第28時限目 不思議のお時間 その6
「で、幽霊探しだっけ?」
今日は珍しく、早く帰ってきたらしい羽海がオレンジジュースを飲みつつ、私に尋ねた。
「まあ、そんなところ……かな」
「ってか、この学校に怪談があるのは知ってたけど、トイレの花子さんねえ……」
頬杖を突きつつ、私たちの様子を苦笑しながら見る羽海。
「ま、楽しそうでいいじゃん」
「楽しくないよ! それに、目撃情報は勘違いだったってことを確認するだけだし……」
そう言って、私はパソコンの画面を確認する。
正確な時間は分からないらしいけれど、真帆は多分6時半とか7時くらいかもと言っていたから、ちょっと早めの6時過ぎくらいから少しずつ再生していけばいいかな。
みゃーちゃんが言うには、監視カメラは少なくとも各階に最低2台は設置されていて、それ以外にも後で増やしたから全部で何台あったかは覚えていないらしい。
ただ、各カメラは全部監視ソフトに繋いでいるらしいから、あまり気にしなくてもいいとのこと。
「そういえば、トイレの花子さんを見たトイレが何処なのかは聞いていないの?」
皆がわいわいやっていて、だんだん叱るのも馬鹿らしくなってきたのか、萌が食卓の方の椅子に座って、パソコンを操作している私に聞く。
「あ、そういえば聞き忘れた……後輩の子って言ってたけど、1年か2年か確認してなかったから、とりあえず全トイレ近くのカメラを確認しようか」
幸い、撮影箇所が分かるように名前が付けられていたから、どのカメラを選べば良いかはすぐに決まった。
各トイレの入口付近だけでいいと思うから、1~3年生用と教職員用のトイレで4箇所かな?
明日提出のプリント……は授業とかだと思うし、流石に部室棟ってことはないと思う……けれど、もし部室だったら二度手間になるし、ちょっと小さくなるけれど5画面……は中途半端だし、1階から2階に繋がるスロープも映して6画面にしよう。
ということで、みゃーちゃんが使っていた監視ソフトを遡って確認していく……のだけれど。
「見えない……」
「ちょっと、押さないで」
「く、暗いです……」
ノートパソコンを皆で覗き込むから、小さい場所に押し合い圧し合いしている。
特に、夕暮れ時から日が落ちて、ところどころにある非常口の明かり以外に明かりはない。
この時間に、唯一安定的な明かりがあるのは職員室のみ。
暗視カメラにもなっているらしいから、暗くてもうっすらと様子が見えるけれど、目を凝らさないとかなり見づらい。
……結果、ノートパソコンのディスプレイを覗き込む子たちで犇めいている、という状況に。
「ってか、そんな状態ならテレビに出力すればいいじゃん」
「いや、でもほら……もし幽霊が居たら、大映しになっちゃうし……」
「何、そんなこと心配してんの? ないでしょ、そんなの」
本来、羽海の言葉は正しい……そう”本来であれば”正しいのだけれど!
一応、実際に幽霊を見てしまった……とかいう枠に収まらない心霊体験をした私としては「ない……はず、多分」と尻切れトンボみたいな言い方しか出来ない。
万が一……いや、億が一幽霊が居たとしたら、大画面を通して、全員で目撃することになる。
そんなことになったら、下手するとトラウマになってしまう子だって出てくるかもしれない。
だから、私がささっとノートパソコンで確認すればいいかなって思っていたのだけれど。
「もっと寄って」
「無理」
……うん、やっぱりノートパソコンのディスプレイを皆で見るというのは無理がある。
仕方なく、私は皆で動画を見るときと同じように寮のノートパソコンの出力を大型テレビに繋いだ。
幽霊なんて出ないはず……うん、出ないよ、きっと。
2倍速にして流す……けれど、生徒は既に帰ってしまっている時間だし、全く画面に変化がない。
「……居ないね」
「うん」
怖がりつつも気になっている繭ちゃんたちはじっと画面を見つめているけれど、変化のない風景に安堵したような、ちょっとがっかりしたような表情になっていた。
「ゆっくり見てたらいつまで経っても終わらないわ。早送りは?」
「今2倍速なんだけど、もうちょっと早くしようか」
私はそう言って、再生速度を早めた。
見ていると時々、誰かが「あっ!」と言って、巻き戻したりして……でも、それは教室の見回りをしていた先生の懐中電灯だったり、切れかけた非常灯だったり。
まあ、つまり結論を言うと”何も見つからなかった”。
「なーんだ、がっかり」
残念がる羽海。
「良かった」
「よ、良かった、です」
「良かったですね」
花乃亜ちゃんと繭ちゃん、智穂も一安心した様子。
「で、でも、もしかするとカメラに映らなかっただけかも!」
まだ心配する峰さん。
みゃーちゃんや萌、華夜も、まあそうだよねという表情だったり。
「……とりあえず、誰も写っていなかったよ、ということは言えるね」
真帆の顔を思い出し、胸を撫で下ろす私。
……ただ、このときには誰も気づいていなかった。
”誰も居なかった”という”異常”に。




