第27時限目 友情のお時間 その32
楽しい話……楽しい話……と念仏のように繰り返していたほのかは、はっとして手を合わせた。
「そうだ! 皆さん、好きな男性とかは居ますか?」
ほのかの発言に思わず吹き出した人間が何人か。
……その1人に私が入っているのは言うまでもない。
「……な、なかなか突飛なことを言い出すわね……」
「そういう話に積極的だとは思わなかった」
萌と華夜は度肝を抜かれたという表情だったし、
「……」
俯いた繭ちゃんはお風呂だけが原因じゃないなっていう程度には顔が赤くなっていたし、
「居ない」
と即答した花乃亜ちゃんくらいかな、全然気にしていない様子だったのは。
……あ、もう1人、余裕がある子が居た。
「アイドルは恋愛禁止だし、そういうのはNGってことで」
羽海は人差し指同士でばってんを作って、答える気はないよというポーズを取る。
そして。
「あ、あの、ほのかさん? い、一体、ど、どういう……?」
当然と言えば当然だけれど、1番狼狽していたのは椎田さん。
椎田さんは元橋……じゃなかった、ほのか以外と話すときは少し困ったような、眉を下げる表情が多かったのにも関わらず、今日はそれに拍車を掛けた表情でほのかを見ていた。
全員から視線を集めたほのかは楽しそうに破顔して、さっきの発言について説明を始めた。
「やはり、こうやって人が集まったときは恋バナじゃないですか! でも私、全然恋愛というものはしたことがなくて……どなたか恋愛の先輩は居ないものかと……」
はあ……と大袈裟に溜息を吐いてみるほのか。
その様子を見て、椎田さん含め、一同は少し安心したという表情を見せる。
きっと、ただただ定番ネタだから振ってみただけだと思っているのだろう。
ただ、私は理解している。
ほのかがこのまま話を終わらせる気がない、ということを。
「ただ、私ちょっと気になっている人が居て」
「!」
ほら、やっぱり。
私を除いた全員の表情がまた変わる。
無表情寄りで、ほのかとさほど接点はなさそうな華夜ですら、いつもの無口とは違う、明らかに絶句していた。
もちろん、椎田さんは言わずもがな。
……何だかこう、椎田さんって物静かで、あまり感情を露出しないという感じのイメージだったけれど、ほのかと羽海……というかMIZUKIに関してはここまで表情を変えるものだとは知らなかった。
多分、かなりの時間を共にしているはずの椎田さんは必死に「誰? いつ? どこで知り合った?」と脳内のアルバムを遡っていると思うけれど、多分答えには辿り着けないし、もし辿り着けてしまったらその時点で私はこの場に居られない。
「へえ、それ、誰なの? アタシたちが知ってる人?」
このカオスな状況の中、何食わぬ顔をしつつも話題に食いついたのは羽海だった。
「雨海さん……じゃなくて、えっと……?」
「羽海」
「ごめんなさい、ありがとうございます。それでは……羽海は恋愛に興味がないって言ってませんでした?」
ちょっと意地悪くほのかが羽海に言うと、ふるふると首を横に振った羽海。
「事務所的にNGってだけ。アイドルが実は恋愛してましたー、なんてことになったらスキャンダルじゃん? でも、当然アタシだってそういうのは興味あるワケよ」
「なるほど。事情は分かりました。でも、こういう状況で私だけが答えるっていうのもフェアじゃないと思うので、羽海からも何か欲しいですね。もし、今気になる相手が居なければ、理想の男性像を答えるっていうのでどうです?」
「男性像ねえ……」
目を瞑ってからちょっと考え込んだ羽海が、
「ま、それくらいならオッケーか」
と答えた。
「他の方は?」
「……と言われても……」
「そういうのはあまり……」
そんな煮えきらない反応を見た、ほのかは「じゃあ」と付けてから言った。
「私が先に言ってしまった方が、皆さんも言いやすいですよね? なので、話しちゃいます」
「え、ちょっと! 私は別に言うなんて約束は――」
「まあまあ、いいじゃないですか」
真っ先に反応した萌の言葉を遮り、ほのかが更に続ける。
「具体的な性格まで想像出来ないなら、芸能人で例えてもいいですよ? というわけでー……」
「……」
萌がやり込められているのって、そういえば初めて見る気がする。
新鮮だなーなどとちょっと他人事に考えていたら、ほのかがこう切り出した。
「気になっている……といっても、実は好きなのかどうかもまだ分からないんですが」




