第26時限目 競争のお時間 その58
「確かにちょっち競技の数が少ないかもねー。ところで、二人三脚は出るの、誰だっけねー?」
「あの2人でしょ? 凸凹コンビの」
「凸凹コンビ?」
何気なく発せられた真帆の言葉に首を捻る私。
言葉から誰なのか連想出来そうになかったから、まだクラスで出てない子という括りで思い出そうとしたら、
「準の方が仲良いでしょ? 園村さんと工藤」
と真帆が補足してくれた。
「…………ああ!」
そういえば、確かにあの2人が残っていた。
仲が良いとはいえ、2人共あまり運動は得意そうではないけど……大丈夫だろうか。
……なんて他人の心配をしていたけれど、良く考えたらこの2人が終わったら私たちももう出番。
「準備運動始めとこっか」
立ち上がって、軽くストレッチを始めた真帆がそう言ったのだけれど。
「も、もうちょっと待って……」
そう言った私を、真帆はちょっと呆れた顔で見る。
「勧められたもの全部食べてたし、そうなるかなって思ったけどさ……」
「準にゃん、そんなにー?」
「あ、あはは……ご、ごめんなさい」
だって、出されたものは全て食べた方がいいかなって思ってしまったから。
「ま、とりあえず他のメンバーを先に――」
「おー、居た居た」
真帆がきょろきょろし始めた直後、遠くから声が掛かる。
「そろそろ準備かと思って、探してたんだが……って準、どうしたんだ? こんなタイミングで体調不良か?」
「大丈夫?」
ストレッチを始めた真帆とは対照的に、まだぐてっと座り込んでいる私を見て、星歌と晴海が私の方を不安そうに見ていたけれど、真帆が溜息を吐きながら事情を説明する。
「いーや、ただの食べ過ぎ。うちの親とかから差し出されたおかず、真面目に全部食べたせいで、お腹がいっぱいになって動けないんだってさ」
「なんじゃそりゃ。心配して損した」
「あっはっは、こやまん、ないわー」
じっとりした目で私を見る星歌とお腹を抱えて笑う晴海。
う……本当のことだから言い返せない。
「しかし、どうすんだよ。準が駄目なら、もうどうしようもないぞ?」
「大丈夫……今すぐ事前練習がきついって話であって、もうちょっと休憩すれば大丈夫だから」
「本当かぁ?」
疑いの眼差しで私を見る星歌。
「ま、とにかく後の2人を……あ、そうだ準。休憩しててもいいけど、谷倉に連絡しといて。何処に居るか分かんないからさ」
「ああ、うん、分かった」
多分、いつものところかなと思いつつも、私はスマホを取り出す。
「ってか、雨海の方も分かるならついでに連絡してくれない? そういえば、あたし雨海の連絡先、知らなかったわ。流石にクラスのグループで雨海呼ぶのもまずいしさ」
「羽海の方は今コミューで『何処行けばいい?』って来てたよ」
「じゃあ、入場門の近く、校舎側寄りの方に来てって連絡しといて。そこで練習するから」
「ん、了解」
私はスマホで真帆の言葉を入力する。
「で、準もお腹が落ち着いたら来て。バトンないからパスの練習は出来ないけど、違反とかになる行為とかだけは全員で確認しときたいし」
「分かった」
真帆の言葉に頷いたら、真帆、星歌、晴海の3人は入場門の方に向かった。
「準、大丈夫?」
残された私に、花乃亜ちゃんが尋ねる。
「ああ、うん。大丈夫大丈夫。いっぱい食べたせいで負けた、なんてことになったら、むしろ正木さんと真帆のご両親にも申し訳ないし。とりあえず、ストレッチだけしておくよ」
お腹に負担が掛からないストレッチを優先的にしていると。
「あ、小山さーん!」
いつもの元気パワー全開の谷倉さんが、その元気を示すように片手をぶんぶん振って近づいてきた。
コミューでは最初に『入場門へ集まって』と書いたのだけれど、私がまだ向かっていないとも追加で書いたら、あのメンバーが居る場所に、1人で行くのはちょっと……と返信があった。
ということで、まずこちらに合流してもらうことにした。
「谷倉さん、準備運動は終わった?」
「はい! 何かうずうずしてて、ずっと走ってました!」
「そ、それは逆に大丈夫……?」
「はい! 本気では走ってなかったので大丈夫です!」
どっちかというと、谷倉さんは短距離走向きっていうか、体力はあまりないイメージだったから。
ただ、息切れしている様子はないから本人が言う通り、大丈夫なのだろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか。もうあまり、練習の時間はないと思うけど」
まだお肉とかお米がお腹に溜まっている感覚はあるけれど、流石にもう、そうは言っていられない。
「はい!」
「いってらー」
「いってらっしゃい」
「頑張ってください!」
皆に見送られて、私と谷倉さんは真帆たちと合流するため、入場門に向かった。




