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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第27時限目 友情のお時間 その26

 躊躇ためらいがちな言葉の後、続いた椎田しいださんの言葉は思いがけないものだった。


「――そのサイン……『MIZUKI』の、ですよね」


「…………えっ!?」


 最初、椎田さんの言っている“みずき”という言葉が何のことか全く分からず、脳内で疑問符ぎもんふ工場が急稼働きゅうかどうを始めたのだけれど、サインと言われてマグカップに視線を落とし、はっとした。


「……あ、えっと……この、マグカップの?」


 私が確認すると、小さく椎田さんがこくりとうなずいた。


 確かにこのマグカップには『MIZUKI』というサインが書いてある。


 ……羽海うみと会ったばかりの頃、なかば強引に書かれた? 書いてもらった? あのマグカップ。


 もちろん、別にあのサインを見せびらかすつもりもなく、単純にこのマグカップしか持っていなかったから、継続して使っていただけなのだけれど。


「あ、はい……まあ、そんな感じです、ね」


「その、差しつかえなければ、なんですが……ど、どちらで購入されたんですか?」


「いえ、その……?」


 あれ、変だな?


 だって、彼女……羽海うみのことは皆、知っているはずでは?


 ……いや、違う。


 何故『MIZUKI』のサイングッズを持っているのか、という方?


 もしそうなら……迂闊うかつだった。


 これではなぎささんがずっと後悔こうかいしていたみたいに、私も見せびらかしているようなものだと言われても仕方がない。


「や、やっぱり、買った場所は教えてもらえない、ですか……」


 しゅんとした椎田さんにうそを言うのも……思って、羽海にはごめんと心の中で謝りつつ、


「あ、いえ、そういうわけではなくて! 色々あって、羽海にサインしてもらっただけで……」


 と私は素直に答えたのだけれど。


「羽海……?」


「あれ? あの――」


「あ゛ー疲れた。ただい……じゅん、何してんの? あれ、そっちの……?」


「え?」


 私、椎田さん、そして今帰ってきたばかりらしい羽海、全員の頭の上にハテナが飛びっていたのだけれど、そのハテナのラッシュアワーを止めるべく、私が口火くちびを切った。


「いや、その……ごめん、羽海。マグカップに書いてもらったサインがね……」


「何、洗ってたら消えたとか?」


「じゃなくて……」


 ちらっと椎田さんの方を見ると、私と羽海を見比べて、更に怪訝けげん面持おももちになった。


 ……いや、まさか……でも、本当に?


「あ、あの、椎田さん……その、さっきの話で『MIZUKI』っていうのは、歌手というかアイドルグループの――」


「そうです。LALALA・LOVERの『MIZUKI』です。私、病院で良く聞いていて……同じ高校生なのにすごいなって……勇気をもらえて……」


 いつも物静かな感じの椎田さんがすらすらと賛辞さんじの言葉を述べるから、言われている本人が照れて「も、もういいから! やめて!」と言い始めるのだけれど、それを見て不思議そうに椎田さんは首をかしげる。


 やっぱり椎田さんは羽海が……つまりクラスメイトが、その『MIZUKI』だと気づいていない?


「あの、椎田さん。ごめんなさい、少しだけ確認させて」


 疑惑ぎわくをはっきりさせるために、私は出来るだけ心を落ち着けて尋ねてみる。


「何でしょうか」


「あの、椎田さんが言ってるLALALA・LOVERの『MIZUKI』は今、目の前に居る羽海……雨海あまがいさん、というのは知ってますか……?」


「? ……? …………???」


 何を言っているの? という表情で、私を見ている。


 うん、確定した。


 やはり、椎田さんは羽海が『MIZUKI』だって知らないらしい。


 その衝撃しょうげきは羽海自身にもあったらしく。


「……え? マジで、気づかれてなかった?」


「どういう……?」


 また疑問符が大渋滞だいじゅうたいを起こしそうだったから、私は羽海に耳打ちした。


 信じられないのであれば、歌ってみたら? と。


「今も散々歌ってきたんだけど……まあ、仕方がないか」


 そう言った羽海は、すぅっと息を吸ってから、歌い出した。


 確か、初めて羽海と会ったとき、テレビで流れていた”愛さえあれば”という曲だったはず。


 1番だけ通しで歌ったのだけれど、椎田さんの表情が不審ふしんな人を見る表情から、はっきりと状況を理解して、


「えっ、あっ……そんな、あれ、で、でもっ!?」


 と小さくつぶいていたのだけれど、最後には歌声を聞きながら、ぽろぽろと涙すら流し始めた。


「……って感じで……まあ、うん、信用してもらえ――」


「ちょっと! 何時だと思っているの!?」


 歌声につられて、萌……だけじゃなくて、他の子たちもぞろぞろと集まってくる。


 ……あー、うん、ごめんなさい。


 それはそうなるよね。

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