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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第27時限目 友情のお時間 その1

「じゃあ、行きましょう」


「……」


「え、ええ……」


 私は元橋もとはしさんの言葉にうなずいたけれど、ちらりと隣を見ると、無言の眼鏡めがね女子からなぞの圧が来ていたから、私は目をらした。


「あ、向こうの方、何だか人が多いですね。何があるんでしょう」


 駅前の、人が集まっている場所を指差して、元橋さんが目を輝かせる。


 あの場所は多分、ぼうクレープ屋? クレープ車? だったとは思うけれど。


「えっと……行きます、か?」


「はい!」


 元橋さんの車椅子くるまいすを押している私が、隣を気にしながらおっかなびっくり尋ねると、元橋さんの元気な声が返ってくるから、言葉に従って人混みに向かって車椅子を押すと、その隣を眼鏡の子……いや、椎田しいださんがついてくる。


 今、何をしているのかといえば、一般的に言えば……そして本来なら『デート』に当たるはずのもの……になるはずだった、気がする。


 何故、そんなふわふわした説明になっているのかを説明する前に、過去の話を振り返る必要がある。


 先に述べておくと、ちかって実はこっそり男女の仲になっていたとか、そういういうのではなく!


 まず、色々あって元橋さんは私が男だと知っている。


 そして、前に天体観測をしたとき、たまたまバランスをくずした元橋さんを抱きとめたことによる“ときめき”的な何かをきっかけに、恋愛というものに興味がいてしまったらしい。


 そんな元橋さんは、私に対して恋愛感情はないけれど、恋愛はしてみたい、だから付き合ってほしい、とまあ結構無茶な要求をした。


 これがいわゆる『恋に恋する乙女』なのだろうと思いつつ、こちらもまあ色々あってそれを飲むことに。


 お付き合いといっても一般的に想像されるものは一緒いっしょに帰るとか、家に遊びに行くと、デートに行くとかだと思うのだけれど、そこまで露骨な……というか“深い仲”と勘違かんちがいされるというのは元橋さんとしても本意ではないらしい。


 まあ、私のことを男だと知っている子が何人も居るから、私としてもそういう塩対応? というか、積極的に見せつけていきたいタイプじゃなかったのは助かっているのだけれど。


 ただ、教室ではいつものメンバーと談笑だんしょうしている時間が長かったり、徐々に交友こうゆう関係が広がったお陰か色んな子から声をけられることが増え、このままだと完全に“名ばかりカップル”という感じになってしまうことから、たまに土日に遊びに行きましょう、という話になった。


 とはいえ、さっきの通り、2人だけで遊びに行くというのは色々と……元橋さんが考えた結果。


「……」


 こんな針のむしろに立たされてしまうことに。


 まあ、元橋さんからたまには遊びに行きませんか? と提案されて軽くオッケーしてしまった自分がいけないのだけれど、よく考えれば彼女の周りにはいつも椎田さんが居た。


 そうだよね、たまには”2人”で遊びに行きませんか、ではないもんね。


「いつもこんな感じなんですか?」


 さっきの行列はやはり峰工業みねこうぎょう……つまり、あの峰さんのところのクレープロボットが乗っているトラックで、元橋さんが食べたいと言ったクレープを、椎田さんが買いに行ったタイミングを見計みはからって元橋さんに耳打ちをした。


 ちなみに、普通そこは私が買いに行くべきでは? と思うかもしれないけれど、割とひかえめな感じの椎田さんが力強く首を横に振り、さっと買いに行ってしまったから、私はそれ以上何も言えなかったので、ここで待機しているというわけ。


 絶対に自分が買いに行くという、強い意志を感じた。


智穂ちほさんのことですか? いえ、普段はとてもおだやかですよ」


 にこりと笑う元橋さん。


「じゃあ、やっぱり私が居るから……?」


「そうでしょうね」


 ころころと鈴が鳴るような笑いを返す元橋さん。


「いや、笑いごとではなくて……」


「ああ、ちなみに智穂ちほさんには、小山こやまさんが男性だということはせていますので、ご安心ください」


「あ、むしろ、それが理由なのかと思ってました」


 椎田さんがあれだけ敵対心を燃やしているのは「悪い虫が付いたらいけないから!」みたいな親心おやごころ的な部分があるのかなと勝手に思っていたのだけれど、そういうわけではないみたい。


「おそらく、天体観測を一緒にした頃から、私と小山さんの仲が良いように見えているから、私を取られるかもと心配しているのかもしれませんね」


「……」


 全くもって、そんな心配しなくてもいいのに。


 別にお互い、特別な感情を持っているわけでもないし。


「……小山さん、今結構失礼なこと、考えませんでした?」


 じとっ、とした目で私を見る元橋さん。


「いえ、全然」


「そうですか? 全く私に興味などないから安心すればいいのに、といった感じの視線を感じましたが」


「……ノーコメントで」


「つまり、そうだということですよね。やっぱり、失礼じゃないですか。女性に対して全く興味がないとか」


「いえ、そもそも元橋さんが――」


「……あの」


 私と元橋さんが言い合っていると、小さくて、力強くもないけれど、風鈴ふうりんのような耳に残る声が私たちの間に割り込んだ。


「ああ、智穂さん。おかえりなさい」


「……はい」


 椎田さんの両手にはクレープが2個、そしてその片方を元橋さんに差し出す。


「ありがとうございます」


「いえ」


 そんなやり取りの後、椎田さんは私の方をちらりと見て口を開いた。


 ただ、さっきの言葉とは違って、少なくとも言葉は私の耳に届かず、そのまま口を閉じてしまった。


「……?」


 待ってるから、買いに行ってきてもいいですよとか言おうとしたのか、それとももう行きましょうだったのか。


 何か言おうとしていたか尋ねようとしたけれど、元橋さんが椎田さんに声をけて、クレープをみ始めたから、それ以上は何も言わないことにした。


「それで、次は――」


「小山さん、小山さん」


「はい?」


 次の場所を決めようと提案しようとした私に、元橋さんが自分の食べけのクレープを差し出す。


「……えっ!?」


「!?」


 差し出された私と、それを見ていた椎田さんのどちらもが目を白黒させた。


「小山さんだけ無いっていうのも可哀想かわいそうですし。はい、あーん!」


 あまり仲良くしてるところを見られたくない、的なことを言っていたような気がするのだけれど?!


「い、いえ! 大丈夫、大丈夫です! 甘いもの、そんなに食べないので!!」


「本当ですか? それはちょっと残念です」


 本当は甘いものも結構好きだけれど、この状況で口を開けることが出来る勇気はない。


「……」


 ……そして、すごく、とても、視線が痛かった、気がしたのが収まって、私は2人に見られないように小さく安堵あんどの息をアスファルトに投げ捨てた。

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