第27時限目 友情のお時間 その13
「こっちはもう良さそうだ」
晴れているとはいえ少し冷える秋風が吹く中、寮の近くにある少し開けた場所に組まれた焚き火の中から、益田さんが火ばさみでアルミに包まれたさつまいもを取り出した。
「確認してみます」
少しだけ着込んだ私が竹串を刺してみると、するっと奥まで入っていく。
まだ熱が残るさつまいものアルミを剥がし、あちあち言いながら割ってみると中まで十分火が通っているようだった。
「あつ……うん、良さそうですね」
「それが大丈夫ならこの辺りもいけそうだな」
益田さんが追加で、焚き火の中からアルミに包まれたさつまいもを取り出していくから、私と坂本先生がそのさつまいもを割っていく。
で、その割ったさつまいもは萌と華夜がお皿に乗せ、参加者の中でもまず”小さい子グループ”のみゃーちゃん、峰さん、繭ちゃん、花乃亜ちゃんが座っているキャンプ用の折りたたみテーブルへ運ぶ。
……改めて確認しておくけれど、みゃーちゃんと峰さんは小学生、繭ちゃんと花乃亜ちゃんは普通に高校生。
ただ、並ぶと……うん。
花乃亜ちゃんの叔母さん……静野さんも見た目かなり若い……というか子供にしか見えなかったけれど大人だったし、うーん……世の中はかくも不思議が溢れているのだなあ。
「さつまいもが良いなら、こっちのじゃがいもの方もいけるんじゃない?」
もう1人の火ばさみ担当である咲野先生が丸っこいアルミの方を持ち上げて、竹串を刺してみる。
「硬っ……うーん、小さめだからと思って、ちょっと火から離してたけど、この感じだと完全に火の中に突っ込んだ方がいいかも?」
「真弓、それが終わったら玉ねぎも確認しといてくれ」
「ほいほーい」
そんな様子を見ながら、しばらくきょろきょろしていた元橋さんがきゅるきゅると車椅子で近づいてきて、
「今の寮の関係者って結構多いんですね」
と感心した様子で私に言った。
「そうですね。寮生自体も増えましたし、たまに寮に泊まる子も居たりしますし」
「たまに……って、寮って寮生じゃなくても泊まれるんですか!?」
興味津々という様子で、元橋さんが質問するから、私は星歌とか晴海とか、最近では真理とかが泊まったことがあるということを説明すると、
「なるほどなるほど……」
と何やら自分の中で納得した様子を見せて、車椅子を転がして椎田さんの方へ向かっていった。
……いや、まさかね?
一抹の不安を覚えつつも、私はこの“焼き芋+αパーティー”の参加者たちをぐるりと見渡した。
きっかけを誰とするべきかは分からないけれど、何にせよ寮での開催を提案した花乃亜ちゃん案はあっさり通った。
寮の方は先生たちが火の管理をするという条件であれば問題なし、元橋さんと椎田さんの方も、寮生と先生だけでならあまり大所帯にならないだろうということで、平日ではなく休日の開催となった。
ちなみに、残念ながら寮生全員が参加出来たわけではなく。
『え、ずるい! アタシも参加したかった!』
寮生だけどたまに寮に居るという表現の方が正しい羽海にコミューで連絡してみたけれど、今日はレッスンが入っていて参加できないらしかった。
普段、平日に授業があるから、土日はレッスンだ撮影だと色々とお仕事が詰まっているそうで。
羽海が参加出来ないという話を元橋さんに話すと、
「そうですか。雨海さんとはゆっくり話をしてみたかったんですが……残念です」
と返ってきた。
私よりも前からこの学校に居る子たちの方が羽海とは関わっているだろうと思っていたけれど、そういえば羽海本人が可能な限り他人と関わらないようにしていたんだっけ。
そういう意味では、ちょっと勿体なかったのかも。
そんな元橋さんは、前に天体観測をしたときにも持ってきていた小さな椅子に座っている椎田さんとお話の最中。
元橋さん以外で椎田さんと話をしているのは、たまに寄っていく花乃亜ちゃんくらいで、それ以外はずっと持ってきている本を開いている。
おそらく、元橋さんが寮での焼き芋パーティーをすぐにOKしなかったのは、こういう状況を想像して……だったのかも。
「準の分」
「ん?」
起伏のない声がした方を見ると、焼き芋と玉ねぎが載ったお皿を私に差し出す華夜。
「ああ、ありがとう」
私は謝辞を告げてから、お皿を受け取って、焼き芋を口に運んだ。




