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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その17

「何かあったのか?」


 2階に上がると、大隅さんが開けた部屋の扉に手を掛けたまま疑問を投げてきたので、私はキャッチして投げ返す。


「いえ、中居さんがトイレットペーパーを受け取る際にパンツを脱いだまま扉開けたので、ちょっと流石に驚きまして……いや、驚いただけ」


 無意識に敬語が出てところで大隅さんの表情が急に険しくなったのに気づき、慌てて言い直した私。


「ああ、そういうことな。まあ、あいつ普段からトイレに入っても鍵掛け忘れること多くて、あたしがトイレの扉開けたら中に居たとか良くあるから、あまり気にすんなよ」


「……そういうものかな」


「うちの親父なんか扉全開でトイレ入るからな」


「嘘?」


「何でそんな嘘吐かなきゃいけないんだっての。あたしも何度も扉閉めろっつってんだけど、ああいう癖ってのは中々治らねーんだよなあ」


 その映像を思い出したのか、溜息と共に頭を振る大隅さん。


「そういう人も居るんだね」


「ま、それから比べりゃ可愛いもんだろ」


「……とは言っても比較対象が悪い」


「それについては同感だが」


 言って、私と大隅さんはほぼ同時にほんのりと笑った。


「あ、部屋分かった?」


「ああ。番号は掲示されてたからな。しっかし、何も無いんだなこの部屋」


 私の隣、202号室の中を覗いた大隅さんがやれやれ、と言いたげな表情をする。


「寮だからね」


「せめて部屋ごとにテレビとか置いとけっての。見たい番組とかどうすんだよ」


「食堂に大きなテレビがあるから、それを見るとか」


「他のやつが見てたら見れねーし、そもそも録画とか出来ねーだろ、それじゃ」


「あー……私、あまりテレビ見ないからなあ」


 私の言葉に大げさな表情で答える大隅さん。


「マジかよ! テレビ見ないとかありえねえ」


「そう?」


「何の話ー?」


 トイレから出てき中居さんが首を傾げる。


「部屋が殺風景すぎるって話だよ」


「マジで? ……うわ、ありえんてぃー。テレビ無いじゃん!」


 部屋の中を覗いた中居さんの反応に、うんうんと頷く大隅さん。


「だよなあ。ほれ小山、お前だけじゃね? テレビ無くても生きていけるって」


「え? こやまんテレビ見ないの? オニやばくね?」


「いや、見ないわけじゃないけど……」


 ぴくり、と反応する中居さん。何に反応したのかというと、


「お、こやまんがタメ語になった」


 ということについてだったみたい。


「あたしが調教したからな」


 ふふん、と鼻を鳴らす大隅さんに私がツッコむ。


「調教じゃないから!」


「んじゃあ後はあだ名で呼ぶようにするだけかー。それか下の名前」


「えっと……中居さんの下の名前なんだっけ」


「えっ、酷くない?」


「太田さんに怒られて完全に全部吹き飛んじゃったから」


「あー、わかるー」


「いちいち合いの手入れんな、晴海」


「ああ、そうそう。晴海ちゃんだったっけ」


「そうです、晴海ちゃんです。そして、星っちは星っちで」


 キリッと晴海ちゃんが言うので、私は頷く。


「んじゃ星っちで」


「その小学生っぽい感じのあだ名はどうにかならんのか」


「なりませぬ!」


「何で答えが戦国武将っぽいんだよ」


「何となくー。で、そういやご飯とかどーする? ビニコンいく?」


 ポケットからスマホを取り出して視線を向けた中居さんが尋ねる。


「ビニコン……えっと、コンビニのこと?」


「そーそー、ビニコンビニコン……ってこやまんはご飯あるんだっけ」


「ええ、寮生なので」


「そういや、こうやって泊まったときって寮で飯は出るのか?」


「そういやどうなんだろう。前に岩崎さんがここに寄った際には益田さん……さっきの寮長さんがご飯余ることが多いから食べていって良いって言ってたけど。もう1度寮長室まで行く?」


「今からまた寮長室とかまで行くのとかマジめんでぃーなので、ご飯は後にして、先にお風呂入ろーよ」


「だな。んじゃ小山、タオル貸してくれ」


「え? あ、お風呂? 今から?」


「何をするにもまずスッキリしてからだろ。風呂でゆっくりしてから後のこと考えようぜ」


「風呂ぽよー」


 それぞれの部屋に入っていく2人の背中を無言のまま見送り、私は割りと真面目に焦り始める。


 ……お風呂、本当に3人で入るの? それは大丈夫だろうか? いや、だいじょばない。


 現代風反語を使うくらいにはヤバイ状況だけれど、だからといって絶対に嫌だと拒絶する訳にもいかず、何か良い言い訳はないかと考えながら私も自分の部屋の扉を開けると、待っていましたとばかりにテオが飛び出してくる。


「ああ、ただいまテオ」


 私の言葉に反応するように、なーぉと答えるテオは服や鞄に爪を引っ掛けて、器用に私の背中を駆け上がり、定位置の頭の上に伸びて猫帽子になった。これされるのは良いのだけど、服に爪で穴が空いたりすることがあるから、制服ではしてほしくないなあ。


「こやまーん……ありゃ?」


 部屋を覗き込んできた髪の毛がドリルの方のギャルが、鞄を定位置にしまっていた私の頭を見て、言葉を切った。


「猫ちゃんじゃね?」


「猫ちゃんだよ」


「この前、学校に黒猫ちゃん居たけど友達?」


「全然。この子は実家の猫で、いつの間にか学校に忍び込んでたんだけど、何だかんだでこっちで飼ってるの」


「ほーん? 名前は?」


「テオ。テオドールって名前だけど長いから」


「テオかー。あ、テオも風呂入る系?」


「いや、入らない系」


「入らない系かあ。せっかくだから一緒に風呂ぽよしたかったのに」


 新しい動詞が誕生していた。


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