第27時限目 友情のお時間 その33
「ちょっと待って。初っ端から気になるんだけど、好きかどうか分からないって?」
羽海の制止に、けろりとした表情でほのかが答える。
「はい。気になっているのは間違いないんですが、これが恋心なのか、それともただの好奇心なのかが分かっていないんです。だからこそ、経験者の意見を聞きたいなと思いまして」
「あー、なるなる。オッケー、ごめん続けて」
先を促す羽海だけれど、私は心の中で叫ぶ。
いや、本人が別に好きでもなんでもないって言っていたはずなんだけど!?
……え、恋に恋する乙女を装って、実は私以外にも彼氏になって、みたいなことを言っている相手が居るような、魔性の女だったの!?
それはそれでまあ……うん、なんかちょっと、ほのかが言い寄っている相手は気にはなるけれどさ!
脳内カオス状態の私をよそに、ほのかは話を続ける。
「その人は何と言いますか……お人好しで、基本的に誰からお願いされてもノーと言えないタイプなんです」
「それ、駄目なヤツじゃん」
「かもしれないですね」
ほのかが羽海の言葉に同意しつつも、説明を続行する。
「なのに、正義感が強いせいで、他人の家庭に口を出して、大喧嘩したりもしたことがあるそうです」
「え、もっと駄目くない? それ」
「はい、正直どうかと思います」
あまりに断片的すぎて、まだ断定は出来ないけれど……話を聞く限りでは、どう考えても私なのだけれど。
でもそうすると、今までのほのかの態度と合わないし……心変わりしたということ?
気になることはあるけれど、下手に首を突っ込むと色々とボロを出しそうだから、耳をそばだてるだけにしておく。
「ただ……何ででしょう、そういう悪いところも聞くんですけど、良いところを聞くと倍くらい返ってきて、最後には嫌いじゃないって皆が口を揃えて言うんです」
「……」
皆が無言で、ほのかの話を聞く。
「確かに、私がからかっても無視せずに返してくれたり、大変な目に遭うと分かっていても付き合ってくれたり。そういう姿を見ていて、最初は私に対する物珍しさかなと思っていたんですけど、なんかそういうのじゃないんだなって思いまして」
「あ、あの……」
躊躇いがちに、繭ちゃんが手を挙げて、話に割り込む。
「はい、何でしょう?」
「そ、それって、椎田さん、ではない、ですか?」
「……ああ、ええ、もちろん! 智穂さんは別格です」
にこっと椎田さんの方を見て、ほのかが笑うと、椎田さんはほっとしたような、でもむしろ不安の色が滲み出たような表情になった。
……それはそうだよね。
実は気になっているのが椎田さんだったってオチだったら……いや、それはそれでどう転ぶのかちょっと心配ではあるのだけれど、少なくとも女の子同士の『スキ』という感情で収まるのかもしれないけれど、椎田さんではないとなると「一体、誰のこと!?」となってしまってもおかしくない。
しかし……さっきから、自分のこと? 違う? とやじろべえみたいな不安定な感情で話を聞いているからか、自分でも分かるレベルに挙動不審になっていると思う。
他の子から見たら、かなり怪しい気がするけれど……まだほのかの話に夢中になっていて、気づいてはいないみたい。
「ああそれと、その気になっている人は生物学上では男性になりますし、彼氏になってもいいと言ってくれました」
ほのかの言葉に、周りの子たちから黄色い悲鳴みたいな声が上がる。
ちなみに、私が男だと知っている華夜がお風呂場の天井から落ちてくる水滴よりも冷たい目線をこちらに向けているけれど、完全に誤解だからね!
彼女は勝手にときめいて、つきまといますっていうストーカー宣言をしたというだけ!
まあ、別に男だとバラされたくなかったら……みたいに脅されているわけではないのだけれど、
いや、そもそも私と決まったわけではないし、特定の誰かと付き合うとかそういうのも全然考えてないから!
剣山の上ででんぐり返しをさせられているような、そんな心の痛みに苛まれながらも、私は口を挟まず、耳だけ彼女の方に向けた。
「ただ、私は恋愛をしたことがなかったので、中途半端な気持ちで彼氏になってもらうのはどうなんだろうと思いまして……。”好き”というのは相手のことを四六時中考えるようなとき? それとも、たまに電話したくなるだけでも? 会いたくて震えてしまうような相手? と考えると難しくてですね……」
ほのかが口を閉じたけれど、しばらくは誰もそれに答えを返せなかった。
お風呂の換気扇の音だけが響いていたお風呂場で、最初に口を開いたのは羽海だった。
「……アタシも別に彼氏が居たことないけどさ。まあ、別にそこまで堅苦しく考えなくていいんじゃね? 一緒に居たいとか、話をしたいとか、そういうのがあるなら付き合っちゃえばいいじゃん」




