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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その16

 先に階段を上りかけていた大隅さんを追って、階段を上ろうとしたら、何故かさっきまで急かしていた中居さんが電池切れの渡部さんみたく静止していた。


「どうしました?」


「こやまん、ヤバい」


「え?」


 酷く真剣な目で私を見るので、何かマズイものでも見つけたのかと思ったけれど、返ってきた答えで私は漫才のボケみたいにすっ転びそうになった。


「……めっちゃトイレ行きたい」


「…………え、あ、ああ、そういうことですか」


「ガッコ出る前には行きたかったのに、今まで忘れてた」


「なんでそんなの忘れるんだよ」


 呆れ声の大隅さんに、ぷんすこしながら中居さんが言い返す。


「だって、こやまんが寮長が居るとか言ってどっか行っちゃったのに、アタシトイレ行くからーってその場離れられないじゃん!」


「お前ならやると思うけどな」


 大隅さんの容赦ない言葉に、申し訳ないけれど私も「そうだよね」って心の中で首を縦に振ってしまった。


「こやまん戻ってきたらすぐに学校出ちゃうし、皆フッ軽でたったか歩くしで、追いつくのに集中してたら忘れてたぽよ。とりま、トイレ何処?」


「右手突き当り右です」


「おっけー。ちょい行ってくる」


 ピッ、と手を上げて中居さんがトイレに小走りで向かう。


 ああ、なんというか、その、全く言葉とか気にしないんだなあ。お花摘みはさておき、せめてお手洗いとか。


「全くあいつは……先に部屋に行っとくか」


「中居さん、放っておいていいんですか?」


「あいつだし、良いだろ」


 大隅さん、結構中居さんの扱いが酷い。まあ、信頼関係が出来ているからなのかもしれないけれど。


「後、喋るならタメ口にしろよな」


「え?」


「敬語とか気持ち悪いから、さっさとタメ語にしろよ」


 そう言って、さっさと階段を上がり始める大隅さん。


「……あ、ああ、えっと、うん、そうだね、そうする」


 突然仲間に入った私を、彼女は彼女なりに迎え入れ方について悩んでいるのかもしれない。


「助けてこやまーん!」


 私も階段を上ろうと1段踏み出したタイミングで、トイレの方から大声で、地元密着型ご当地ヒーローを呼ぶみたいな声がした。呼ばれたのは私だけど。


 階段を駆け下り、トイレのドアを開けると、個室の扉が3つあるのだけれど、その中でヘルプの声が聞こえる扉の前に立つ。


「どうしました?」


「オー、カミガナイデース」


「何故片言!」


「なんか、トイレットペーパーを10周くらい巻いたら無くなった」


「10周!?」


 当たり前のように言った中居さんの言葉に私は思わず声が裏返った。


「え? それくらい普通じゃん?」


「私は使っても半分以下ですが……いや、人それぞれかも、ってそれはさておき、トイレットペーパーですか」


「そうそう。その辺に無い? 個室内にはなさ


「えっと……ああ、ありますね」


 洗面台の下を開けると、トイレットペーパーが入っているのが見つかった。


「マジで? 頂戴ー」


「ええ、どう……ちょ、ちょっと!」


「ん?」


 私が屈んで洗面台の下からトイレットペーパーを取り出した辺りで個室の扉が開き、洋式に座っていた中居さんが手を伸ばしているのが見えて、私は慌てて視線を逸らす。


「ちょ、ちょっと、扉閉めてください」


「えー? 扉閉めてたらトイレットペーパー受け取れなくね?」


「いや、扉の上に隙間あるから、そこから渡せばいいじゃないですか」


「あー、そっか。まあ、でも別に女同士だし、見られたって困らないじゃん? どうせ、お風呂も一緒に入るんだし」


「そりゃそうで……え?」


「ん? そりゃ、寮で泊まるならお風呂も入るじゃん?」


「え、あ、えっと、いや……そ、そうですね……」


 すっかり忘れていた。


 転校当初、理事長に釘を差された通り、普段は時間をずらしてお風呂に入っている。お陰で浴槽とか着替えのタイミングで女の子と遭遇することは無かった。ただし、お風呂の外で太田さんに「入る時間が遅すぎる」と注意されたことはあったけれど。


 でも、今日はどちらかというと合宿というかお泊まり会というか、そんな雰囲気になってきているから、お風呂にも一緒に当然入るという流れは分からないでもなく、そんなこと出来ない! とは言えない気がする。


 ……いや、何としてでも言わないといけないけれど。


「まー、とにかくトイレットペーパー」


「あ、は、はい」


 ぎくしゃくしながら、私は視線を中居さんに向けないようにしながらトイレットペーパーを差し出す。


「こやまん、何。女同士なのに見るのずいの?」


「いや、その、こういうところで見るのは、何となく悪いかなって」


「別に見られたからって困るわけでもないし。ってか銭湯とか入れなくね? 何、こやまん銭湯とか入ったことないの?」


「い、いえ、ありますが」


「んじゃあ、いいじゃん」


 言いたいことは分かるのだけど、そこは性別の壁という歴史上国境や地域を分断された壁よりも高く長い壁がありまして。


「とにかく、早く2階に上がってきてください、先に上がってます」


 私はそう言い逃げして、トイレから出たところで一呼吸。


「はあ……」


 あ、危なかった。色々と。


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