
昔を少し思い出し、一瞬言葉に詰まってから、再度言葉を繋げる。
「それで、3年に上がるときこんな対応を続けるなら下位クラスに落とすぞ、って学年主任に言われて……まあ前の学校に嫌気が差しちゃって、転校したって話。上位下位なんて分けてないとか言ってたのにね……って変な話してごめん」
「こやまんも大変だったんだねえ、よしよし」
中居さんがシャンプーしながら私の頭を子供みたいに撫でてくるから、少しくすぐったくて身悶えする。
対照的に、大隅さんは大きな溜息と共に言葉を吐き出した。
「んなことウジウジ悩むなら、せめて全員殴ってから転校すりゃ良かっただろ」
「いや、それはちょっと……というか、初対面のイメージ引き摺って、私を感情に任せてとりあえずムカついたら殴るキャラだと思ってない?」
「そーだそーだ。こやまんはただシスコンなだけで、別に野蛮じゃないんだぞ」
「シスコンでもないからね!?」
 




