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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その56

 審判しんぱんらしい先生も、正木まさきさんも、その他ゴールした他の生徒たちも見ている中で、やらないという選択肢せんたくしはなさそうなので、素直に正木さんの体に手を添えて、持ち上げる。


「い、いきますよ?」


 そう声を掛けてから、ぐっと正木さんを引き寄せて、持ち上げる。


 見た目以上に軽くて、少しふわっと良い香りが――


「はい、大丈夫です……あの、大丈夫ですよ?」


「…………えっ!? あ、は、はい! そうですね!」


 時間としては多分数秒だったはずと思うけれど、一瞬意識が宇宙外にまで飛んでいったように心ここにあらずだった私は、自分を取り戻してすぐ、はっとして正木さんを下ろした。


 下ろされた正木さんも、満足そうな表情とちょっと物足りないような表情が混ざったように見えたけれど……うん、気のせいとしておこう。


 ”借りられる側”は出番が終わったらすぐにもどって良いようだったので、私は真帆たちが待っている場所に向かった。


「おつかれー。で、何だった?」


「ここからだと、お姫様抱っこしてるように見えた気がするんだけどねー?」


 苦笑しながら、私は事情を説明すると、2人も同じく苦笑を返した。


「ホントにお姫様抱っこだったワケね。マジで借り物じゃなくて借り人じゃん」


「でも、確かにこれはじゅんにゃんで良かったのかもねー。アタシたちじゃちょっときつかったし」


「それはマジでそう。あたしたちじゃ無理だったよね。前にやったことあるけど、ギリギリ持ち上げられるかどうかくらい」


 結構軽いと思ったけれど、やっぱり2人にはきついのかな?


「で、2番目は……だれだっけ?」


「確か、花乃亜かのあちゃんだったかな」


 私がそう言って、陸上のトラックの中央辺りを見回すと、出番を待っている花乃亜ちゃんが見えた。


「花乃亜……ああ、六名むつなちゃんかー」


「これでまた、準が選ばれたら面白いけどね」


 笑う真帆が不穏ふおんなことを言う。


流石さすがにそれはないと思うけど……」


 とは言いつつも、絶対にないとは言い切れないよね……と思っていると真帆が「あ、そういえば」と話題を変えた。


「これ終わったら昼食の時間だよね? 2人共、親は来てる?」


「あー、私は益田ました……寮長さんから個別にお弁当をもらってるよ」


 そう言って、私は風呂敷ふろしきに包まれたお弁当を見せる。


「あれ? お父さんとお母さんは?」


「あー……うん、来れないっぽい。というか、高校に入ってからは来てないし……」


 半分は本当、半分は嘘。


 嘘の方は「来れないっぽい」っていうこと。


 実はそもそも連絡もしていない。


 だって、学校に来てしまったら明らかに女性比率が高くておかしいって気づいて……ってあれ? ちょっと待って。


 よく考えると文化祭のときにはお母さん、学校に来てたんだっけ?


 あのときも呼んではなかったんだけど……い、いや、それはさておき、文化祭は参加者が男女どちらも多かったから、気づいていないようだったし。


 でも、体育祭は文化祭の出店でみせみたいに、来た人が参加出来るわけではないから、参加者の男女比率は今まで以上に極端……というか、参加者全員女子ということで気づいてしまってもおかしくない。


 ということで、そもそもお父さんとお母さんを呼ぶのは止めておいた。


 もう半分の……本当の方は、高校に入ってからは親が来ていないということ。


 仕事が忙しくて来れないことが多くて……中学くらいまでは来てくれていたけれど、高校に入ってからは全然だった。


 まあ……あの高校に居たときの体育祭はある意味で罰ゲームみたいなものだったから、来てほしかったかというとそうでもなかったのだけれど。


 そんなことを考えていたら、ふと都紀子の家のことを思い出した。


「そういえば、都紀子ときこのところは……?」


「ん? あー、えっと……あはは、今年は2人共来るってさー」


「2人……ってことは、あのお母さんも?」


「そゆことー」


 都紀子がちょっと恥ずかしそうな、うれしそうな表情で続けた。


「あのときからき物が落ちたように……とまではいかないけど、結構優しくなったというか、ちょっと距離感をまだ測りかねてるけど刺々(とげとげ)しさはなくなった感じだねー」


 よく考えると、都紀子のお母さんはそもそも都紀子のことを嫌っていたわけではなく、愛ゆえの暴走みたいなものだった気がするから、不思議はないかな。


「なんで、ご飯は家族で食べてくるよー。お祖母様おばあさまは準にゃんに来てほしそうだったけど、今のお母様はまだちょっと会わせない方がいいかなーって」


「それは……そうだね」


 あれほどのことを言った相手を、そう簡単に受け入れることは出来ないだろうし。


「なら、うちのとこ来る? 弟たちも来てるしさ。準が来た方が――」


「準、来て」


「…………えっ!?」


 全く気づいていなかったけれど、いつの間にかすぐ横に花乃亜ちゃんが立っていて、座っている私を見下ろしていた。


「来て」


「あっ、はい……」

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