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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その64

 なかば引きずられるように、谷倉たにくらさんに連れて行かれた私が、


「だ、大丈夫だから! 自分で歩けるから!」


 と伝えると、谷倉さんは腕で顔をぬぐってから、笑顔でこちらを振り向いた。


「あ、すみません。分かりました」


 ほおに涙の跡が見えた谷倉さんはまた振り返って、ゆっくり歩き出す。


 さっきの神坂かみさかさんとの話を聞いていたからか、それとも私がすご剣幕けんまくで神坂さんに言い返していたからか。


 何にせよ、谷倉さんとしては私と神坂さんの関係が悪化しないように連れ出そうとした、ということなのだろうと思う。


 ちょっとタイミングが悪くて、既に真帆まほがほぼ場を収めてくれた後ではあったのだけれど。


「あのっ、谷倉さん!」


「なんですか?」


 足を止めて、でも振り返らずに谷倉さんが言った。


「色々あったけど……私は谷倉さんの味方だから」


 どうしても、言っておきたかったこと。


 もし、さっき神坂さんと仲が悪くなったとしても、友達のことを悪く言う人とはどうせ付き合いたくない。


 だから、心配しなくてもいいよ、という意味も込めて。


「……」


 私の言葉に、谷倉さんが少し肩を震わせてから振り返った。


 ……涙と笑顔でくしゃくしゃになってしまった表情で。


「……ずるいです」


 谷倉さんは嗚咽おえつ混じりの声で続けた。


「全部、私が悪かったから、我慢しなきゃって……そう、思ってたんですけど、小山さんが、アンカーの人と一緒いっしょに居るのが、見えて、私のせいで小山さんが何か言われたらもっと嫌で……」


 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、倒れ込むようにして私の胸に飛び込む谷倉さん。


「ごめんなさい。小山さんを巻き込んで……ごめんなさい」


「ごめんなさい、よりも、ありがとう、の方がうれしいかな」


 谷倉さんを抱きとめながら私が笑って言うと、顔を上げ……る前にまた腕で顔を拭ってから、


「……ありがとうございました、小山さん」


 と谷倉さんがまだ少しゆがんでいる笑顔で言った。


「どういたしまして。神坂さんにはまた説明して――」


「それはあたしがもうしといたからいいよ」


 私の言葉に被せるように、声がした。


「あれ、真帆まほ。もしかして、神坂さんに話してくれた?」


「うん。ってか、ほとんどあの時点で話は終わってたけど。ちゃんと、改めて謝りに来るってさ」


「そっか」


 真帆の言葉に、私が安堵あんどしていると。


「あの、皆さんにも沢山たくさん迷惑めいわくけてしまってすみませんでした」


 谷倉さんが腰を折って謝ると、後ろから谷倉さんの肩に腕を回して、


「なーに言ってんだか」


 と羽海うみが言葉を割り込ませた。


じゅんが最後、あんだけ頑張がんばったのは、谷倉がずっと努力してたのを知ってたからなんでしょ? だったら、谷倉のお陰でもあるわけで」


「いえいえいえ! それは言いすぎです!」


 肩に腕を回した羽海うみの言葉に、ぶんぶんと力強く首を横に振った谷倉さんはまだ続ける。


「それに私がバトンパスを失敗しちゃったせいで……」


「いや、それは違う」


 驚いた表情の谷倉さんが、頭をきながら言う真帆を見た。


「まあ、なんていうか……バトンパスの練習、誘わなかったあたしにも問題あるし」


「あたし“たち”、だろ」


 クラス対抗リレー参加者の最後の1人、星歌ほしかもそう言って現れた。


「……正直言えば、呼ぼうとしてた準を止めたのはあたしたちだからな。すまん」


 頭を下げる星歌に、あわてる谷倉さん。


「い、いえ! 頭を上げてください! 私が……その、今まで皆に迷惑を掛けていて、誘いづらかっただろうというのは事実ですし……多分、小山さんが居なければ、今も何も変わっていなかったと思うので」


「だってさ。準、愛されてるじゃん」


 ひっひっひ、と意地悪ばあさんみたいな声で羽海が言う。


「ま、とにかくさ。色々あったけど、とにかく勝ったんだから、もう暗い話はやめにしない? さっき、宇羽うばちゃんに会って、寮長りょうちょうさんに確認取ってもらったんだけど、寮で打ち上げしていいって言ってたから、ぱーっと打ち上げしよ」


「おう!」


「んじゃ、皆で寮集合ねー。アタシ、先に部屋にもどってから着替えたいんだけど」


 真帆と星歌、羽海が再び先に歩き出す。


「……じゃあ、私たちも行こうか」


 振り返ってそう声を掛けると、谷倉さんはすっきりした表情で言った。


「あの、小山さん」


「ん、何?」


「ちょっと前に、小山さんにお礼を返せるものがないって言ってたと思うんですけど……今日、もっとお礼することが増えて、返せなくなっちゃいました」


「あ、いや、そういうのは別に……」


 私の言葉に、大きく首を横に振ってから、谷倉さんは真摯しんしな目で私を見た。


「それでは私が納得できないんです。それで、色々考えたんですが……やっぱり思いつかなくて。なので、まだまだ先のことにはなるかと思いますが」


 そこまで言ってから、谷倉さんは笑った。


「もし、小山さんが何かで困ったときは呼んでください。私が絶対に、小山さんの味方になりますから!」


 かなりアバウトな内容。


 でも、何かモノで返してもらうとか、この前の布団の中で一緒に寝るとか、そういうのよりは随分ずいぶんと健全だし、お返しは要らないと言っても谷倉さんは引かないだろうから、ここで手を打つのが1番だと思う。


「……うん、分かった」


 私の言葉に、胸をで下ろした谷倉さんは何故かもじもじし始めた。


「あ、えっと……それと……いえ、これはお返しとかではなくて、私がそうしたいからであって、でも小山さんが嫌なら別に、その、無理しなくてもいいんですけど……」


「?」


 不思議ふしぎな動きに私が首をかしげると、谷倉さんが続けて言う。


「あの、バトンを渡すときに、真理まりって……名前で呼んでくれたのがうれしくて、その……」


 他にも、ごにょごにょもにょもにょと言っているけれど……まあ、つまり。


「……じゃ、打ち上げに行こうか、真理」


 私がそう笑って手を差し出すと、ぱあっと破顔はがんした真理は、


「……はいっ! 行きましょう、準!」


 と私の手を取った。


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