第27時限目 友情のお時間 その3
「後は……ごめん、知らない」
「ううん、十分だよ。ありがとう」
花乃亜ちゃんもあまり椎田さんと接点がなかったみたいだし、私の印象だけではなく他の子の視点でもいつも一緒に居るって感じていたことが確認取れただけで十分。
「……準」
「ん?」
私がそろそろ明日の予習を始めようかなと思ったところで、花乃亜ちゃんが私を呼んだ。
「椎田さんと、喧嘩?」
「いや、喧嘩以前の状態というか。でも、少なくともあまり良く思われてないというか……」
良く思われていない理由は分かっているけれど、これはもう3人で居るときはどうしようもない。
むしろ、今の私は間に挟まるお邪魔虫みたいなものだし。
だけど、元橋さんはそんな状態でも私を呼びたいわけで。
かといって、今みたいな関係のままで居ると、正直2人に会うたびに胃が痛くなるわけで。
まあ、つまり。
「……椎田さんとも、もう少し仲良くなれたらなーって」
私が笑顔を取り繕って言うと、花乃亜ちゃんは少し俯いて考え込んでから、
「……言い忘れてた」
と顔を上げた。
「え?」
「椎田さん、図書室、良く来るよ」
花乃亜ちゃんの言葉に、私は目を瞬かせる。
「図書室に……? あ、そういえば花乃亜ちゃん、図書委員だから会うんだね」
私の言葉に、こくりと首を縦に振る花乃亜ちゃん。
そもそも、花乃亜ちゃんと知り合ったのも図書室で段ボールの中に埋もれていた花乃亜ちゃんをサルベージ……まあ、つまり救出したのがきっかけだったっけ。
「うん。クラスで1番、学校全体でも1番かも」
「そんなに?」
意外といえば意外だし、雰囲気が所謂文学少女像に近いといえばそれも正しくはあるのだけれど。
「それと最近――」
花乃亜ちゃんが何かを言い掛けたけれど、口を噤んだ。
「最近?」
「……やっぱり、これは秘密」
「????」
花乃亜ちゃんが言うのを止めたということは本人と図書委員である花乃亜ちゃんしか知らないことで、個人情報みたいに教えたら駄目なことだったのだろうけれど、何だったのかちょっと気になる。
「本を借りるときだけは、1人で来てる。だから、椎田さんに1人で会いたければ、図書室に来て」
「そっか……ありがとう」
ただ、今の私が椎田さんと2人になったとして、そもそも何と話せばいいのか分からない。
別に、元橋さんとは何もないよとか?
むしろ言い訳がましくて、怪しむんじゃないかな。
椎田さんと仲良くなりたいんですとか?
それもそれで、むしろ何か裏があって近づいたんじゃないかって勘違いされる気がする。
何にせよ、彼女と会う場合には図書室に行けばいいということが分かっただけでも有用な情報だった。
「椎田さんと話をするときには、図書室に行ってみるね」
「椎田さんとの話がなくても、図書室来て」
「…………確かに」
花乃亜ちゃんに言われて、はたと気づく。
そういえば、前の学校では勉強のために図書室に行くことはそれなりにあったけれど、この学校では花乃亜ちゃんと会ったあのときくらいしか行ってないっけ。
買った本もそろそろ読み終わるし、新しいの買おうかなと思っていたけれど、図書室で借りるのもいいかもしれない。
「叔母さんの新刊、入荷した」
「叔母さん……って静野さんの新刊?」
「そう。図書委員特権」
ぶい、とピースサインを私に向ける花乃亜ちゃん。
……なるほど、図書委員ってそういうことも出来るんだ。
単純に、購買の人とかと仲が良い花乃亜ちゃんだから、優先的に選んでくれているのかもしれないけれど。
「じゃあ、今度図書室行くね」
「うん、分か――」
「準! 遊びに来たに゛ゃっ!」
ばーん! と無遠慮に扉を開けたみゃーちゃんが、花乃亜ちゃんの姿を見てすぐに濁った声を上げた。
それからはテオと私の膝の取り合いつつ、しっちゃかめっちゃかになってしまった。
で、翌週の月曜日。
「あー、しまった……」
ホームルーム終了後、咲野先生が教室を出ようとしたところで、そう小さく呟いてから、
「小山さーん、ちょっと来て」
と私の名前を呼ぶ。
何だろうと思いつつも、咲野先生に呼ばれるままに教室の前方まで来ると、
「小山さんって椎田ちゃんとは仲良い?」
と咲野先生に尋ねられた。
……これはとても答えにくい質問だなあ。
いや、質問が椎田さんじゃなくて他の人だったとしても、仲が良いとまで言って良いのか疑問がある相手の顔も何人か思い浮かぶし……。




