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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その60

 スタートは予想通り、真帆まほ快走かいそうから始まった。


 スタートダッシュが決まったのと、真帆が言っていたように第1走者には陸上部が居なかったことが幸いしたのか、2位以下とぐんぐん差がついていく。


流石さすがだな」


 ぶっちぎっていく真帆を遠目に見ながら、星歌ほしかが称賛の言葉を漏らす。


「……って星歌! もう次なんだから早くコースに入らないと」


「おう、分かってるって」


 私の言葉に、星歌がびをしながらレーンに入った。


 少しだけスピードを落として、走り込んでくる真帆が星歌にバトンを渡す。


「よろしくっ!」


「おうよ!」


 しっかりバトンを受け取った星歌がけ出した。


『3年のリレーはトップがAクラスで第2走者がスタートしました。続いて、2位がEクラス、3位のBクラスも第2走者が準備じゅんびしています』


 放送を聞きながら他の走者を見ていると、さっき3位だったらしい3のBの第2走者が猛然もうぜんと追い上げ始めた。


「お疲れ様、かなりリード作れたね。ところで、あの……3のBの速い子って陸上部?」


 ようやく息が整ってきたらしい真帆に聞く。


「ん? ……いや、違うね。テニス部で見たことがあるような気がするけど、少なくとも陸上部じゃない」


「そっか。結構早いから陸上部かなと」


「まー部活によるけど、体力づくりで走るところも結構多いし、運動部はそこそこ走れる子は居ると思う」


 それに、と付け加えてから真帆が続ける。


大隅おおすみは部活とかやってないんでしょ? それで、あれだけ走れたら十分じゃん?」


「うん」


 そのまま星歌が走ってきて、第3走者の羽海うみに交代。


 羽海が走り出した瞬間、わぁっと歓声かんせいいた。


 芸能人、それも今をときめく有名人だからだろうとは思うけれど、羽海が最初、クラス対抗リレーに出るのに難色なんしょくを示していたのも理解できる程度には注目度は高かった。


 バトンを渡し終えて、私たちの方に向かってくる星歌だったけれど、その後あまり時間を置かずに次の走者が走ってきたのをちらっと見て、


「……結構縮まってたのか」


 とつぶやいた。


「お疲れさま。まあ、相手は運動部だからね」


「運動部……って言うってことは陸上部じゃねーのか。それでもあんなに縮められたってことは……くそっ、やっぱり走り込みが足りねーか」


「リレーのときだけ走り込んだって、勝つのは難しいって。そのまま1位で受け渡しただけでも上出来じゃん?」


「……」


 真帆の言葉に、一応の納得はしつつも、それでも何も言えずくやしそうな星歌だった。


雨海あまがいもなかなか頑張がんばってる……けど、やっぱ陸上部相手だと辛いね」


 真帆の視線の先を見ると、羽海と後ろのランナーとの距離が更に縮まっていた。


一騎打いっきうちか……」


「いや、も一つ後ろの3のB、4番目と5番目が陸上部だから3チームかな……てか、次で追いつかれるかも」


「マジかよ!」


 話に上がっていない3のCとDとはかなり差がついていて、真帆が言った通り実質3チームで争う形になっている。


 まだギリギリ1位とはいえ、もう真帆が作ったリードを守りきれないかもという状況で、相手には更にボスとラスボスくらいの子がひかえているという話なのだから星歌が嘆息たんそくするのも理解できる。


「後は準と……あいつだろ? 大丈夫かよ」


 星歌がレーンで待っている谷倉たにくらさんを見て言う。


「元々、陸上部が同じクラスに2人居ることは分かってたし、そこは仕方ない。準は大丈夫だと思うけど……谷倉は正直分かんない」


 私たちからの視線に気づかず、準備を続けていた谷倉さんだったけれど、


「谷倉ーっ!」


 と羽海が大声で近づいてきて、背伸びをしゃんと伸ばした。


「は、はいっ!」


「後は頼んだ!」


 そう言って、バトンを渡す。


「分かりましたあぁぁっ!」


 後ろ手にバトンを受け取った谷倉さんは猛ダッシュ。


 息を整えつつ冷静になった羽海が、はっとして言う。


「……ってしまった! ちょっと気合入りすぎたせいで、あおりすぎた!?」


 やっちゃった? と視線で私たちに問いながらもどって来る羽海。


「お疲れ様。まだ分からないけど……」


「こりゃ駄目だめかもなあ」


 星歌があきらめムードで言うと、じっと谷倉さんを見ていた真帆が意外そうなトーンで言葉を発した。


「いや、見る感じまだ余力はあるっぽい。最初だけ急加速したけど、それ以降ちゃんと速度調整してるし……実は結構トレーニングしてたんじゃない?」


「トレーニング……」


 1週間以上前の放課後の個人練習は知らないけれど、ここ数日の様子を思い返すとリレーの練習らしい練習はほとんどしていない。


 どっちかというと、谷倉さんの場合は体力トレーニングというよりライブという心の山場をえられたことに対する精神的余裕や私との確執というか、まあ色々あったところが解決したから、気負わなくてすむようになったというのもあるかもしれない。


「ってかさ、後ろの陸上部とほとんど距離変わってなくない? やるじゃん、谷倉!」


「マジか? ……マジだ!」


 興奮した様子の羽海と星歌。


「谷倉さん、すごい」


「って準! すぐに出番だから早く準備して!」


「あっ、うん!」


 谷倉さんの激走をぼんやり見ていたけれど、真帆の言葉で我に返り、あわてて準備をする私。


 コースに入って、ストレッチと深呼吸。


小山こやまさぁぁぁぁぁん!!」


 谷倉さんが全力で走ってくるのが見える。


「こっちこっち!」


 手を振って私も構える。


「お願いします!!」


 谷倉さんの言葉と共に、私が後ろ手に出した手でバトンを受け取った……いや、受け取ろうとした瞬間だった。


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