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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第27時限目 友情のお時間 その10

「もう最終下校時刻ですよ?」


「あ、すみません。すぐ帰ります」


 かばんを持ち直して、頭を下げた私が小走りで先生の横を通ろうとすると「あっ、いえ」とちょっとあわてた様子で坂本先生が続けた。


「いえ、そこまで急ぐ必要は……廊下ろうかを走るのは良くないですし。でも、こんな時間まで……また真弓ちゃんに何か頼まれていたとか?」


 まゆをハの字にして、坂本先生が言うから、今度は私が慌てて両手を左右に振った。


「い、いえ! 今日は読みたい本があったので、図書室で本を読んでいただけです」


「本……小山こやまさんは結構、本を読まれるんですか?」


「はい。休日は本を読んで過ごすことが多くて……」


 その後もどんな本を読むのか、みたいな立ち話をしていたら、はっとした坂本先生がきょろきょろと周囲を見回した。


「そういえば、もう最終下校時刻でしたね。このまま引き止めるのは……あ、そうだ。小山さんはこれから時間あります?」


「え? はい。大丈夫ですが……」


 坂本先生も何か手伝って欲しい、という話だろうかと思ったのだけれど、ちょっと違った。


「これから、寮長室りょうちょうしつの方でお茶しようって話になっていまして。もしよければ、小山さんもいかがですか? 真弓ちゃんが小山さんに色々お願いしてるって話も聞きましたから、たまにはお返しもしないと、と思っていまして」


 坂本先生が両手を合わせて、ほんわかと笑う。


「別に手伝い自体は構わないんですが……でも、お茶会は良ければ参加したいです」


「そうですか、それは良かった。では、昇降口しょうこうぐちでちょっと待っててもらえますか? 最後に保健室の戸締まりだけしてきますから」


「はい」


 そういえば、坂本先生とはプールのときにゆっくり話をしたとき以来、あまり話をしていなかった気がするし。


 先にくつき替えてから昇降口で待っていると、柔らかな声が後ろからした。


「おまたせしました」


 ベージュのブラウスとあまり深くないスリットが入った茶色系の長いスカート姿の坂本先生が現れた。


 坂本先生に会うときは大体が白衣の姿で、寮長室で会ったときには割と部屋着というか、ゆったりとした服装だったけれど、今日はよそ行きの大人な服装だなあ、なんて考えていると。


「どうしました?」


 おや? と坂本先生が目をぱちくりさせていたから、私は首を横に振ってから尋ねた。


「……あ、いえ。何でもないです。寮長室ですよね、行きましょう」


「ええ」


 坂本先生がうなずいたのを確認して、私は坂本先生の隣を歩いて、寮長室に向かう。


 ……その道中、さっきしていた本の話の続きをしていると、断片的に脳に残っていた記憶きおくが呼び起こされた。


 前にみゃーちゃんから聞いた話だと、坂本先生は寮長室に住んでいるらしい。


 寮長室に同じように住んでいるみゃーちゃんが言うのだから間違いはないのだろうけれど、本人からそんな話を聞いたことがない。


 もしかすると、別に隠しているわけではなく、単純に話す機会がなかっただけで聞いたら教えてくれるのかもしれない。


 ただ、何かしらの理由……つまり言いたくない理由があるのであれば、話を振ること自体が地雷になりうるから、本人には正直尋ねられない。


 ……まあ、そもそも私が知らないといけない理由もないのだから、聞く必要もないといえばないのだけれど、みゃーちゃんがあんなこと言うから、気になってしまった。


「そういえば、もう半年近くになりますが……クラスの子たちとは大分仲良くなりましたか?」


 考え事をしていたから、坂本先生の言葉に一瞬遅れて反応した私は、


「えっ……あ、はい。そうですね。いろんな子と仲良くなれたかなと思います」


 と誤魔化ごまかすように笑顔で返した。


「良かったです。転校生の子って馴染なじめない子はずっと馴染めないままで苦労しているという話とかも良く聞きますから。特に……ほら、前に言ったこと覚えていますか?」


「え?」


 坂本先生の言葉に、首をかしげる私。


 何の話だったかな……?


「真弓ちゃんのクラスの子はちょっと……変わった子が多いから、特に心配していたんです」


 先生が額にしわを寄せて言う。


「あー、そういえば言われていましたね」


 ようやく思い出した私は苦笑した。


 坂本先生みたいな真面目っぽい人が、突然クラスの子に対して”変わった子”というのはちょっと驚いたけれど……性格がどうこうというよりは色々と抱えた子たちが多かったという感じ。


 でも、そういう意味では……前の学校で色々あった私もこのクラスで正しかったんだなあとは思う。


 だから。


「どうやら、私も”変わった子”の方だったみたいです」


「ふふっ」


 私の自虐じぎゃくネタに笑ってくれた坂本先生。


「”変わった子”……でも、その方が良いのかもしれませんね」


「え?」


 進行方向をまっすぐ見た坂本先生は笑顔ではあるけれど、でも少しさびしそうだった。


「いえ……何でもないですよ。さあ、お茶会の会場はこちらでーす」


 つとめて明るく、坂本先生はそう言って、寮長室のとびらを開けた。

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