第27時限目 友情のお時間 その21
寮に戻ると、パジャマ代わりに使っているのをよく見る、室内用の薄手のシャツとパンツ姿の萌と華夜が廊下で話をしているところだった。
私が扉を開けた音で、2人は同時にこちらを見て、
「また何かやらかしたの?」
「何かやった?」
とこれまたほぼ同時に言い放った。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私は無実だから!」
わたわたと顔も両手も左右に振って、無罪アピールをする私。
「すぐに答えるってことは、心当たりはあるんじゃない」
「うぐっ」
あるかないかで言えば、確かに心当たりはあるのだけれど。
「と、とにかく、今回の件は……少なくとも”彼女”が寮に来た件については無実だから!」
私が必死にそう言うと、萌と華夜は、
「……ホントかしら、ねえ?」
「怪しい」
とまだ訝しむような視線をぶつけてきた。
確かに今まで色々やらかしていたのは事実だけど、今回は本当に完全にまるっきり潔白!
きっかけ……いや、うん、きっかけではあったかもしれないけど!
……というか私の発言に「誰の話?」とならなかった辺り、やっぱり”彼女”の件で間違いないのだろう。
「じゃあ、さっき寮長室で咲野先生と会ってたことに関係は?」
「…………」
萌の発言に、私は思わず目を逸らして答えなかったのだけれど、いくら何でもあからさま過ぎた。
「……なるほど。今回は咲野先生の方ってことね」
自分自身、誤魔化すのが下手だなとは思うけれど、こんな詰められ方をしたら、流石に誤魔化しようがないと思う。
ごめんなさい、先生。
「咲野先生がやらかしたの?」
「じゃない? 母も益田さんもそれっぽい話を全くしていなかったのに、急に入寮なんて話が降って湧いたし。準の反応を見る限りでは、咲野先生がやらかしたとしか考えられないわね」
「ふーん……」
華夜が更なる説明を求めるように、私を見たけれど、
「私からはノーコメントで」
と両手を前に出して拒否のポーズ。
とりあえず、この場を乗り切れたと言っていいのかはさておき、これ以上の追及を逃れようと、黙って靴を脱ぎかけた私だったのだけれど。
「ああ、丁度良かった。今日、寮生は全員揃っているか?」
そう言いながら、益田さんが階段を下りてきて、私たちを見てから言った。
「いえ、雨海さんだけ居ません」
「ふむ。それ以外は全員?」
「恐らく……他の子は今日帰ってきてから見ましたが、外出していたら分かりません」
眼鏡のつるを指で押さえた萌の回答に頷いた益田さんが、
「折角だから、新しく来た寮生を全員に紹介でもしようかと思ってな」
と言ったから、私たち3人は目をぱちくりさせた後、顔を見合わせ、
「いえ、あの……椎田さんのこと、ですよね? 峰さんと真白さん以外は全員クラスメイトなので、私たちは改めて紹介というほどでも……」
とちょっと戸惑いつつ萌が答えた。
こういうとき、私たちの言いたいことを読み取って、萌が代わりに回答してくれるから助かる。
あ、ちなみに真白さんというのはみゃーちゃんのこと。
みゃーちゃんたちが入寮した後、萌が真白さんって言っているのを聞いて、誰? としばらく首を捻っていたけれど、もう慣れた。
「ん、そうだったのか。そうなると、残りの2人も既に顔合わせは済ませてしまったから、必要ないか」
「え?」
私たちがほぼ同時に、疑問符付きの声を返すと、階段の上から呑気な声が降ってきた。
「準ー、帰ってきたにゃー?」
「小山さん、凄いです! 新しく来たお姉さんに、おまめちゃんが一瞬でなつきました!」
階段からどたどたと下りてくる、年齢的には小学生のハイスペックガール2人。
それを睥睨する萌。
固まる2人。
……とまあ、この辺りはいつものフォーマットだなあ、という感じだったのだけれど。
「あ、あの、この子、ど、どうすれば……」
2人の後ろから、さっきもしていた困惑気味の表情で黒猫を抱えて、慎重に降りてくる椎田さんの姿が。
大きさ的に子猫だから、みゃーちゃんの飼ってるノワールちゃんじゃなくて、多分峰さんのおまめちゃんかな?
……いや、どっちだとしても、何故椎田さんが?
「…………」
もうどこから突っ込んでいいいやら……、という呟きが聞こえそうな表情を萌がしている様子だったけれど。
「とりあえず、その子猫を部屋に戻してから、食堂に集まりなさい」
「……はい」
しゅんとした2人と、相変わらず困った表情の椎田さん、それを見た呆れ顔の私たち。
とりあえず、自分の部屋に戻ったり戻らなかったりしつつ、萌の指示通り、私たちは食堂に集まった。




