第27時限目 友情のお時間 その27
前にみゃーちゃんたちが叱られたときと同じように、食堂のテーブルを挟んで私と羽海、そして本日2回目の椎田さんが、萌と向かい合って事情説明タイム。
ちゃんと説明したら、萌は一応の理解は示してくれたけれど。
「もっと他の方法は無かったの?」
呆れ顔の萌の言葉に、羽海がうーんと腕を組んで考える。
「他の……あ、メンバーとの自撮りとか……」
「LALALA・LOVERのメンバーとの?」
「うん」
そう言って、羽海はスマホを取り出して、写真を見せた。
何処かのスタジオで撮った写真みたいで、テレビでしか見たことがない、LALALA・LOVERの他の2人と同じ写真に、羽海が写っている。
「……そんなものがあるなら、最初から見せれば良かったでしょう」
深い溜息を吐く萌。
「ごめんなさい」
「いや、羽海のせいじゃなくて、私が言ったから……」
「わ、私も信じられずに……すみません」
羽海、私、椎田さんと、順番に謝ったのだけれど。
「……全く。で、そっちの覗き組は今の説明でいいのかしら?」
そう言って、萌が自分の背中の方……つまり、食堂の扉の向こうからこっちを、萌の言葉通り覗き込んでいた3つの頭の方に向かって視線を投げた。
居たのは、華夜、花乃亜ちゃん、繭ちゃん。
小学生コンビ以外は羽海の歌声につられて食堂に集まってきたらしい。
で、3人共が首肯したからようやく萌のお説教タイムが終わった……のだけれど、ここからがまた大変だった。
椎田さんが羽海に対して、
「すみません、すみません、すみません」
と謝罪を繰り返し始め、
「あ、いや、アタシも別に全然、怒ってるわけでも何でもないし……」
と羽海が答えるのだけれど、椎田さんの謝罪は止まる様子がない。
本気で、全身全霊で謝り散らしている椎田さんに羽海はほとほと手を焼いているような感じだったのだけれど、最終的には萌が割り込んで、ひとまずその場は収まった……けれど、それでも椎田さんはまだ謝罪し足りない様子。
正直言って、椎田さんが元橋さんのこと以外で、ここまで取り乱すことがあるとは思わなかったし、そもそも椎田さんがアイドルとかに興味があるというのは知らなかった。
……いや、後で椎田さんに聞いた話からすると、アイドルに興味があるというとちょっと語弊があるかな。
椎田さんが病院の待合室で点いていたテレビで何気なく見たとき、ある番組でLALALA・LOVERがゲストに出ていて、現役女子高生でアイドルなのに、リーダーの『MIZUKI』が大人相手にきっちり受け答えしているのが印象に残っていた。
真剣にテレビを見ていた椎田さんに、病院で良く担当になる看護師さんが『MIZUKI』はこの辺りに住んでいるらしいと聞いて、椎田さんは尊敬の念を抱き、いつか会ってみたいと思っていたらしい。
ただ、椎田さんは学校を休みがちで他の人と話をすることもほとんどなく、唯一と言っていいくらいの話し相手だった元橋さんに対しても、振られた話に対して答えるスタイルが多かったからか、自分の話をすることはあまりなく、今日に至ったみたい。
後日、椎田さんと元橋さんが一緒に居るときに、元橋さんから聞いた話だけれど、椎田さんがLALALA・LOVERのことを好きらしいという認識はあっても、教室でも羽海がアイドルだということは何度も話題になっていたから、改めてそこに触れる必要もないかと思っていたらしい。
実は『羽海=MIZUKI』ということを知らなかったと、椎田さん本人が元橋さんに告げたとき、
「えっ、智穂さん、ご存知なかったんですか……?」
と驚愕の表情を見せていたのが印象的だった。
ただ、羽海は羽海でそもそも教室に居ないことも多く、教室に居てもずっと突っ伏して寝ているし、文化祭とかのイベントでも人の居ない場所にそっと抜け出すことが多かったらしいから、本人と会う機会もかなり少なかっただろう。
だからまあ、すれ違っていても仕方がなかったのだろうと思う。
……あ、休みが多かった『雨海羽海』というクラスメイトを見て、椎田さんは自分と同じで病弱な女の子なのかな、と別の意味で親近感を覚えていたらしい、ということも一応付け加えておこう。
とまあ、そんなこんなで色々あったのだけれど、とにかくこのままでは寮生全員遅刻、なんてことになりかねないから今日は強制的にお開きとなった。
ただ、そんな私はまだ1つ、大きなミッションを抱えていた。
「……」
「テオー、機嫌直してよー」
そう、テオのご機嫌取り。
本当ならちょっと飲み物を飲んで、テオをモフモフして寝る予定だったのが、萌のお説教に始まり、更に椎田さんへの事情聴取など、色々……本当に色々ありすぎて、情報の消化不良を起こしていたのだけれど。
部屋に帰ってきた私は尻尾で不満の意を示したテオに許してもらえるまで、撫で倒さないと眠れず、結局翌日の朝は欠伸を連発することになってしまった。




