第27時限目 友情のお時間 その35
「だから、嫌いなわけじゃ――」
ほのかの言葉を訂正しようとする羽海だったのだけれど。
「準みたいなタイプは彼氏としては見れないということはつまり、彼氏としては嫌だと、そういうことになりませんか?」
「う、うーん……そういうことになっちゃう……のか、な?」
若干、釈然としないという表情が混ざりつつも、ほのかの言葉に言いくるめられるような形で羽海は首を捻る。
「では、萌も?」
「そうね……まあ、友達としては好……大事だけれど、もし準は私の好みとは少し違うわね」
ふんふんと頷いて、最後にほのかは華夜の方を向き、
「では、えっと……?」
と言葉に詰まった。
「華夜」
「ああ、すみません。皆さんの名字は覚えましたが、意外と下の名前って覚えていないこと多いですね」
そういえば、私も最初は顔と名前は全然一致してなかったなあ……なんてことを思い出す。
いつの間にか、多くの子を名前で呼ぶくらいには仲良くなってきたけれど、逆に今、名字で呼び直せと言われたら……結構忘れてる子もいるかも。
そんな脇道に逸れた私の思考をよそに、ほのかは小さく咳払いをして仕切り直した。
「では、華夜も同じということでいいですか?」
「……」
ほのかの言葉に、しばらく目を伏せて沈黙した後、華夜は答えた。
「準だから、というよりは今の私には彼氏というのは考えられない、というより私も誰かと付き合ったことはないから、想像が出来ない」
「なるほど、仲間ですか」
華夜は小さく頷き、
「多分、色んな意味で……仲間」
と意味深なことを答えてから、じっとほのかを見た。
「色んな意味で?」
「……それはさておき」
華夜はそこで1度息を大きく吸ってから。
「私は男性と付き合うということが想像できない。でも、準は友人として付き合う中では……特別。もし、その準が男だとしたら……好きと言うべきかは分からないけれど、少なくとも付き合える、と思う」
まっすぐな華夜の視線と交錯するほのかの視線。
「準には勉強もたまに教えてもらうし、流されやすいけどやると決めたら積極的。誰彼構わず、仲良くなるのは特技でもあると思うし、それに――」
そこまで言ってから、自分が周囲の視線を集めていることに気づき、そこではっとした華夜は、
「……私、何を……」
と目を逸らした後、顔を半分くらいお風呂に沈めた。
珍しく華夜が早口だな、なんて思いつつ、華夜を何気なく見ていたけれど、完全に無意識だったというのは知らなかった。
その様子を見たほのかは満面の笑みを浮かべて、
「ほうほう、なるほどなるほど! そこまで情熱的に思われていれば、準も本望ですね!」
「いや、別に、そういう意味じゃなくて――」
ほのかの茶化すような言葉に慌てる華夜。
そして、からかってくるのはほのかだけではなく。
「華夜、貴女……意外とそういうことを、真顔で言えるタイプだったのね」
「そうじゃなくて――」
「し、知らなかったです。そこまで準ちゃんのこと、好きだって」
「ちがっ……わないけど、もし、の話だから……!」
巻き込まれないよう、大変そうな状況の華夜を遠巻きに眺めつつ、ちょっと恥ずかしくなって、私はまた顔を明後日の方向に向けていた。
華夜とはまあ、なんやかんやあったし、一応は好意的に見てくれていただろうとは思っていたけれど、言葉にされるとちょっとまたくすぐったいような……。
まだ、色々と収まらなさそうな状況の中で、ほのかが椎田さんに尋ねた。
「そういえば、智穂さんだったら……どうですか? もし、準が彼氏なら――」
「……です」
「え?」
ほのかが椎田さんの方に顔を近づけて、疑問符を差し出した、その直後。
「……分からないです!」
突然の声に、私たちは一瞬身を強張らせた。
今の声は……椎田さん?
「分からないです! 全然……全然、分からないです!」
いつもの静かな椎田さんではなく、取り乱したまま湯船から出ていってしまった。
残された私たちは呆然と、椎田さんが出ていった扉を見るしか出来なかった。
ようやく口を開いたのは、
「……純粋な智穂さんには、少し刺激が強すぎたかもしれませんね」
と言った苦笑いのほのかだった。
「どうしたんだろ? 女の子同士なのに……ってこと?」
「あまりこ、答えたくなかったの、かも」
「あまり好きではない話題だったのかもしれないわね」
他の子たちはそんな反応だったけれど、多分そうではなくて……きっと、ほのかの態度に対しての言葉じゃないかなって思う。




