第26時限目 競争のお時間 その54
ちょっと前にスタピのライブが終わったと思ったら、いつの間にか体育祭で、何だか全くといっていいほど気が休まらないなあというのが本心だったのだけれど。
『今から、体育祭を開催します』
理事長さんの体育祭の開会宣言を聞きながら、拍手する私。
選手宣誓は知らない女の子がしていたけれど、多分生徒会長なのだろう。
……生徒会長って萌ではないんだ、とちょっと思ったり。
まあ、もし生徒会長だったら、今まで以上にややこしいことになりそうだけれど。
「クラス対抗リレーは最後だから、準にゃんと真帆ちんは最後だし、紀子ちんも借り物競争だからまだまだ出番は後かー。じゃあ、お先に行ってくるねー」
「いってらっしゃい」
クラス単位でブルーシートが敷いてあって、基本的には集まって座るように言われているから、いつもの4人で集まって座っていたのだけれど、最初の競技である100m走参加者である都紀子が早速立ち上がって手を振りながら、入場門に向かう。
「しかし……うちの学校、体育祭のプログラムって案外少ないよね」
手を振り返していた真帆が手を止めて、プログラムに視線を落としながら読み上げる。
「100m走、400mリレー、玉入れ、障害物競走、借り物競争に二人三脚で、最後にクラス対抗リレー」
「7つもあれば十分じゃない? クラスの人数少ないし」
各学年4~5クラスくらいで1クラスは20人前後、3学年合せても300人は切る。
多いか少ないかというのは難しいところだけれど、前の高校からすると結構少ない方。
それでも “体育祭らしい競技”は十分考えられてるんじゃないかな。
「少ないってのはそうなんだけどさ。何か、文化祭に比べてしょぼいっていうか……」
ちょっと不満げな真帆。
真帆が言いたいこともちょっと分かる。
文化祭は各クラスで出し物を大々的にやるにも関わらず、体育祭はもっと早い時間から始めて、お昼を少し遅めに取れば、お昼の時間を確保しなくても終わるのでは? と思う程度には短い。
「そういえば、他の学校だと体育祭に皆でダンスすることもあるらしいですよ」
プログラムを覗き込んだときに下がってきた髪を耳に掛けて、正木さんが言う。
「ダンス? 体育祭なのに?」
真帆が物珍しそうな表情で、正木さんにハテナを返した。
「むしろ、体育祭だからじゃないかな。学校によってはダンスの授業があるみたいだから」
「ダンス……ダンスかー。あたしあまり音感ないから苦手なんだよね。準は文化祭でミュージカルやってたけど、元々ダンスとか習ってた?」
「ううん、全然。全部教えてもらって頑張った」
練習も結構したなあ。
「え、マジで? 準ってホント、何でも出来るよね」
「そうですね、凄いです」
「いやいや、そんなことないよ。演劇部の部長さんとか、色々教えてくれる人が居たから」
もちろん、練習もしたけれど、長嶺さんとか合唱部の部長……そういえば名前、聞いてなかったっけ?
とにかく、そういう人たちの教え方が上手だったのもあると思う。
「あたしは普通に、走ったりボール追いかけたりの方がいいなー。ってか、うちって球技大会とかもないよね。やっぱ体育系、軽く見られてない?」
「うーん、その辺もクラスの人数とかその他色々な事情じゃないかな。特に球技は人が集まらないと難しいものも多いし」
私が苦笑しながら真帆の不満を宥めていると、陸上用のトラックの方を向いていた正木さんが声を上げた。
「あっ、始まりましたよ。片淵さんが走ってます」
「マジ? ……お、結構いい感じじゃん」
都紀子はものすごく早いというわけではないものの、あまり失速せずに2位でゴールした。
「凄いね、都紀子」
「うん。1位は陸上部だったし、あれなら十分でしょ」
「あ、陸上部だったんだ。かなり早かったもんね」
私の言葉に頷く真帆。
「そう。それも短距離専門の子」
「え、それならなおのことだね」
「でも、準にはラスト、勝ってもらわないと」
「えー……」
真帆はそう簡単に言うけれど、責任が重大すぎないかな……。
特に陸上とかやっていたわけではない人間に、アンカーでしかも陸上部の子に勝つっていうのはなかなか大変だと思うのだけれど。
「心配しなくても、準ならちゃんと全力出せば勝てるって」
「そうかなあ……」
私が首を捻っていると、
「いやー、まいったねー。1位の子、早くて全然追いつけなかったさー」
と都紀子が両手を空に向けて、やれやれのポーズで帰ってきた。
「おかえりー。あの子、陸上部だから仕方ないって」
「あー、なるほど、道理でねー。あ、ちなみに3つ後くらいに太田さんが100m走るってさー」
一部の競技は2グループ、同じ競技を実施するようになっている。
こういう水増し感があるのも、真帆が体育祭に不満を持っているところなのかもしれない。




