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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第28時限目 不思議のお時間 その4

「ふむ、トイレの花子さんか」


「知ってます?」


「まあ、この学校にも出るらしい、といううわさくらいで細かいことは知らないが」


 りょうもどってきたら、益田ましたさんが夕食の準備中だったから、私は台所に1番近い席に座って、何となく今1番ホットな話題を尋ねてみた。


 寮長という立場なら学校の事情……七不思議についても詳しいだろうと思ったからなのだけれど、どうやら当てが外れたらしい。


「しかし、着物姿か……普通、着物なら座敷童子ざしきわらしじゃないか?」


「あ、やっぱり益田さんもそう思いますか?」


 においからカレーだとすぐに分かる鍋をかき混ぜつつ、益田さんが私と全く同じ回答をしたからちょっと安心した。


「とすると、やっぱり元々の噂は服装が違うんですか?」


「元の噂……と言ってもこの建物は元々、社員寮だったからな」


「社員寮……?」


 話のつながりが見えず、私が疑問符ぎもんふを頭の上に立てると、視線は手元に落とし、手を止めることなく、益田さんが説明してくれた。


「ああ。この学校の敷地が元々公園だった、ということは聞いているか?」


「あ、聞いたことはあります」


 確か……転校してきた日に、正木まさきさんから聞いたんだっけ?


「公園と言っても、正確には生物の研究をするための場所でな。この敷地の中央には大きな池があるだろう? あの池で水生生物を育成し、その生き物を研究をする目的で使われていたんだ」


「研究目的、ですか」


「ああ。細かいことは知らないが、おそらく養殖とか……そういうのだろう。で、生物の育成というものは昼夜問わずに管理が必要らしくてな。その管理をする人間が寝泊まりする場所として使われていたのがこの『菖蒲園しょうぶえん』だ」


 ようやく、夕食の準備が終わったのか、2人分の紙コップの紅茶と小さなドーナツをお盆に乗せた益田さんが台所から出てきて、私の隣に座った。


「ありがとうございます」


「いや、構わない。こちらの昔話に付き合ってもらっているからな」


 益田さんは自分の紅茶に口を付けてから続けた。


「……そして、今キミたちが通っている学校の校舎なんだが、あれは元々は研究施設を改築したものだ」


「え? 研究施設だったんですか!?」


 私の言葉にうなずく益田さん。


「そうでなければ、普通は教室棟きょうしつとうには2、3年生だけ、1年生だけは別の建屋、なんてことはしないだろう?」


「……確かに」


 今までの学校は1~3年生の教室が全て同じ校舎にあったし、教室も廊下ろうかに沿って同じ方向に全部並んでいた。


 でも、この学校はそういう、私の知っている学校の常識とはけ離れていて、変だなあとは思っていたのだけれど……まさか、研究施設を改築していたとは。


「建物が階段ではなく全てがスロープになっているのも、水槽すいそうなどに生き物を入れて、運んだりすることが多かったからだと聞いてる」


「あ、バリアフリー化のためじゃなくて、最初からスロープだったんですね……っていうか、それならエレベーターの方が良かったのでは?」


「その辺りは知らないが……業務用の大きなエレベーターは維持管理など含めて、かなり費用が掛かるとは聞いている。推測だが、研究施設にそこまでのお金を掛けられなかったのだろう」


「なるほど……」


 仕事中、重い水槽を頑張がんばって押している人たちが居たことを想像した脳内映像を脳の片隅かたすみに押し込めつつ、私は尋ねた。


「……って、あれ? トイレの花子さんの話だったような気がするんですが……」


「ん? ああ、すまない、脱線が長くなってしまったな。ただ、今までの話は重要だ。なぜなら元々は学校ではなかったから、私が知っている頃……本当に最初の、学校になる前には七不思議なんてものはなかったからだ」


「……ああ、なるほど! 学校には七不思議がつきものですが、そもそも学校ではなかったから……」


「そういうことだ」


 益田さんが同意して、ドーナツをもしゃりとやってから言った。


「私も正確な時期は知らないが、少なくとも七不思議なんてものを耳にしたのはここ数年のことだ」


 つまり、だれかが面白おかしく流布るふさせようとした……ということ?


 だから、真帆たちも七不思議とか言っているのにも関わらず、四不思議くらいしか把握はあくしていなかったのかもしれない。


 ……いや、ちょっと待って?


 七不思議に彼女……渡部わたべさんが入っている時点で、かなり新しい話題ということだよね?


 もしかすると、ここ2、3年に出来たもの……なのかも。


「……さて、随分ずいぶん昔語むかしがたりが長くなってしまったな。私は寮長室にもどるよ」


「色々教えていただき、ありがとうございました」


「また何か聞きたいことがあれば、いつでも聞いてくれて構わない」


 紙コップを捨てた益田さんは軽く手を挙げてから、食堂を出ていった。


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