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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第27時限目 友情のお時間 その42

 椎田しいださんはかぶりを振ってから、


「……だから、今の私はどうすればよいか、全く分かりません。喜べばいいのか、悲しめばいいのか……。ただ1つ言えることは、しばらくは寮生りょうせいを続けなければならないみたいなので――」


 と言って、折り目正しく腰を折った。


「同じ寮生として、よろしくお願いします」


「…………えっ、あ、はい! よ、よろしくおんね、お、お願いします!」


 完全に不意打ちだったので、聞きにてっしていた私はみ噛みのままに答えて、同じように頭を下げた。


「……え、あの、でも……」


「?」


 私が恐る恐る切り出すと、椎田さんはハテナの表情を返した。


「いえ、その……私は男で……」


小山こやまさんは友人です。それ以上でも、それ以下でもありません」


 いつもの、りんとした静かな声。


 ……でも、その声色こわいろは少しだけ柔らかく。


 少しだけ茶目ちゃめっ気を混ぜて。


「……今は、まだ」


 そう言ってから、椎田さんはにこっと笑った。


「……ありがとうございます」


「感謝されるほどのことではないです。ああ、それと……」


 私の感謝の言葉に、眼鏡めがねの向こうの目をせた椎田さんは何かをはたと思い出した表情になった。


「お風呂で、そういえば……下の名前で呼びましょうって、ほのかさんが言っていましたね」


 そうして、居住いずまいをただした椎田さんは、


「……じゅん、と呼んでも良いでしょうか?」


 と小さく首をかしげてから、尋ねた。


「……ええ、もちろん。えっと――」


智穂ちほ、です」


「……智穂」


 少し気恥ずかしさを感じつつ、そう言った。


 満足そうにうなずいた椎田……智穂はゆっくりと立ち上がった。


「では、私は……ほのかさんや他の寮生の人たちに謝りにいってきます」


「あ、私も――」


 腰を浮かしかけた私に、小さく首を横に振った智穂。


「いえ、1人で行かせてください。これから、寮生として一緒いっしょに生活することになるので、自分でちゃんと言わないと」


 そう言って、智穂は最後に残ったなみだしずくをハンカチでぬぐってから、笑った。


「では、行ってきます」


「い、行ってらっしゃい」


 そして、ぽつんと残った私は――


「……えっと、そういえばこれ、待ってた方がいい……のかな?」


 正直、話は終わったのだから帰ってもいいような気がしつつも、行ってらっしゃいと言ってしまった手前、何となくお出迎えまでしないといけないような気もしつつ……。


 で、結局私は残る方を選び。


「……えっ、小山さん!?」


 どうやら仲直りしたらしい、椎田さんと元橋もとはしさんが部屋にもどってきたところで、さっき下の名前で呼ぶと言ったにも関わらず、思わず元の呼び方してしまったほど大層たいそう驚かれ……そして、大笑いされた。


 にも角にも、無事2人が仲直りをしてくれて、そして私自身もこのまま受け入れてくれて、私としては万々歳(ばんばんざい)だった。


 ……これで、終わってくれれば良かったのだけれど。


 次の土曜日。


 元……いや、ほのかの寮生活は1日のみ、ということで家に帰ってしまったけれど、椎……じゃなくて智穂と2人でほのかを迎えに行って、また3人で買い物に行くことになった。


 ウィンドウショッピングを始めて、少し寒くなってきたからと、智穂がほのかに上着を選んであげている様子を、少し離れて見ていたのだけれど。


「こや……準は桃色とベージュのガウン、どちらがほのかさんにいいと思いますか?」


 智穂がそう話を振ってきて、完全に油断していた私は、


「……ぅへぁ?」


 と謎言語なぞげんごを発してしまい、またくすくすと笑われてしまった。


 改めて、智穂が持っているガウンに目をやり、


「え、えっと……うーん、ど、どっちも良い、と思います……」


 という当たりさわりのない返しをした私。


 その様子を見て、ほのかはふくれっ面になり、


「ちょっと、準。ちゃんと良く見て、意見をくださいな。これはおと――」


 まで言って、周囲に視線をめぐらせた後、声量せいりょうを落としてから、


「――男の子代表として、意見をもらうために連れてきているのですから」


 と改めて今回の主旨しゅしを説明した。


「う、でも……どっちも、本当に悪くないかなと……」


「はあ、これではらちが……そうだ、智穂さん」


「?」


 ほのかが智穂を呼んで、何やらこそこそと耳打ちすると、智穂の表情はみるみる赤くなり「そ、それはちょっと……」と言い出すのだけれど、更にまたほのかが説き伏せて――


「では、準。私の言った通りに車椅子くるまいすを押してくださいね」


「え? あ、はあ……」


 私が気のない返事をした後、言われた通りにほのかの車椅子を押す。


 まだほおが赤い智穂が横に並んでいるけれど……お店が見えてきて、その様子の意味がようやく分かった。


「ということで……準には、私たちの下着を選んでもらいましょう」


 そう、つまり下着を売っているコーナーへ連れてこられたわけだったりする。


 前に買い物をした、リンダというメーカーとはまた別のメーカーみたいだけれど……何にせよ、うん、ほのかはそういうことする子だった。


「男性である準が、それも女子と下着を買いに来るなんて経験、当然今までないでしょうし、これなら準も真面目に選ばざるを得ないでしょう。ね、智穂さん」


 いつもの、ほのかのからかいなのだろうけれど……大丈夫、それは”経験済み”だから。


 ……で、不用意にまた答えてしまうのだった。


「いえ、既に女の子と下着を買いに来たことはありますよ」


「……!?」


「えっ!?」


 直後、ほのかと智穂からほぼ同時に、猛烈な反応。


 そして、後悔こうかいする私。


 ……こうやって、迂闊うかつに答えるからこういうことになるんだよね。


「い、一体、だれと買いに行ったんですか!? まさか、相手はクラスメイト……? 試着室の中にも入ったんですか!?」


 ほのかの言葉に、隣でしきりに頷く智穂。


 その様子を見て、ああ……私は学ばないな……と思ってしまうのだった。


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