第26時限目 競争のお時間 その62
『閉会式を行います』
放送を受けて、グラウンドに生徒たちが並ぶ。
体育祭の全種目が終わったから、後は表彰のみ。
『クラス対抗リレー、優勝は……3のA』
体育担当の先生が私たちのクラスを呼ぶと大きな歓声。
……ビデオ判定の結果、身長差のお陰でギリギリ私の方が先にゴールしていたらしい。
こんなところで自分の身長が活かせるとは思っていなかったけれど、兎にも角にもクラス対抗リレーは優勝だった。
『代表の方は壇上に上がってください』
体育の先生の言葉を聞きながら、まあこのリレーのとりまとめはずっと真帆だったし、彼女が行くのが常道だろう……と思っていたら、何故か先頭の方から、まるでドミノ倒しみたいにぱらぱらとクラスメイトたちがこちらを振り向く。
今は50音順で並んでいるから、先頭は羽海でその次が真帆。
つまり、このドミノの発端は羽海か真帆か、はたまたどっちもか。
一応、私じゃなくて谷倉さんという可能性も考えて、後ろに視線を受け流そうと振り向いたけれど、直後に前の方から私の名前を呼ぶような声もするし、後ろの子たちは誰も乗ってくれず、じーっとこっちを見ているから、しゅんとして前に向き直る。
更に言えば、
「小山さんを呼んでいるようだよ」
と私の後ろの桜乃さんが背中を突くし、
「どう考えても準」
と前に立っている華夜も振り向いて、当然とばかりに言う。
「いや、でも――」
『あのー……代表者の方は……』
先生がちょっと困った表情でいると、何やら前の方で声がして。
『……え? あ、はい。えっと、代表者の小山準さん、登壇してください』
その放送の直後、先頭の2人が振り返ってニッと笑う。
……やっぱり、ドミノの主犯格は2人だったみたい。
仕方がないから、渋々先頭に向かうと、リレーのメンバーに限らず全員がこちらを見ているから、苦笑しながら皆の横を抜けて、朝礼台に上がると、目の前に理事長さんが居た。
『表彰状授与。クラス対抗リレー優勝 3のA』
大体、こういう表彰状はフォーマットが決まっているのだろうと思うけれど、理事長さんがさらさらと読み上げ、
『西条学園学校長……表彰者代理、理事長、太田真雪』
と締めくくった。
周囲の拍手と共に、理事長さんから差し出された賞状を受け取る。
「おめでとうございます、随分頑張っていましたね」
理事長さんがマイクに拾われない程度に、こそっと言う。
「えっ? ……あ、はい。どうしても勝たないといけなかったので」
私が声量を落として言うと、
「勝たないといけない?」
と目をぱちくりさせた理事長さん。
「あ、えっと……心構えみたいな話です」
私が笑ってそう返した。
「そうですか。ただ、少々目立ちすぎているきらいがありますね。気をつけてください」
「え? 気をつけるってどういう――」
『もう1度、大きな拍手をお願いします』
司会の先生の言葉で皆が拍手をするから、私は質問を打ち切って、振り返って一礼した。
目立ちすぎている……というのは確かにそうかもしれない。
それに、おそらく気をつけるというのは性別を偽っているから、あまり人の注目を浴びすぎないようにという意味だろう。
……あの、美歌さんの知り合いの宇治田さんにも男だってバレていたし、もしかすると見る人が見たら思っている以上に分かってしまうものなのかもしれないから……という意味も含んでいるんだろうか。
列に戻ってからも理事長さんの言葉が頭の中でぐるぐるしていたけれど『これで閉会式を終わります』の言葉で、すぐにクラスメイトが集まってきたから、私は思考を強制終了した。
「あ゛り゛か゛と゛う゛ご゛ざ゛い゛ま゛す゛ー……」
涙声のせいで、全て濁点になっている谷倉さんに苦笑しながらも、
「勢いで“勝つ!”って言っちゃったし、ね」
と私は答えた。
「まー、準ならやると思ってたけどね」
「とは言いつつ、マジであそこまでやるとは思ってなかったけど!」
腕を組んだ真帆と、私の背中をバンバンと叩いて笑う羽海はそう言うし、
「やるじゃねーか! マジでアレは痺れたぞ」
「マジマジのマジで最の高の高だったじゃん!」
と星歌と晴海が両脇からどーん! とぶつかってくるし。
「あはは、ありがとう」
私はもみくちゃにされながら、感謝の言葉を返す。
「よっしゃ、今日はどっかで打ち上げしようぜ!」
「この人数だとカラオケ……あ、いや、寮のあの部屋でやったら良くね?」
「あの部屋って?」
真帆たちが先に教室に戻っていくのを見て、私もついていこうとすると。
「あの、3のAのアンカーの人だよね?」
後ろから、知らない声がした。




