第26時限目 競争のお時間 その59
『クラス対抗リレーの参加者は入場門に集まってください』
私と谷倉さんが他の3人と合流して、軽く体を動かしているとそんな放送が流れ始めた。
「結局、あまり練習出来なかったなあ」
放送に耳を傾けている私がそんなことを言うと、
「準が食べ過ぎるからじゃん」
とジト目の真帆が私に返す。
「……ごめんなさい」
「ま、それはさておき。練習自体は各自やってるから良いと思うけど、反則負けしたらどれだけ頑張っても意味なくなるから、絶対に守って欲しいってことだけ教えとく」
そう切り出してから、真帆が覚えておくべきことを3つ説明してくれた。
1つ、他人を妨害しないこと。
「まあ、これは当然。意図的にやるヤバいのは居ないと思うけど、バトンを落とした後で拾う際に誰かにぶつかった場合も反則になるから、これだけは絶対に、マジで気をつけて」
2つ、テイクオーバーゾーンでバトンを受け取ること、ただしあくまでバトン自体の位置なので、バトンがテイクオーバーゾーン内にあれば、体が外に出ていてもセーフ。
「……って言ったんだけど、ぶっちゃけそこまでギリギリで受け取る必要ないから、ちゃんと全員テイクオーバーゾーン内で待ってから、バトン受け取って」
3つ、バトンを落としたとき、次の走者が完全にバトンを受け取った後では受け取った側が、バトンを受け取る前に落とした場合は渡した側が拾う、ただしバトンを落とした地点まで戻ること。
「これも重要。例えば、あたしが大隅にバトンを渡そうとしたとき、大隅がバトンを握って走り出した後に落としたら大隅が拾う。バトンを握る前に落としたらあたしが拾う。で、バトンを受け取れなかったら、そのとき大隅は動かないで。下手に動いてテイクオーバーゾーン越えたら危ないから」
「い、意外と厳しいんだな……」
3つのルールを聞いた星歌が少し考え込んだけれど、その様子を見て真帆が笑った。
「そうでもないって。ぶっちゃけ、リレーはバトンを決まった範囲で、ちゃんと受け渡ししてから走りなさいって話だけ。つまり、バトンを持たずにゴールに近づいたって見做される行為は全部ダメ。だって、そうしないとリレーのバトンの意味、なくなるじゃん?」
「……なるほどな」
真帆の説明で、星歌は完全にとはいかないまでも、納得がいったような表情になった。
「で、バトンパスだけど、正直ちゃんと受け渡し出来るならどういう渡し方でもいい。でも、どうやって受け取るつもりかってことはちゃんとバトンを渡す相手と話しといて。振り向いて上から受け取るか、下から手を出して受け取るかとかね。本番は焦るし、何より渡す方は全力で走ってくるから、練習よりもバトンパス失敗しやすいんだよね」
「確かに……あ、谷倉さん。私はこんな感じで、後ろ手にバトンを受け取りたいから、下に出してもらえる?」
実際に手を後ろ向きに出しながら私が言うと、谷倉さんは元気よく「分かりました!!」と答えてくれた。
「で、谷倉。アンタはどっちで取る? ってか左手? 右手?」
羽海の言葉に、一瞬緊張しながらも、
「は、はいっ! 私も左手で、下でお願いします!」
と回答する。
「ん、了解。ま、やるからには全力で……っていうか勝たないとね」
そう言って、羽海が口元にピースサインを当てつつ、不敵に笑った。
……皆、気合十分だなあ、なんて思いながら入場門に近づくと、丁度二人三脚の参加者がゴールしているのが見えた。
そういえば、華夜と千華留はどうだったんだろう……残念だけど見られなかったな。
「き、緊張、し、しますね……」
言葉通り、表情もガチガチに緊張している谷倉さんに、私は苦笑した。
「ライブのときよりは気が楽じゃない? 観客数だけで言えば、確かにライブよりも多いけど、ライブほど長くは続かないし、他のクラスの子も居るから自分だけ見られるわけじゃないし」
「そ、それはそうなんですけどぉ……分かってても、緊張はするんです!」
「なるようにしかならねーだろ」
私と谷倉さんの言葉に、素っ気ない星歌の言葉が割り込む。
「う、うう……」
ぴしゃりと言い捨てられた谷倉さんが更に落ち込んでいる表情を見せると、ひょこっと出てきた、この場を収める救世主が。
「あ、だいじょぶだいじょぶ。星っち、ああ見えてめちゃ緊張してるから、いつも以上にぶっきらぼうなだけじゃん? つまりー、皆同じってことー」
「んなっ、晴海てめー!」
心境をバラされて、恥ずかしいんだか腹が立ったんだか、星歌が頬を赤く染めた。
「んなっはっはー。じゃねー、5人共、ガンバー」
退散した晴海と、苦笑した私を見て、谷倉さんもようやく落ち着いたみたい。
まあ、星歌は不満げだったけれど。
よし、と気合を入れて再び校庭の方に向き直ると、丁度退場してきた二人三脚のメンバーが居て、その中に華夜と千華留の姿もあったのだけれど、目が合った瞬間、2人共ほぼ同時にバツのマークを作った。
どうやら駄目だったみたい、残念。
しばらくコースの整備が入って、ようやく私たちが入場。
全員がトラック1周ずつ走るから、皆スタートもバトンを受け取る位置も同じ。
「それじゃ、頑張りますかー……あ、ちなみにだけど、やっぱスタートに陸上部は居ないね」
ちらっと他のメンバーを確認した真帆が、後半だけこそっと私たちに言ってからスタートラインに並ぶ。
とすると、真帆が最初に作ってくれたリードをどれだけ保てるか、というのが鍵になるのかな。
1周だから、ずっと全力で走るのは難しい……と考えるとやっぱりある程度、速度も体力も調整をしながら走らないと。
「では、位置について……」
合図を担当する先生がピストルを空に向けて構える。
「よーい――」
乾いたピストルの音が空に響く。




